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【赤木智弘の眼光紙背】「分かって当たり前」が安全を遠ざける

 10月20日に地下鉄丸ノ内線の車内で発生した、アルミ缶の爆発事故。

 原因はアルミ缶に強いアルカリ性の洗剤を入れたことによる、化学反応であるとされる。(*1)

 女性は勤務先で使っている洗剤を譲り受け、コーヒーを飲み終えたアルミ缶に入れて持ち帰ったということである。

 なるほど、業務用の洗剤はよく落ちるし、それを家に持ち帰ろうと考えた。そしてそのときたまたま手近にあった容器として、アルミのコーヒー缶を利用してしまったのだろう。その気持はよく分かるし、自分もそうした職場にいれば、やってしまうかもしれない危険行為だなと、ニュースを見ながら思っていた。

 しかし、ネット上では、そうした気持ちを理解できない人がいるらしい。彼らは「アルミがアルカリと反応することは中学校で習うこと。わからないほうがおかしい」というのだ。

 確かに、知識としてそうしたことを学校で習うことはあるが、その知識があるからといって、それが実生活の中でそのまま活かせるかといえば、そう簡単ではないだろう。だからこそ、業務用などの用途があるものは、詳細な取扱説明が付属しているし、それでも足りないから様々なピクトグラムを用いて、危険性をわかりやすく提示していたりする。ただ、それでもこうした事故が起きるのが現実だ。

 こうした安全性を保つことの難しさを、属人性の範囲に押しこめ「分かって当たり前。事故を起こすほうがおかしい」とネット上で小馬鹿にするような反応というのは、ネットで発言する人たちの頭の良さを示すというよりは、そうした人たちがいかに安全を保つということの難しさを理解していないかという指標であると、私は考える。

 ふと思い出したことがある。

 救急車が不正に利用されている問題というのがニュースなどで大きく取り上げられた時に、ネットの人たちはこぞって「救急車は実費を請求するべき。本当に必要な時だけ無料にするべきだ」と安易なことを口にしていた。

 しかし、救急車利用者の立場として考えれば、はたして自分の体が変調をきたしているときに、冷静に「これは救急車が必要か、自分で病院に行けるか」という判断をすることができるだろうか? また、その時に実費請求や救急側への迷惑などの可能性を考えた時に、救急車要請を積極的に行えなくなることが命の危機につながることはないのか。

 しかしこの時も、ネットはそうした細やかな安全性の議論を無視して「自分の体のことは自分で分かって当たり前。分からないはずがない」と一蹴していた。

 僕は山形市で発生した、19歳の学生が救急車を要請したにも関わらず、消防本部側が救急車を出動させなかったという問題(*2)は、そうした安易な安全議論がたどり着いた1つの結果であると考えている。自分が死にそうでも、救急車を強く要請することができない。その危険性を果たしてその電話を受けた人物は認識していたのかどうか。

 危険というのは、私達の生活のすぐ隣に潜んでいる。そしてそのことに気づかないというのは、ある意味で当たり前のことである。だからこそ、私たちは注意をしなければならないし、私達が何らかのサービスを提供するときには、そのことに気を配らなければならない。

 自分たちの側に潜む危険性を分からないかもしれないという危険性を、「分かって当たり前だ」と、本人の無知として嘲笑うのではなく、そうした可能性も有り得るとして認識する。そうした考え方をして初めて、私たちは安全安心のための議論を始めることができるのではないのだろうか?

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