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年を取っているからこそできる仕事がある - 「賢人論。」123回(中編)浅田次郎氏

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吉川英治文学新人賞、日本冒険小説協会大賞特別賞、直木三十五賞、柴田錬三郎賞、中央公論文芸賞、司馬遼太郎賞、吉川英治文学賞、毎日出版文化賞、紫綬褒章、大佛次郎賞と、数々の賞を総なめに。映画化やドラマ化された作品は多数という、当代随一の人気作家・浅田次郎氏。親との関係や義母の介護、自身の死生観について語っていただいた。

取材・文/盛田栄一

約10年間義母の介護を経験する

みんなの介護 浅田さんは10年ほど前、『私の最期はこう弔ってほしい』というエッセイの中で、「親子関係は単純なものではなく、子は縁が薄い親でも納得できないまま面倒を見る」と書かれていますね。ご両親の最期について、差し支えのない範囲で聞かせていただけますか。

浅田 そこにも書いたとおり、僕は父親とも母親とも縁が薄かった。そして最後まで、世間並みの親子関係には戻れませんでした。せいぜい、連絡が取れる関係に戻ったくらい。世の中には、同じ経験をしている人はたくさんいると思う。ましてや今の日本は離婚社会だから、こういうケースはこれからもっと増えていくでしょう。

僕自身、「親からたいしたことはしてもらえなかった」という思いはあります。でも、だからといって、「親の葬式を出さなくていい」とは考えなかった。2人の死に目には会えなかったけど、僕が戸籍上の子どもである以上、喪主としてそれぞれの葬式は出しました。

みんなの介護 ご両親の介護についてはいかがでしたでしょうか。

浅田 ほかに面倒を見てくれる人がいたので、今さら僕が口を出す筋合いはありませんでした。その代わり、結婚当時からずっと同居していた妻の母親の介護にはかかわりました。妻は一人娘だったので、嫁にもらったときに義母の最期を看取る覚悟もしていましたね。

みんなの介護 そうなのですね。介護をされていたとのことですが、お義母さまは施設かお家で過ごされていたのですか。

浅田 義母は体が弱かったので、病院や施設を出たり入ったりしていました。でも基本は在宅介護でしたね。60代後半から義母に認知症の症状が出始め、70代からは本当に目が離せなくなった。そういう状態がおよそ10年間続きました。大変な場面もありましたが、幸い僕と妻の2人だったのでまだ何とかなった。1対1で在宅介護している方は、本当に大変だと思います。

義母が弱ってからは、階段に手すりをつけたり、義母にあわせて自宅もいろいろと改装しました。今は僕が手すりを使う年齢になったけど。

ショックだったのは、僕をわからなくなった瞬間が何度もあったことです。「どちら様ですか」「いらっしゃいませ」と、たびたび言われた。30年一緒に暮らしていても、所詮婿さんは婿さんなんだな、とがっくり。僕の妻、つまり実の娘だけは、義母も決して忘れることがなかったんですがね。

終活ノートを書く暇があったら生きているうちにやるべきことをやる

みんなの介護 義母の介護を経験して、浅田さんの中で何かが変わりましたか。

浅田 自分がどのように老い、どのように死んでいくのかしみじみ考えるようになりました。ウチにも一人娘がいるので、「いずれ娘に迷惑をかけるのだろうか」と、ちょっと心配になりましたね。

みんなの介護 先ほど触れたエッセイの中で、「子どもには迷惑をかけず、介護はプロの業者にお任せする」「痛いのだけは勘弁してほしい」「畳の上でできれば書きかけの原稿用紙の上で死んでいたというのが理想に近い…」など、具体的に書かれていますが、その後、ご自身の最期に対する考えが変わったところはありますか。

浅田 変わりましたね。60歳を過ぎると、死生観は絶えず変わっていくものです。身の回りで友人知人が亡くなっていくので、そのたびにいろいろなことを考えざるを得ない。だから、死生観は容易に定まりません。今の僕の心境で言えば、「自分自身が死ぬことに対して小理屈をこねるのは嫌だな。死ぬために自分で何か努力することも、真っ平御免」だと思っています。

人間は、死ぬために生きているわけではない。一生懸命に生きた結果、最後には死ぬ。だから人間は、自分の死に方や死んだ後のことについては、あれこれ注文をつけるべきではない。散骨してほしいとか自然葬がいいとか、そんなのはわがままですよ。どんな葬式を出すかなんて、後に残って生きている人が決めればいい。これはあくまでも、僕の個人的な意見だけど。

現時点で僕が考えている「正しい死に方」とは、「後は野となれ山となれ」で死んでいくこと。死んでからのことは、どうとでも好きにしてくれ。こっちはいまを精一杯生きるだけなんだ、ということですね。

みんなの介護 一方、世の中では、終活ノートを書くのがちょっとしたブームになっています。

浅田 そうらしいですね。今の世の中、変に“死に支度”をしている人が多すぎる。僕に言わせれば、終活ノートなんて書くべきではありません。「そんな暇があったら、生きているうちにやるべきことが山ほどあるだろう」と言いたい。子や孫にもっと知恵を授けるとか、自分が極めたい趣味に打ち込むとか。

それから、「死ぬときは、子どもに迷惑をかけないように死にたい」なんて言っている親もいますが、それは子どもを甘やかせすぎだと思う。親を送ることは、子どもが経験しなければならない苦労の1つ。そういう苦労であれば、子どもにしっかり経験させるべき。

僕は一人娘に常々言い聞かせています。「俺は『後は野となれ山となれ』で死んでいくから、死んだ後で何が見つかるか、俺の知ったことではない。もしかしたら一文無しになっているかもしれないし、莫大な借金をこしらえてるかもしれない。そういうことには一切決着をつけずに死んでいくから、後はおまえが考えて処理してほしい。その代わり、俺が生きている間は何でもやってやる。だから頼りにしろ」とね。

みんなの介護 かっこいいお父さんですね。

浅田 娘がどれだけ真剣に聞いてくれているか、わからないのですが…。そもそも、僕の周りにいる人間は、僕が永久に死なないんじゃないかと思っている節がある。なので、「いつか死んでやろう」と思っているんですよ(笑)。

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