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内モンゴルに見る少数民族対策

憲法にも反する中国語授業の押し付け
「第2のウイグル化」懸念する声も
気になる中国政府の“強引さ”

中国の動きが何かと注目されている。9月の新学期を前に内モンゴル自治区で打ち出された小中学校各1年の国語教科書をモンゴル語から公用語(標準中国語)に変更する動きもその一つ。習近平国家主席が描く「中華民族の偉大な復興」に向け、中華民族としての共同体意識を植え付けるのが狙いと見られるが、言語や文化は民族の誇りであり、モンゴル族の住民や学生は激しく反発している。

“強引な同化政策”とする国際社会の批判も広がっており、共同電は中国高級幹部の子弟グループ「太子党」の一部が「第2のウイグル自治区になりかねない」と懸念する公開書簡を連名で提出したと報じている。習国家主席も元副首相を父に持つ同じ太子党で、ある意味、身内から内モンゴル政策に疑問が投げ掛けられた形だ。

中国の経済・軍事力が急成長し、米国との覇権争いが本格化する中、国内の緊張感、一体感を高める思惑があるのかもしれないが、国家安全法施行による香港の民主化勢力封じ込めと同様、中国に対する国際社会の警戒感が一段と高まるのは必至。それを承知で、あえて強硬策に踏み切る背景にはどんな事情がるのか、疑問は尽きない。

中国語への切り替えは、8月、唐突に地元政府が発表した。来年以降、さらに道徳・法治(政治)、歴史科目の授業を順次、中国語に切り替える方針とされる。モンゴル族の住民や学生が「母語であるモンゴル語が失われかねない」「漢族中心の文化の押し付け」と反発、抗議デモや授業ボイコットを続けている。米ニューヨークに本拠を置く「南モンゴル人権情報センター」は8月下旬以降、4000人を超すモンゴル族が拘束されたと発表している。

公用語(中国語)の強制は小中学生に、中華民族という共通意識を持たせ中国共産党の価値観を浸透させるのが狙いといわれる。中国外務省の報道官や地元政府は「公用語は国家主権の象徴であり、これを学び使うことは、人々の権利であり義務だ」、「モンゴル語と公用語を使う教育体系に変わりなない」としているが、少数民族の言語や文化を消し去る政策に、誇り高いモンゴル族が反発するのは当然の結果でもある。

中国人民共和国憲法第4条には「いずれの民族も、自己の言語・文字を使用し、発展させる自由を有し、自己の風俗習慣を保持し、又は改革する自由を有する」と明記され、同民族地域自治法38条も「各民族の言語と文字の使用を保護する」と規定している。中国人民共和国教育法も「少数民族を主とする学校など教育機関では、実際の状況に応じて、国で通用する言語と地元で通用する言語の両方を使って双語(2つの言語)教育を実施する」と記され、少数民族文化との“共生”に配慮している。

中国人の知人は「中国政府の教育部が習政権の方針を過剰に忖度した可能もある」というが、同様の制度は2017年に新疆ウイグル自治区、翌年にチベット自治区でも導入されており、内モンゴルで同じ政策を導入することで3自治区の足並みをそろえた感がある。

3自治区の面積は中国全土の41・3%。国境に位置するこの地域は歴史的にも中国本土の安全を左右してきた。近年は石油や希少金属、天然ガスなど戦略物資の埋蔵地域として重みを増している。新疆ウイグル自治区では百万人を超すウイグル人が強制収容され、6月、中印両国軍が45年ぶりに衝突した国境紛争では、死亡したインド軍兵士の棺にインド国旗とともにチベットの「雪山獅子旗」がかけられ、インド軍にチベット兵部隊が存在することが裏付けられた。地域の緊張感は一段と高まっている。

内モンゴルの人口は2017年時点で約262万人。モンゴル族の17%に対し、漢族は移住政策で79%に増え商業や行政の中枢を占める。ともすれば底辺に追いやられたモンゴル族の“抵抗”はさらに強まる。「中華民族の偉大な復興」という「中国の夢」を追う中国と、これを抑え込もうとする米国の対立も一層、激しさを増す。民族対立や所得格差が深刻化している点で両国は似ている。

国際社会の批判に対し中国政府は「あくまで内政問題だ」と反発しているが、「上から目線」でさらに圧政を強めれば、モンゴル族の不満と反発は一層、深く水面下に拡散する。穏やかな「双語教育」で少数民族との共生を図ることこそ賢明な策だと思う。中国政府の“強引過ぎる姿勢“の背景にどんな事情と狙いがあるのか、今後の展開も含め気になるところだ。

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