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繰り返された誤認逮捕|脱法ドラッグ問題

<ニュースから>*****
■脱法ドラッグ:女性を誤認逮捕 神奈川県警、9分後に釈放
神奈川県警多摩署は27日、川崎市多摩区の女性(39)を麻薬取締法違反容疑で誤認逮捕し、9分後に釈放したと発表した。簡易鑑定で脱法ドラッグをコカインと誤ったという。
同署によると、26日午後1時半ごろ、「助けを求める声がする」との近隣住民の110番で駆けつけた警察官が女性宅でポリ袋に入った白い粉末を発見。簡易鑑定したところ、コカイン用の試薬に陽性反応が出たため、現行犯逮捕した。だが、反応が通常より若干遅いことなどから9分後に現場で釈放。正式鑑定した結果、27日に「α−PVP」と呼ばれる脱法ドラッグと判明した。コカインと同様の症状を引き起こす薬物だが、この時点で違法ではなく、来月16日から薬事法の指定薬物として規制される。
三留秀樹署長は「大変申し訳ない。今後このようなことがないよう指導の徹底をはかる」とコメントした。
毎日新聞 2012年10月27日 20時41分(最終更新 10月27日 20時59分)
*****

●生かされなかった教訓
今年3月、警視庁管内でまったく同じパターンの誤認逮捕があったのですが、残念ながらその教訓が十分に生かされていないようです。このときも、簡易試験の結果、α-PVPをコカインと誤認して男性を誤って逮捕してしまったという経緯でした[下記参照①]。
今回は、捜査官が、簡易試験での反応の微妙な遅れに気付いたことから、比較的短時間で釈放されたといいますが、ただし「9分後」というのは、現場で簡易試験などを行った後で現行犯逮捕してからの経過時間で、警察官が最初に現場に到着してからものものしい数時間が経過した後のことです。

さて、ここで問題なのは薬物らしい物が発見されたとき、現場で行った簡易試験の結果に基づいて、現行犯逮捕するという現在の捜査手法です。現場で行われる簡易試験は、ほとんどの場合試薬による呈色反応で、たとえばコカインでは「コカインチェッカー」と呼ぶ3液タイプの試薬が用いられます。
コカインとα-PVPでは、作用感は似ているとはいえ、薬物の構造はまったく異なっているのに、なぜ陽性(擬似陽性というべきか)反応があらわれるのか、そのメカニズムは私にはわかりませんが、過去にも、まったく異質の薬物に対してこの試薬が陽性反応を示すという例がありました。

今春刊行した拙著『もう一歩踏み込んだ薬物事件の弁護術』では、牧野由紀子氏の指導でこの簡易試験を取り上げていますが、「他の麻薬にも反応する」として、次のような注意事項も記載しました。
「コカイン・チェッカー(スコット試薬)を使ったコカインの簡易試験は、3種類の薬液を順に使用し、各段階での呈色変化の組み合わせで判定するものです。第1液で青、第2液を加えると青が消えてピンク、第3液で再び青、この組合せはコカインに「かなり」特有のものです。「かなり」と表現する理由は、この試薬では、麻薬の5-メトキシ-ジイソプロピルトリプタミンなどコカインと良く似た反応を示すものが、ほかにもあるからです。
牧野氏は、経験の浅い捜査官が現場で簡易試験をすれば、見誤るおそれがあり、単独の試薬で判定することは、そもそも危険が大きいと言います。少しでもひっかかるところがあったときには、さらにエールリッヒ試薬を用いて、二重の試薬試験をすることが推奨されます。エールリッヒ試薬に対して赤紫色を呈すれば、コカインではありません[下記参照②]。」

現在のように、脱法ドラッグも含めて多種多様な脱法ドラッグが出回っている状況では、試薬による簡易試験でその内容を正しく判断できると期待することは、もはやできません。もしも、牧野氏が推奨するように、2種類の試薬を用いて試験をしていれば、こうした誤認逮捕は起きなかったことでしょう。しかし、対象となる薬物の種類に応じて、適切な試薬を組み合わせて二重の簡易試験をおこない、その結果を間違いなく読み取るには、意外に高度な知識が必要であり、すべての事案で二重の簡易試験を行うことは、そう簡単に実現しそうにありません。

私はむしろ、現場での簡易試験に基づいて、現行犯逮捕することをやめるべきだと提唱しています。薬物と疑われる物が発見されたらそれをきちんと鑑定し、その結果に基づいて逮捕状を請求して逮捕すればいいのです。この種の事案では、それが本来あるべき手続きだと思います。
誤認逮捕を繰り返せば、警察の捜査能力への信頼感が大きく損なわれてしまいます。従来手法での薬物識別が、急速に難しくなっているいま、無理な現行犯逮捕を見合わせ、正式な鑑定を経て逮捕することを原則にすべきだと思われてなりません。

[参照]
①過去記事■また脱法ドラッグを誤認して現行犯逮捕、今度はコカインまがい(2012/03/13)
http://33765910.at.webry.info/201203/article_6.html
②小森榮『もう一歩踏み込んだ薬物事件の弁護術』、p.54、現代人文社(2012)

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