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コロナ第二波に飲み込まれた欧州の悲劇 ベーシックインカム導入国も

[ロンドン発]欧州が新型コロナウイルスの第二波に襲われています。コロナ危機にもかかわらず、できるだけ「人の自由移動」を認めてきたことが欧州全域での感染再拡大を許してしまいました。感染爆発を防げなければ再び「医療崩壊」を引き起こすため、各国政府は夜間の外出禁止令を発動するなど警戒を強めています。

ボリス・ジョンソン英首相=AP

「われわれは直ちに行動しなければならない」英首相

「われわれは直ちに行動しなければならない」――ボリス・ジョンソン英首相はこう宣言し、14日からイングランドで3段階(中、高、最高)の地域的な「コロナ警報レベル」を導入しました。

(1)中(これまでの措置を継続)
7人以上の集まりを原則禁止(6人ルール)。飲食店は午後10時から午前5時まで閉店。学校、大学、礼拝所は営業継続。冠婚葬祭は参加者数を制限。イングランドのほとんどの地域が対象。

(2)高
屋内では世帯やサポート以外の人との接触禁止。移動の回数を減らす。バーミンガム、ボルトンなどイングランド北東部とミッドランドが対象。

(3)最高
パブ(大衆酒場)やバーを閉鎖。レストランは営業可。結婚披露宴は禁止。世帯やサポート以外の人との接触禁止。地域外への移動や宿泊は避ける。リバプールとその周辺が対象。

17日からロンドン、エセックス、ヨークなど8地域を「中」から「高」に引き上げました。その直前にヨークを訪れましたが、どの飲食店もコロナ対策が行き届いていたのに、それでも感染拡大を防げないのかと改めて新型コロナウイルスの感染力に驚きました。

マンチェスター市のアンディ・バーナム市長(労働党)は、ジョンソン首相が同市を「高」から「最高」に引き上げようとしていることに対し「『最高』への引き上げは雇用に大打撃を与える。痛みを和らげる財政支援が不可欠」と悲痛な叫びを上げました。

一方、キア・スターマー労働党党首は緊急科学諮問会議(SAGE)が提案する外出禁止・店舗閉鎖を伴う2~3週間の強力な措置「サーキットブレーカー」を導入するよう主張しています。

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北アイルランド自治政府は16日から飲食店の店内営業を全面禁止。ウェールズ自治政府は同日から、感染レベルが高い地域からのウェールズ訪問を法律で禁じました。スコットランド自治政府は飲食店での酒類提供禁止、職場の食堂や共用スペースでのマスク着用を義務付けました。

欧州連合(EU)離脱を巡り離脱派と残留派に二分されたイギリスは今回のコロナ危機で散り散りに分断されています。EU離脱後の交渉も難航、中央政府と各自治政府間の不信感はコロナ対応を巡っても一段と増幅しています。

ロザリンド・フランクリン研究所所長を務める英オックスフォード大学のジェームズ・ナイスミス教授は悲観的な見方を示しています。

「SAGEはウイルスの拡散を減らすという観点から全国的な封鎖が機能する可能性が高いと助言した。封鎖と社会的制限は深刻なダメージをもたらす。しかし最後には再び都市封鎖をしなければならないリスクがあり、対応が遅れた結果として封鎖期間が長くなる恐れがある」


欧州主要6カ国の1日当たりの新規感染者数は第一波を上回っている(Our World in Dataより)

自由放任が裏目に

欧州ではイタリアやスペインで「医療崩壊」を防げなかった第一波の反省から、検査態勢を拡充する一方で、医療へのアクセスを確保してきました。

イギリスでは十分な患者を対象にランダム化比較試験を実施し、重症患者にステロイド系抗炎症薬の一つ、デキサメタゾンが効くことを確かめました。デキサメタゾンを投与すると重症患者の死亡率は3分の1に激減しました。

イギリスだけでなく、ドイツ、フランス、イタリアなど人口が多い欧州主要6カ国を見ても1日当たりの死者が約1千人に達した第一波に比べ、第二波の死者は10分の1の100人程度に減っています。しかし新規感染者が拡大すれば入院患者は増え、最終的に死者は膨らみます。

欧州26カ国はパスポートなしで国境を越えることができるシェンゲン協定を結び、「人の自由移動」を認めています。そして多くの国が旧植民地と人のつながりを持っています。

イギリスはシェンゲン協定国ではありませんが、第一波が収束したあと、ホリデーで欧州各国に渡航するのを認めました。

人の行き来が活発になり、頻繁に接触するようになるとウイルスの感染拡大を止められません。コロナ危機で「人の自由移動」はある程度、抑えたものの、コロナ対策の優等生ドイツを含め欧州主要6カ国はいずれも第二波を抑えることができませんでした。

AP

フランスは「医療崩壊」の恐れ

「なすに任せよ(レッセフェール)」ではコロナの感染拡大は防げません。政府の強力な介入が不可欠です。アメリカや欧州で感染拡大を止められないのは欧米式の自由放任主義が最大の障害になっています。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は「私たちの集中治療サービスには持続不可能な圧力がかかっている」と危機感を募らせ、17日から最低4週間の衛生緊急事態宣言を全土に発動しました。

パリを含む9都市圏で午後9時から午前6時まで外出が禁止され、レストランや劇場、映画館が閉鎖されました。外出申請書や身分証明書の携帯が義務付けられ、違反者には135ユーロ(約1万7千円)の罰金。結婚式や学生パーティーは禁止。家族や友人の集まりも6人までです。

10月に入って感染者数が第1波のピークの倍近くまで再拡大したイタリアでも非常事態宣言を来年1月31日まで延長。公共交通機関を利用する際に限定されていたマスク着用を屋内外(住居を除く)で全面的に義務付けました。


欧州各国は医療崩壊や医療の逼迫が起きて超過死亡が増えないように警戒を強めている(Our World in Dataより)

超過死亡を防げ

第一波では、スペイン、イタリア、イギリス、フランスで大きな「超過死亡(死亡者が例年よりどれぐらい多かったかを示す)」が発生しました。医療崩壊や医療逼迫、高齢者施設での感染予防対策の失敗が原因でした。

新型コロナウイルス・パンデミックではコロナ感染による直接死のほか、普段通り治療を受けられないことによる間接死、メンタルヘルスの悪化による自殺など、さまざまな超過死亡が発生します。

感染が確認されたドナルド・トランプ米大統領は治験中の抗体カクテル、コロナ治療薬として承認を受けた抗ウイルス薬レムデシビル、デキサメタゾンの投与を受け、劇的に回復しました。しかし私たちが使えるのは安価なデキサメタゾンだけです。

ワクチンや治療薬の開発にはまだまだ時間がかかります。だからこそ社会的距離政策やマスク着用を徹底して新規感染者のピークを抑える一方で、病院や診療所での感染予防対策を徹底し、いつものように診断や治療を受けられる態勢を作る必要があります。

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ベーシックインカム導入国も

しかし最終的に都市封鎖を再び実施することになったら、最低限度の生活を保障するため国民全員に同額の現金を配るベーシックインカムの導入も視野に入れる必要があるかもしれません。パンデミックは第三波、第四波と続く恐れが十分にあるからです。

欧州ではすでにベーシックインカムの議論が活発に行われています。

【イギリス】
世論調査会社ユーガブ(YouGov)によると4月時点でベーシックインカムを支持する人は51%、反対は24%。エセックス大学のシミュレーションでは、生産年齢の大人について週196.59ポンド(約2万7千円)のコロナ対策ベーシックインカムが短期的に実現可能。これで子供の貧困を59%、生産年齢の成人の貧困を66%減らすことができる。

【フィンランド】
2017年11月から1年間、25~58歳の失業者2千人に月560ユーロ(約6万9千円)を配る。ベーシックインカム受給者の就業日数は6日間増え(平均就業日数は78日間)、生活の満足感が向上し、精神的緊張、うつ病、悲しみ、孤独を感じる人が少なくなる。

【スペイン】
今年6月から低所得者85万人を対象に月462~1015ユーロ(約5万7千~12万5千円)を請求できる事実上のベーシックインカムスキームを導入。年間予算は30億ユーロ(約3700億円)。スペインは子供の貧困率がEUの中で最も高い。

【ドイツ】
ベルリンを拠点とする慈善団体とドイツ経済研究所が3年間にわたって120人に月1200ユーロ(約14万8千円)を配る社会実験を開始。ベーシックインカムを支給された人がすべてのお金を使うのか、それとも一定の額を節約するのか、仕事を辞めるのか、それとも減らすのか、寄付するのかなどを調べている。

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