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女性の権利を国際基準に──女性差別撤廃条約選択議定書の批准を(『前衛』10月号掲載)

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■女性差別撤廃条約批准から三五年

 今年は日本が女性差別撤廃条約を批准してから三五年目となります。同条約は一九七九年に国連で採択され、女性に対するあらゆる差別を撤廃するための必要な措置をとる決意をうたい、各国政府に迅速な取り組みを義務付けた画期的な条約です。

 女性団体や労働組合をはじめとする世論と運動の広がりの中で、日本も一九八五年に同条約を批准しました。批准の際の外務大臣は安倍総理の父である安倍晋太郎氏でした。当時、国会答弁で、日本共産党の立木洋参院議員の質問に対し決意をのべています。

「今お話のように......条約は男女について母性保護以外はすべて平等であるという立場に立っており、これまでにない極めて画期的な考え方ではないかと思っている。いわゆる基本的人権というか、人間の尊重、尊厳をうたった包括的な条約であって、日本もこれに加入することによって条約の趣旨を生かして、今後まだ日本に残っている問題を解決し、条約の趣旨が完全に履行されるよう努力していかなければならない」(一九八五年六月四日参院外務委員会)

 しかし現状はどうか。関係者の様々な取り組みで一定の前進はありましたが、解決すべき問題は多く残され、条約の「完全履行」には程遠いものです。

 同条約の実効性の強化のために「個人通報制度」と「調査制度」をもりこんだ選択議定書が九九年に採択されています。日本がいまだにこれを批准していないことが、問題解決を遅らせる要因の一つとなっています。

■女性差別撤廃条約実現アクションの結成と懇談

 そうした中、昨年三月に選択議定書の批准をめざして結成されたのが、「女性差別撤廃条約実現アクション(OP CEDAW ACTION!)です。「女性の権利を国際基準に」を掲げ、NGOによって結成され現在五二団体が参加しています。請願署名活動や地方議会の意見書の働きかけ、国会での院内集会、政府や各党ヘの要請活動に取り組んでこられました。

 同「アクション」とは昨年、日本共産党国会議員団外務部会(部会長:穀田恵二衆院議員)として懇談。さらに私は、今年三月に再び懇談し、三月一八日と二六日の参院外交防衛委員会で選択議定書の批准を求めて質問しました。

 本稿では、一刻も早い選択議定書の批准に向けた世論と運動の前進を願い、この質問でのやり取りを紹介しながら、この間の国会における論戦の到達点と課題を明らかにするものです。

 選択議定書批准でジェンダー平等の世界の進歩に参加を

 今年三月の懇談の際、「アクション」の皆さんから二つの問題での「危機感」が出されました。

 一つは、昨年一二月に発表されたジェンダーギャップ指数(世界男女格差指数)が前年から一一位下がって一五三カ国中一二一位となったこと。公表が始まった二〇〇六年の一一五カ国中八〇位から大きく後退しています。

 もう一つは、順位に加え、外務省も姿勢を後退させているという問題です。政府の男女共同参画第五次総合計画の策定の議論の中で、第四次総合計画にある、選択議定書の「早期締結について真剣に検討を進める」という文言から「早期に」という言葉を削るという立場を示したのです。「アクション」の皆さんからは、ぜひ、こうした問題で政府をただし、選択議定書の早期批准を求めてほしいと強い要請を受けました。

 早期批准の焦点は個人通報制度。私は、法務委員会に所属していた時に国連の自由権規約に関わって個人通報制度の受け入れを求めて質問したことがありますが、その後も遅々として政府の取り組みが進んでいないという思いがあり、加えて、ジェンダー平等の流れが広がる中での一二一位への後退ということへの私自身の危機感もあり、二度の質問となりました。

■なぜ一二一位に──女性差別撤廃条約発効後の世界の流れに取り残された

 質問でまず明らかにしたのは、なぜ、日本のジェンダーギャップ指数が一二一位にまで後退したのかということです。

 この指数は、スイスに本部を置く国際機関「世界経済フォーラム」が毎年一二月に発表しており、各国の男女間の格差を〇が完全不平等、一が完全平等として数値化しランクづけしたものです。政治参画、経済参画、教育の到達度、健康と生存率の四つの分野でのデータから算出されます(表①)。

 二〇〇六年と二〇一九年の指数を分野ごとに比較すると、日本は、「教育」や「健康」は一貫して一に近いものの、政治は〇・〇六七〇・〇四九、経済は〇・五四五〇・五九八、総合では〇・六四五〇・六五二です。政治と経済の分野の指針が低いままである中、総合指数は微増するものの順位は大きく落ちています。

 四つの分野のなかで、さらに項目があり、政治参画では、「国会議員の男女比」「閣僚の男女比」、経済参画では、「同一の労働における賃金格差」や「役員・管理職の男女比」があります。

 政治、経済の分野で特に低いのが、これら「指導的地位にいる人の女性の割合」です。安倍総理は二〇一四年、「世界経済フォーラム」の総会である「ダボス会議」で演説し、「二〇二〇年までに指導的地位にいる人の三割を女性にします」と「国際公約」しました。しかし、女性の管理職の割合はいまだに三割にはほど遠く、総務省の労働力調査では、一四・八%(一九年)にとどまっています。

 政治参画の分野は一八年から一九位下がって一四四位となり、世界ワースト一〇に入りました。国会議員の男女比の指数は、〇六年と一九年で〇・一〇〇・一一二とこれまた微増にとどまっています。

 グラフ①は各国の国会議員の女性比率を比較したものです。(二院制の国の場合は下院の女性議員の割合)。一番下で低迷しているのが日本であるのは一目瞭然です。一九七〇年代はヨーロッパの国々と日本は女性比率にあまり違いはありません。ところが、その後、日本は微増にとどまるなか、他国と大きな差が出ています。

 日本は、七〇年は一・六%で、一六年で九・三%、参議院を含めても現在一四・三%です。一方、各国は女性差別撤廃条約の発効後、特に九〇年代から急速に増えています。七〇年と一六年で比較すると、フランスは一・七%から二六・二%、イギリスは四・一%から二九・六%へと急増しています。

 これらを示し、「女性差別撤廃条約採択後のジェンダーギャップ克服の世界の大きな進化と比べて、日本の進化が遅々としている、これが順位が下がっている理由ではないか」と指摘すると、茂木敏充外務大臣は「基本的な部分で、共有したい」と述べました。

 ところが、七月二一日に開かれた政府の男女共同参画会議の専門調査会でまとめられた第五次男女共同参画基本計画策定にあたっての「基本的考え方」の素案では、「指導的地位に占める女性の割合を三〇%程度とする」という政府目標の達成年限について、現計画の「二〇二〇年」を断念し、「二〇年代の可能な限りの早期」に先送りする方針が明記されました。

 この目標は二〇〇三年の小泉政権下で設定され、第二次安倍政権が「女性活躍」を「政府の最重要課題」(第四次計画)として看板政策に掲げるもと、安倍総理自身が国際公約したもの。一七年かけてなぜ達成できなかったのか責任ある検証もないままの目標先送りによって、日本はますます世界の流れに取り残されることになります。

■世界の進歩のテコは選択議定書の批准

 ではなぜ、世界ではジェンダーギャップ克服の流れが急速にすすんでいるのか。

 そのテコとなっているのが、個人通報制度を定めた女性差別撤廃条約選択議定書の批准です。

 現在、女性差別撤廃条約の締約国一八九カ国のうち、選択議定書の批准国は三月にチリが批准して一一四カ国になりました。自由権規約など八つの条約やその選択議定書に個人通報制度が定められていますが、批准が一〇〇カ国を超えているのは自由権規約と女性差別撤廃条約だけです。

 しかも、自由権規約は三〇年かかりましたが、女性差別撤廃条約は一〇年で一〇〇カ国を超えました。

 個人通報制度とは、人権侵害をうけた個人が、国内での訴訟などの救済措置を尽くしたうえで、国連に救済を求めて通報できる制度。通報を受けた国連の委員会はこれを検討の上、見解や勧告を各締約国等に通知します。見解や勧告には法的拘束力はありませんが、締約国はフォローアップを求められます。

 これを通じ、通報した個々の女性の人権を救済するだけではなくて、行政や国会、司法など、ジェンダー平等の国際水準を生かしていくという役割を果たしています。これがテコになって、各国のジェンダー平等が大きく進化しているのです。

 そこで、選択議定書の批准国数と日本のジェンダーギャップ指数(GGGI)の順位を一つのグラフにして比べてみました(グラフ②)。批准国が急速に増える一方で、未批准のままの日本が順位をどんどん落としていることがくっきりと浮かび上がりました。

 国連女性差別撤廃委員会の委員で、個人通報作業部会長のパトリシア・シュルツさんが二〇一八年に来日された際の講演で、「選択議定書の批准によって日本はこの数十年の間に見られた人権に関する重要な進化に加わることになる」と述べられました。

 逆にいえば、日本は未批准の中でこういう世界の重要な変化に加われていない──そのことをこのグラフは表しています。

 私はこのグラフを示して、「ジェンダーギャップ指数がいまや一二一位にまで下がっていることを見れば、日本が世界の進化に加わる上で選択議定書の批准がどうしても必要だ」と迫りました。

 これに対し、茂木外務大臣は選択議定書と個人通報制度について「条約の実施の効果的な担保を図る......注目すべき制度」「関係省庁と連携をして...早期締結に向けて真剣に検討を進めている」と述べました。

■第五次男女共同参画基本計画策定会議のなかでの「早期」削除の動き

 一方、閣議決定される政府の第五次男女共同参画基本計画に向けての議論で外務省から示されたのが、この大臣の答弁とは逆行する姿勢です。

 女性差別撤廃条約選択議定書の批准について、第二次計画では「検討を行う」とされ、第三次計画以降は「早期締結について真剣に検討を進める」と書き込まれています。

 ところが、現在、第五次基本計画策定に向けて男女共同参画会議の専門調査会が行われていますが、昨年一一月の第一回調査会の会議の資料として外務省が配布した個票の中に、「早期締結について真剣に検討を進める」という文言から「早期という文言を削除すべき」と書いてあったのです。

 これについて外務省は、調査会の席上で質問に対し、「早期締結に向けてというふうに書くのは、外務省としては厳しいのではないだろうかということで個票に記載している。早期を外した方がいいというのが今の外務省の現状認識だ」と発言しました。

 これに対し、これまでの閣議決定から重大な後退だとして各方面から驚きと批判の声が上がりました。委員会でこうした批判の声を示して質すと、外務省は、「早期締結について真剣に検討を進めるとの立場はこれまでと変わっていない。早期の文言を削除することで政府の取り組みが後退したとの印象を与えることは本意ではない」として「早期」の文言を維持すると表明しました。

■「早期」削除でなく、「検討の加速が正しい方法」

 そこで、外相に対し、長い間検討を続けているという実態と「早期」という文言が合わないというのであれば、「早期」を削るのではなく検討を加速化させるのが当然だろうと指摘し、さらに、「検討を進めるというのは、受け入れるかどうかではなくて、早期締結に向けて解決すべき課題は何かということを検討するということでよいか」と答弁を求めました。

 これに対し茂木外相は、「早期という文言を削るよりも検討の加速が正しい方法だ」「おっしゃるように、早期に締結するために障害になっている、また課題になっているものを早期に解決することであります」と明確に述べました。

「アクション」をはじめとした様々な皆さんの声が、「早期」の文言の削除をやめさせ、逆に「検討の加速」「課題、障害の早期解決」という答弁を引き出したのです。

もはや批准の基本的な障害はない ──決断し、女性の人権を国際基準に

 では、選択議定書を批准し個人通報制度を受け入れる上で、検討を加速すべき「課題、障害」とは何なのか。

 個人通報制度は、一九七六年に発効した国際人権規約の自由権規約の選択議定書に定められました。その後、同制度は日本が批准している人権に関する国連の八つの条約(自由権規約、社会権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、人種差別撤廃条約、拷問等禁止条約、障害者権利条約、強制失踪条約)の本体やその選択議定書に定められていますが、日本は個人通報制度に関してはいずれも未批准のままです。

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