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がんと闘い向き合う女性たちのポートレートを撮影 「SHINING WOMAN PROJECT」が伝える命の輝き #cancerbeauty

“SHINING WOMAN #cancerbeauty”より、命のポートレート/Portraits of Life © Hideka Tonomura

さまざまながんと闘い向き合う女性たちのポートレートを撮影するプロジェクト「SHINING WOMAN PROJECT」 に写真家の殿村任香さんが取り組んでいる。

昨年、自身もごく初期の子宮頸がんの診断を受けた殿村さんは、入院先で出会ったがん患者の女性たちの美しさに衝撃を受け、同年の夏にプロジェクトを開始した。

プロジェクトの写真は今年10月23日〜11月21日、東京都港区六本木の禅フォトギャラリーで展示。76点の写真を収めた写真集『SHINING WOMAN #cancerbeauty』も10月25日に刊行する。

殿村任香 写真展「SHINING WOMAN #cancerbeauty」

会期:2020年10月23日(金)〜11月21日(土)
※日曜・月曜・祝日休廊
場所:禅フォトギャラリー(東京都港区六本木6―6―9ピラミデビル208号室)
入場料:無料

入院先のがん専門病院で出会った女性の美

“SHINING WOMAN #cancerbeauty”より、命のポートレート/Portraits of Life © Hideka Tonomura

殿村さんは2008年にデビュー。「女性」をテーマに写真を撮影してきた。

19年4月、子宮に異常が見つかった。当時、「"子宮"は自分の心臓にも等しいもの」と考えていた殿村さんは大きなショックを受けたという。「今では臓器が女性性を決めるものではないと考えています。でも、あのころは本当に絶望していました」

不安を抱えながら6月にがん専門病院に入院。その病室で出会った女性たちの姿が殿村さんを変えた。

「そこにいたのは私の"がん"のイメージとは全くかけ離れた女性たちでした。耳にはピアス、唇には口紅をひいて、指にはマニキュアを塗っている。抗がん剤の影響で脱毛している方はウィッグの話を明るくされているし、とにかくみんなキラキラしていて衝撃的でした」

女性の真の美を目の当たりにしたという衝撃が抜けぬまま、手術を受けた。麻酔が覚めた瞬間、同部屋の女性のモノクロのポートレートが突然、頭に浮かんだ。

その経験をきっかけにSHINING WOMAN PROJECTを開始した。

「手術の傷跡を撮ってほしい」 写真が切り撮る輝き

“SHINING WOMAN #cancerbeauty”より、命のポートレート/Portraits of Life © Hideka Tonomura

殿村さんはInstagramなどのSNSを通じてプロジェクト開始に至った経緯やステートメント(声明)などを発信。賛同を寄せてくれた女性たちのもとに足を運び、無料で写真を撮影した。

当初は顔だけを撮る予定だったという。しかし、女性たちのほうから「手術の傷跡を撮ってほしい」という声が上がった。へその上下に伸びる傷跡や乳房を摘出した傷跡。「写真によって自分が力をもらったから、誰かの力になりたい」という女性たちの思いから出た言葉だった。

殿村さんは、何を撮るか、ウィッグを着用するかなど女性たちの意思を尊重しながら撮影している。

“SHINING WOMAN #cancerbeauty”より、生のポートレート/Proof of Life © Hideka Tonomura

プロジェクトに参加したのは10月16日現在で32人。写真集にはそのうち27人の写真が「魂のポートレート」「命のポートレート」「生のポートレート」の三部構成で収録されている。

殿村さんは撮った写真を必ずその日にSNSにアップするようにしているという。「その写真が写しているのが今日の命だからです。SNSはマイナスの面もありますが、その日1日のうちに、その人がどうやって息をして、感じて、見てというのを写真で伝えることができる。私が撮影を通じて触れた女性たちの命に、SNSを通して見てくれた方も触れることができると思うんです」

“SHINING WOMAN #cancerbeauty”より、命のポートレート/Portraits of Life © Hideka Tonomura

プロジェクト名の「SHINING WOMAN」には最初に目の当たりにしたがんと闘い向き合う女性たちの輝きを伝えたいという気持ちも込められている。副題の「#cancerbeauty」は、海外発のハッシュタグ。「がんになったことで新しい美を手に入れた」というポジティブな姿勢だと殿村さんは解釈し、アップする写真に添えた。

「彼女たちの輝きが写真によって伝わり、柔らかく浸透していくと、みんなのがんに対するイメージが変わるのではないかと思っています」

がんであることをオープンにできない社会 正しい理解広まって

“SHINING WOMAN #cancerbeauty”より、魂のポートレート/Portraits of the Soul © Hideka Tonomura

女性たちの美しさや命の輝きに触れる一方、自身もごく初期のがんを経験し、女性たちの話に耳を傾けてきた殿村さんは、がんになった人に向けられる社会からの言葉の暴力と偏見も痛感してきた。

「医療の進歩に比べ、日本社会のがんに対する理解は全く進んでいない」と殿村さんは指摘する。

抗がん剤治療の期間を理解してもらえず、会社を辞めざるを得ない若い女性。「男性陣が気になるからウィッグをつけてくれないか」とがんを打ち明けた上司から言われた人もいる。

2017年のデータに基づく国立がん研究センターの統計によると、生涯でがんに罹患する確率は、男性65.5%、女性50.2%という。

2人に1人ががんに罹患する可能性が示されているにもかかわらず、「がんであることをオープンにすることができない社会」を殿村さんは自身や女性たちの経験を通して知り、驚いた。

殿村さんは「がんであることを言えずにいる人はたくさんいます。今の日本に必要なのは、ひとりひとりががんを誤ったイメージで捉えるのではなく、正しい知識で理解することです。そのためにも、学校などでがんに対する教育の機会を設けるアクションが日本で広まってほしい」と話す。

また、同センターによると、女性における20歳~30歳代にかけての乳がん、子宮頸がん、甲状腺がんの罹患率は増加している。

「がんが原因で休職や退職をせざるを得なかった若い世代の人たちは、復職が困難であるなど社会の中にはまだまだたくさんの課題があります。こういった問題を解決するためには年齢や性別にかかわらず、日本全体で理解し、取り組む必要があるのではないでしょうか」

がんに対するそれぞれの闘いや向き合い方を知った殿村さんは、写真をきっかけに、女性のがんを含めたがん患者の概念を変えていきたいと願っている。

「同じ女性として、自分にも起こりうる事。そして、男性も大切な人に起こりうる事」

プロジェクトのステートメントの中で、殿村さんはこう綴る。

「女性性は臓器によって、決められるものではない。全ては生きる事を選択した証」

だからこそ、それを写真で発信し続けていきたい。

「命の芯はいつだって美しい。女性達は輝いている」

殿村任香『SHINING WOMAN #cancerbeauty』(禅フォトギャラリー)予約ページ


プロフィール

殿村任香(とのむら・ひでか)

1979年生まれ。大阪ビジュアルアーツ放送・映像学科卒業後、2002年より写真を撮り始める。2008年、自身の家族の日常を赤裸々に撮った「母恋 ハハ・ラブ」を赤々舎より出版。鮮烈にデビューし、世間に重い衝撃を与えた。2013年には、新宿歌舞伎町でホステスとして夜の人々と生きながら撮った「ゼィコードゥミーユカリ」をZen Foto Galleryより出版し発表した。近年の著作に「orange elephant」(2015年、Zen Foto Gallery)、「cheki」(2018年、Morel Books)、「焦がれ死に die of love」(2018年、Zen Foto Gallery)がある。また、国内のみならず海外での活躍も目覚ましく、2016年には香港のBlindspot Galleryにて開催された「Shikijo: eroticism in Japanese photography」展、2018年5月にはロンドンのDaiwa Foundation Japan House Galleryにて開催された「Double Method」展などに参加。2021年春にパリのヨーロッパ写真美術館で開催予定の「Love Songs」にも作品出品を予定している。

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