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「インフレ病」と「デフレ病」は処方箋が違う

■「財政再建派」と「リフレ派」

 「アベノミクス」が騒がれた頃、金融緩和の是非が問われたことは記憶に新しい。

 当時は、大きく分けると「財政再建派」と「リフレ派」という2つの勢力に分かれて、金融緩和の是非が言い争われた。

 財政再建派は、「金融緩和でハイパーインフレになる!」と言い、リフレ派は、「金融緩和でインフレになる」と言った。

 しかし、その後、合計300兆円を超える金融緩和を行っても、国債の金利は全く上がらず、ハイパーインフレになるどころか、インフレにすらならなかった。

 当時の私は、金融緩和には賛成していたものの、「財政再建派」も「リフレ派」も、お金の量だけにとらわれ、人間心理を無視しているという意味で楽観的過ぎると思われたので、どちらにも加担しなかった。

 金融緩和を行うことで、多くの人々が「お金の量が増える」と思えば、その期待によって、一時的に景気が上向くかもしれないが、持続はできない。お金の量を増やしただけでは、期待に働きかけることが精一杯であり、継続的な景気回復は望めない。

 金融緩和で円安・株高になったことは評価しなければならないが、デフレからは脱却することができなかった。

■貧血患者に「献血」を勧めるヤブ医者

 大事なことは、本当にお金が循環すること(フロー)であり、お金が有ること(ストック)ではない。貧血で入院している患者の前に献血用の血液パックをいくら積んでも、その患者が健康になるわけではない。その献血用の血液を本当に患者の体内に注入し、その血液がグルグルと体内を回り始めることで、ようやく患者の健康は取り戻される。(あくまでもたとえ話)

 300兆円刷ったのあれば、そのお金を大々的に市場に流さなければ宝の持ち腐れになる。政府が民間企業に対して、大きな仕事を発注するという形で、お金をどんどんと流せば、景気は必ず良くなるはずだったが、そんな単純なことができなかったために、デフレ脱却を逃し、景気を良くすることができなかった。

 リフレ派は「血液を増やせ」と言い、財政再建派は「血液を増やしてはいけない」と言う。しかし、どちらも「輸血せよ」とは言わなかった。これでは、経済が健康になる道理が無い。

 その上、財政再建派は患者に「献血をせよ」と言い出した。「消費増税をすること」は貧血患者が「献血をすること」と同義だ。献血は健康な人がするものであるという当たり前のことすら理解しようとしない。これでは、ヤブ医者(経済音痴)と言われても仕方がないと思う。

 民間にお金を使えと言っても、デフレ下で需要が足りないため、リスクが高過ぎて、そう簡単には設備投資などできない。デフレ下では、お金を貯めることが最も合理的な判断となってしまうため、企業は内部留保を貯め込むことになり、国民は貯金することが最も利口な判断となってしまう。デフレ下では物の価値が下がり続け、お金の価値が上がり続けるのだから、消費よりも貯蓄が優先されることは道理に適っている。

 デフレ下では、国民が総じてミクロ経済学の信奉者にならざるを得ないため、政府が大消費者・大投資家となって行動しなければいけないのである。

■日本経済は世界随一のデフレ病

 20年程前までは、国の大口の仕事を民間企業が受注し、経営的に潤うということもよく見られた。その当時は、現在のような競争入札のようなことも比較的に緩く、国からの利益率の高い仕事は、民間企業にとっては、一種の恵みの雨のようなものだった。民間企業通しの価格競争でギスギスしている時に、価格競争とは無縁の国からの仕事は非常に有り難いものだった。経済の成長と安定には、そういう緩さも時には必要なのだが、20年程前からは、国の仕事も1円の差を競う競争入札のような様相を呈し、骨折り損のくたびれ儲けのような民間企業が増加した。

 経済の病気は大きく分けて「インフレ病」と「デフレ病」の2つがある。

 「インフレ病」とは肥満、「デフレ病」とは痩せ過ぎと考えると、その治療法は全く異なる。

 肥満の人は食事節制して減量しなければならず、痩せ過ぎの人は栄養を取って体重を増やさなければいけない。これは誰でも理解できると思う。

 しかしながら、「インフレ病」と「デフレ病」の治療法は分かれていない。どちらも「構造改革」や「規制緩和」が特効薬だと思われているフシがある。そして、どちらにも「減税」が有効で、「増税」は無効だと思われている。

 肥満の人に食事を与え過ぎることは御法度であり、痩せ過ぎの人に断食をさせることも御法度だ。しかし、この国の経済の世界では、そういった御法度が通用してしまっている。

 不景気(貧血)であるのに増税(献血)をするとか、デフレ(需要不足)であるのに価格競争(供給過剰)を強いるとか、病に対する治療法が全く逆さまになっていても、ほとんどの医者(学者や政治家)はそのことに気付かない。

 「インフレ不況」と「デフレ不況」は真逆の不況であり、その違いを混同している限り、正しい処方箋を出すことはできない。

 「構造改革」や「規制緩和」はインフレ病の特効薬であり、「増税」はインフレ病には有効となる。

 現在の日本経済はインフレ病ではなく、世界随一のデフレ病なので、その治療法は真逆になる。この受け入れがたい事実を認めない限り、デフレ脱却はできない。

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