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OKマガジン(Vol.274)2012.10.26

景気は踊り場局面入り、政府・日銀の判断も下方修正されており、対策が急務です。30日の日銀政策決定会合での日銀の次の一手も必須。29日からの臨時国会でも景気対策が論点となり、特例公債法案の早期成立も急務です。

1.トリプルダメージ

今週初(22日)、9月の貿易統計速報(通関ベース)が発表されました。輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は3カ月連続の赤字。

半期ベースでも3期連続の赤字。上半期(4月から9月)は半期ベースで過去最大となる3兆2189億円の赤字です。

半期ベースで3期連続の赤字ということは、傾向的に赤字基調に陥ったと言えます。残念ながら、日本はもはや「貿易黒字国」ではなくなった可能性があることを、冷静に認識しなければなりません。根拠のない回復期待や楽観予測は禁物です。

赤字基調の原因は3点。第1は火力発電等の燃料(石油、LNG等)輸入の増加。もちろん、原発事故後の原発稼働率低下(現在稼働は1基のみ)、それに伴う火力発電所の稼働率上昇の影響です。

第2は輸出の低迷。とくに9月は自動車や船舶の輸出が低迷し、前年同月比で10.3%の激減。総額5兆3598億円で4カ月連続の減少です。

基本的には欧州や中国の景気減速に伴う輸出減少ですが、もちろん尖閣問題に端を発した日中関係悪化も影響しています。

中国では日本製品の不買運動も起き、中国向け輸出は前年同月比14.1%の激減。とくに、自動車(同44.5%減少)、自動車部品(同17.5%減少)、電子部品(同9.6%減少)への影響が著しく、由々しき事態です。

反日デモが本格化したのは9月15日頃。したがって、9月の影響は半月程度。おそらく、10月はさらに影響が拡大することが予想されます。

第3は長引く過度の円高。このメルマガを書いている今日(25日)は1ドル80円前まで円は下落。それでもまだ相対的には円高。安定的に80円台半ばから後半の水準を目指さなくてはなりません。

第1に燃料輸入増加、第2に中国向け輸出減少、第3に円高。このトリプルダメージが傾向的な貿易赤字基調の基本的背景。したがって、この3点について変化が生じない限り、貿易赤字基調が続くことになります。

第3の円高への対策(とりわけ中央銀行の役割、金融緩和政策)については、メルマガ前々号(Vol.272)と前号(Vol.273)でとりあげたことから、今回は他の2点について考えてみます。

2.オイルシフト

「2020年までにエネルギー独立を果たす」。日本のことではありません。熱戦の続く米大統領選挙における共和党ロムニー候補の発言。「エネルギーの自給自足」を目指すことを示しています。

そもそも、米国は基調的な「貿易赤字国」の大先輩。その主因のひとつは、日本と同様に石油等の燃料輸入。1973年の石油ショック以降、米国にとって積年の課題です。

エネルギーの大量消費国である米国にとって、この課題は解決困難と思われてきましたが、最近10年間に北米大陸で進んだ「シェール革命」によって「エネルギー独立」は夢ではなくなってきました。

地中の頁岩層から産出されるシェールガス開発によって、米国は天然ガスの一大産出国に変貌。供給量が急増したため、北米産シェールガスの価格は急落。2000年代半ばには100万BTU(英国熱量単位)当たり15ドル程度であったのが今では同3ドル程度。約5分の1に値下がりしました。

価格低下は燃料やエネルギーのユーザーにとってはプラスですが、開発事業者にとってはマイナス。天然ガス開発の損益分岐点が100万BTU当たり3ドルから4ドル程度であることから、現在の水準は開発事業者にとっては採算割れスレスレ。

そこで、開発鉱区によってはシェールガスと同じ頁岩層からシェールオイルと呼ばれる原油も産出するようになっています。つまり、シェールガスからシェールオイルへの転換です。

北米でのシェールオイルの生産コストは1バレル当たり50ドル強。現在、原油価格が1バレル100ドル前後のため、好採算のビジネスとして急成長の兆しが見受けられます。シェールガスからシェールオイルへの転換は「オイルシフト」と呼ばれています。

米国は年間800万バレル(日量)の原油を輸入していますが、現在のペースで「オイルシフト」が続くと、2030年頃には原油の自給自足が可能となり、ロムニー氏の「エネルギー独立」の主張が現実味を帯びます。

日本でも、遅ればせながら中東産原油やLNGから北米産シェールガスやシェールオイルに切り替える動きが進展。何しろ、中東産LNGガス価格は北米産シェールガスの5倍以上です。

今月3日には石油資源開発が秋田県でシェールオイルの試掘に成功。また、愛知県沖や高知県沖では次世代燃料と言われるメタンハイドレートの開発が期待されています。米国と同様、日本も国内での採掘、生産にチャレンジするべきでしょう。

もちろん再生可能エネルギーの実用化も急務(再生可能エネルギーについてはメルマガVol.271をご覧ください)。しかし、いずれも短期間で貿易赤字基調の原因(燃料輸入増加)を解消することは困難です。

貿易赤字基調が為替市場で円安材料となり、基調的円安が輸出増加につながるというシナリオに望みをかけるしかないかもしれません。

3.J-ASEAN

「世界の工場」(The Workshop of the World)とは、19世紀の英国の経済学者ジェボンズの造語。産業革命によって世界経済の覇権を握った当時の英国のことを表現した造語です。

他国の追随を許さない工業国となった英国。世界中から原材料を輸入し、大量生産した工業製品を世界中に輸出。当時の世界経済においては世界の工業生産額の半分を英国が占有。「パックス・ブリタニカ」とも言われました。

「パックス・ロマーナ」は直訳すると「ローマの平和」。ローマが世界の覇権を握り、世界の秩序を維持していることを意味します。「パックス」はラテン語で「平和」を意味し、語源はローマ神話に登場する平和と秩序の女神。18世紀の英国の歴史学者エドワード・ギボンが「ローマ帝国衰亡史」という著作の中で使った表現です。

「世界の工場」となって繁栄を謳歌した19世紀の英国。1899年、英国の宮廷詩人(桂冠詩人)が「パックス・ロマーナ」に準(なぞら)えて、英国の繁栄と覇権を「パックス・ブリタニカ」と喩えました。

ローマも英国もそう言われた頃が結果的に国力のピークでした。19世紀末期から20世紀になると米国が台頭。第1次世界大戦から1960年代にかけては米国が「世界の工場」の地位につき、「パクス・アメリカーナ」という表現も聞かれるようになりました。

ところが、1960年代には欧米諸国が驚愕する高度成長を遂げる日本が台頭。1976年には日本を含めたG7(先進7ヶ国首脳会議)が開催されるようになり、今度は日本が「世界の工場」の地位につきます。

1979年にはヴォーゲル博士の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が出版され、1980年代後半のバブル経済時代は「日本の全盛期」。

しかし、「パックス・ジャポニカ」とまでは言われませんでした。それは、英国や米国とは異なり、安全保障上の覇権を保持し、国際秩序を維持する役割を担っていたわけではないからです。

「世界の工場」として日本が飛躍した1980年代、隣国・中国では激しい権力闘争・暗闘が繰り広げられていました。そのピークは1989年の天安門事件。

対立の構図は単純ではなく、ここでの解説は省略しますが、結局、民主化を求める勢力は激しく弾圧され、その後は「改革開放(市場経済・資本主義的発展への取り組み)」「先富論(先に豊かになれる者から豊かになって国を牽引する)」を強力に推進する鄧小平氏が事実上の最高指導者として君臨。中国の急速な発展が始まりました。

安価で豊富な労働力や広大な用地、潜在的な巨大消費市場などが誘因となって、先進国企業が相次いで進出。1990年代後半には鉄鋼、21世紀に入ると家電・繊維・機械・化学などの多様な製品で生産高世界一を記録。日本に代わって「世界の工場」と呼ばれるようになりました。

中国は軍事的な覇権確立にも腐心。「パックス・シナーエ(ラテン語で中国)」と呼ばれる状況を目指していることは容易に想像できます。

しかし、中国がかつての英国、米国のようになれるかどうか、まだわかりません。米国がそれを容認するはずはなく、中国国内の権力闘争、階層対立(貧富の格差)、中央と地方の対立、民族対立など、多くの不安定要素も内包しています。

「世界の工場」としての「日本の全盛期」が約20年で終焉したことを鑑みると、中国の今後も予断は許しません。1990年代は日本と中国の交錯期、2000年以降は中国が「世界の工場」としての地位を確立、GDP規模で日本を上回って世界2位となったのが2010年。

尖閣問題で国民の反日運動を煽った中国政府の今回の対応は中国のカントリーリスクを世界に知らしめました。今回の騒動が中長期的に中国にとって吉と出るか、凶と出るか。また、人件費高騰で中国は「世界の工場」としての役割を終えつつとの指摘も聞かれます。中国への進出リスクを再認識せざるを得ない展開です。

そうした中、中国の代替先として改めて注目を集めるのがASEAN(東南アジア諸国連合)諸国。構成国それぞれの規模は大きくないものの、全体の人口は約7億人。2015年には域内関税を原則ゼロとする経済共同体を発足させる予定です。

ASEANは自由貿易協定にも積極的。ASEANと連携するのは日本か、韓国か、中国か。様々な分野で中韓両国の後塵を拝する様相を呈している日本。

ASEANとの連携では中韓に遅れをとることなく、「J-ASEAN」(日本とASEANの経済共同体)を実現すべきです。ASEANは製造・物流拠点と消費市場という2つの側面から期待大。「J-ASEAN」は中国リスクを回避しつつ、新たな飛躍につながる可能性が高いと考えます。

中国向け輸出減少を回復させることに腐心するよりも、「J-ASEAN」実現に向けた努力を国全体で推進する方が得策。ASEAN諸国は中国に対して潜在的脅威も感じています。災い転じて福と為す。通商・外交戦略転換の好機です。

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