- 2020年10月15日 21:48 (配信日時 10月15日 11:15)
「これがヘル朝鮮だ」日本にはあって韓国のキッザニアにはないお仕事
1/2韓国の20代は貧しい。失業率は9%台、「拡張貧困率」は23%とされる。背景にあるのは、大企業と中小企業の大きな格差だ。雇用の伸びない国内を見限り、海外就労に力を入れる政府。若者たちはその現実を「ヘル朝鮮」と自嘲する。子どもに人気の職業体験型テーマパーク「キッザニア」にも、その実態は表れる。日韓キッザニア比較が浮き彫りにするものとは——。
*本稿は、春木育美『韓国社会の現在 超少子化、貧困・孤立化、デジタル化』(中公新書)の一部を再編集したものです。

大統領就任初日に「働き口委員会」設置
韓国でもっとも貧困状態にあるのは、20代の若者と高齢者である。20〜29歳の失業率は、ここ数年9%台が続く。これは1997年のアジア通貨危機後の7%台を上回る高水準である。
韓国の大学進学率は世界最高ランクで、若い世代は高学歴者ばかりという国になったが、彼らが求める雇用創出が高学歴化のスピードに追いつくことはなかった。就職を諦めた人やアルバイトをしながら就職活動する人を含む20代の「拡張失業率」は、約23%に達するといわれる。4〜5人にひとりが事実上の失業状態にあることになる。
2017年5月に発足した文在寅政権は、雇用を中心に経済を推進する「イルチャリ(雇用)政権」を目指すと宣言した。就任初日に真っ先にしたことは「働き口委員会」の設置であった。
2018年には「青年追加雇用奨励金」制度を導入した。これは、15〜34歳を正規職として新規採用した中小企業に対し、最大3年間、1人当たり年900万ウォンを支給する制度である。成長の可能性が高い15業種の中小企業については、若者3人を正社員として新規採用すれば、ひとり分の賃金として最大で年2000万ウォンを支給する。
中小企業の年収は、大企業の6割以下
低賃金で若者を雇用でき企業側のメリットが大きいことから、採用者の数自体は増えた。中小企業に就職した若者には5年間、所得税を全額免除するなど、各種の所得補填策を行っており、早期離職を抑える努力もしている。いずれも、大企業と中小企業の賃金格差を埋めることで、若者の就職先を大企業から中小企業に誘導する狙いがある。
政府がこうした対応策をとるのは、若者が中小企業を忌避する根本的原因が賃金格差によるものとみているからだ。根拠はある。
韓国経営者総協会が2018年に公表したデータによれば、29歳未満の大卒者の初任給は、従業員10〜99人規模の企業を100とした場合、従業員500人以上の大企業は152.1。正社員の平均年収では、大企業が6487万ウォンに対し、中小企業は3771万ウォンと、6割にも満たない。
また、韓国労働研究院の2019年の調査によれば、従業員数300人以下の企業の「正社員」よりも、300人以上の企業の非正規労働者の方が賃金水準は高い。
ただ、問題の本質は賃金格差だけではない。
韓国政府は、企業の海外進出により国内で良質な新規雇用を確保するには限界があるとみて、海外就労をバックアップしている。
海外で就職させると大学に成功報酬
雇用労働省などは、海外就職支援として「K Move」政策を推進中だ。海外企業を招いた就職面接会の開催、就職情報サイトの運営、各国版の海外就労の手引き書の発行、就労ビザを取得して海外企業に正式に就労した若者への定着金の支給といった事業が含まれる。
事業の柱は「K Moveスクール(海外就労研修プログラム)」である。四年制大学や専門大学を対象に、「海外就業プログラム」を競争的資金事業として毎年公募している。大学側は、現地のニーズに合わせた海外就業プログラムを立案し応募する。
基本プログラムは、IT、外食調理、貿易物流、生産管理、営業など、海外で就職できそうな業種の職業訓練と、現地語教育のセットである。斡旋会社と連携しながら受講生を現地で就職させる。就職先の主要な対象国は米国、日本、オーストラリア、東南アジア、中東である。
K Moveスクール運営校には、受講生の就職数に応じて成功報酬が支給される。各大学は、何とか就職率を上げようと必死になる。そのため、なかには受講生の希望や適性に合わない職種や、給与や労働条件が良好でない企業が就業先となることがあり、早期離職といった問題が起きている。
「若者はみな中東へ」と朴槿恵大統領
現地で働いて生活することは海外移民と変わらない。移民1世は言葉の問題もあり、高度な専門技術がない限り、移住後は社会階層が低下することが多い。米国移民に行った1世がよい例である。
一方、日本は距離的、文化的、言語的に近いうえ、現地社員と同等の待遇で採用され、水平的な階層移動が可能だとして、就職希望者は後を絶たない。
そうしたことから文在寅政権は、とりわけ日本への就職を奨励すると大々的に喧伝してきた。政府高官が来日し、たびたび日本政府に協力と支援を訴えている。それにもかかわらず、2019年に日韓関係が悪化すると、国内の就職博覧会などで日本企業を対象から除外した。この措置に対しては愚策であると、国内から強い批判の声が上がった。
「大韓民国の若者がごっそりいなくなるほど、中東に進出してみたらどうか。あれ、韓国若者はどこに消えてしまったのか。みんな中東に行きましたよ、と言えるくらいに」
2015年3月の貿易投資振興会での朴槿惠大統領の発言である。韓国政府は、かつて炭鉱夫や看護師が不足した旧西ドイツや建設ブームに沸く中東へ、自国の労働者を積極的に送り出していた。外貨獲得と失業対策のためだった。朴正熙大統領の頃の話だ。
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