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給料を下げれば国民からは歓迎されるけれど

電気値上げ、年収カット条件 経産省「大企業並みに」(朝日新聞)

 経済産業省は、電力会社が家庭向け電気料金の値上げを申請した場合、社員の年収を社員1千人以上の大企業平均(596万円)並みに引き下げるよう求める方針を固めた。電力会社は社員の年収が800万円前後で大企業平均を大きく上回っており、2割を超える給与削減を迫られる可能性がある。

 電力会社は、東京電力福島第一原発事故後に止まった原発の代わりに火力発電を増やしている。このため燃料費がかさみ、原発の割合が高かった関西電力は29日、九州電力は30日にも、来春からの電気料金値上げを表明する見通しだ。値上げ幅はともに10%程度を軸に検討する。

 家庭向け電気料金は、発電や送電に必要な費用に電力会社のもうけを上乗せした「原価」(費用)をもとにはじき出す「総括原価方式」で決める。電力会社が値上げを申請すると、経産省の専門委員会で原価が適正かどうかを審査して最終的な値上げ幅が決まり、経産相が値上げを認可する。

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 この場合の「平均」が条件を揃えたものなのかどうか、ことによると「官民の給与格差」よろしく片方を大きく、片方を小さく見せかけるために条件の異なるところから抽出した「平均」なのか、ちょっと微妙なところですが、ともあれ電力会社は社員の年収が800万円前後で大企業平均を大きく上回っている云々と朝日新聞は主張しています。ただ、朝日が提示する数値を見るに東京電力の平均年収は既に「大企業」のそれを下回る水準まで低下しているわけです。人員削減や事故対応で一人当たりの仕事量は確実に増えているものとも推測されるところ、むしろ私であれば労働負荷に応じた賃金がしかるべく支払われているかどうかをチェックしたいですが、まぁ労働者の敵・民主党やそれに政権を取らせてしまうような人々からすれば、働く人の権利が侵害されることなどどうでも良いことなのでしょう。

 犯罪者に人権はない、などと得意げに語る連中と同じように電力会社の労働者としての権利を完全に無視している人も多いですけれど、こういうときこそ労組などは手を携えて立ち上がるべきではないかという気がします。しかるに、労働者のことより脱原発が第一、むしろ電力会社を叩く側に回って世間の歓心を買おうとばかりに振る舞っている組合も目立つだけに、存在意義を大いに疑われるところです。まぁ弱者同士で手を組むより、上手いこと立ち回って強者の側に身を置こうと、そういう振る舞いは別に昨今の労組だけに見られるものではないですよね……

 一般社員にまで経営責任を負わせようとするのが日本の企業文化という気がしないでもありません。自分の仕事さえしっかりやっておけば良い、では日本の社会人として通用しないわけです。日本の社会人たるもの、常に経営のことを考え、たかが有休を使うにもマネジメントの立場からの配慮を欠かさない、そういうものですから。そしてこうした労働慣行に何の疑問も持たず今後とも受け入れていこうとしている人にとっては、会社のために従業員の取り分を減らすのは至って自然なことなのでしょう。ゆえに、この冒頭で引用したようなケースも当たり前のように受け入れられるわけです。

 それにしても、一般に給与削減は経営側が望んで進めてきたものです。これを政府が公に後押ししてくれるとあらば、ある意味で会社にとっては「ご褒美」みたいなものでしょうか。働く人の取り分を減らそうとする人々と、それに抗う人々であれば、あるいはリストラを迫る人々と、それを押しとどめようとする人々であれば、いつだって私は後者の側を支持してきましたけれど、概ね世間は前者に声援を送り後者を罵倒してきたはずです。人員削減や給与カットは世論に添ったものだ、結果的にではあれ経団連などは民意の代弁者として振る舞っているなと、常々思います。

 「東京電力福島第一原発事故後に止まった原発」と朝日報道は書いていますけれど、これはどうなのでしょう。まるで事故のせいで他の原発まで止まったかのようです。そうではなく、国が強引に止めてきた、再稼働の条件も二転三転させて電力会社側ではどうにもできない状況を作ってきたわけです。そこに触れないことで責任の所在を曖昧にしていると言えるでしょうか。電力会社の赤字は政府の無策や脱原発論が招いたものでもあります。そのツケを電力会社の従業員に払わせようとしているのが今回の経産省の案なのです。

 働く人の取り分を減らして価格を抑える、そういう負の経済サイクルに慣れきった人にとっては当たり前のことなのかも知れません。しかし、取り立てて被害のある事故を起こしたわけでもない東京電力以外の電力会社の社員に、いったい何の罪があるのでしょうね。とかく給料が高いとされるところは叩かれる、給与水準が高いのは「悪」――日本で働く人々の賃金を引き下げてきた近年の「改革」が、なんだかんだ言って修正されることなく引き継がれているのも納得するしかなさそうです。

 代替的な補償を、我々の社会では「特権」などと呼ぶことが一般的です。在日外国人や公務員など、一定の権利が制限されている代わりに別の形での保護が付与されていることもあって、これが「特権」などと呼ばれてきたわけです。そして、あたかも「特権」だけが存在して、その特権とやらが何の代替なのかは無視するのもまた一般的と言えるでしょうか。電力会社の場合も然り、例えば電力会社には原則として「売らない」という自由がありません。普通の営利企業なら赤字になってまで製品(サービス)を売ったりはしないものですが、電力会社は需要に応じて供給しなければならない義務があります。もし日本の既存の電力市場が「採算の取れる範囲で発電できた分だけ売ります」みたいに自由化されているのであれば話は別です。しかし、「どんなに発電コストが上昇しても需要を賄わねばならない」という制限が課せられているのなら、その対価となる一定の権限は認められねばならない、それが特権と見なされるのはふさわしくないものと言えます。

 

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