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米CDCのインフルエンザ流行状況のグラフが興味深い

米CDC(アメリカ疾病予防管理センター)は季節性インフルエンザの流行状況のレポートを毎週更新している。定期的にウォッチしているがなかなか興味深い。

■Weekly U.S. Influenza Surveillance Report | CDC

インフルエンザの流行状況を正確に把握できる単一の指標はなく、さまざまな指標が公開されているが、今回はその一つである「全死亡者数に占めるインフルエンザおよび肺炎による死亡者数の割合」に注目しよう。たとえばある週の全死亡者数が6万人、インフルエンザによる死亡が1500人、肺炎による死亡が4500人だと、全死亡者数に占めるインフルエンザおよび肺炎による死亡者数の割合は、(1500+4500)/60000 = 10%になる。

死亡率(一定期間の間の人口当たりの死亡数)を計算するには総人口の情報が必要だが、死亡者数の割合だと死亡統計だけから算出できる。肺炎による死亡を含めるのは、インフルエンザによって死亡しても必ずしも死亡統計として数えられるとは限らないから。もちろんインフルエンザに関係ない肺炎死も合算されるので大雑把な指標ではあるが、インフルエンザの流行の現状をすばやく把握する役には立つ。

アメリカ合衆国では全死亡者数に占めるインフルエンザおよび肺炎による死亡者数の割合は、例年は6~8%を推移しインフルエンザが流行する冬季に高くなる。2017年から2018年にかけてのシーズンはインフルエンザが大流行し、10%を超える週もあった。おそらく大多数の方はお忘れになっているだろうが、2020年1月から2月にかけて、「アメリカ合衆国ではインフルエンザが猛威を振るい始めた」というニュースが流れていた*1。2020年1月の全死亡者数に占めるインフルエンザおよび肺炎による死亡者数の割合が例年の閾値を超えていたことがグラフからわかる。

全死亡者数に占めるインフルエンザおよび肺炎による死亡者数の割合(2020年2月)

2020年2月上旬と言えば、ダイヤモンド・プリンセス号の乗客に新型コロナの感染が確認されたころで、アメリカ合衆国はほぼ対岸の火事状態。新型コロナよりも季節性インフルエンザを警戒するのも無理はなかった。「インフルエンザとされた患者の中にはかなりの数の新型コロナウイルス感染者が含まれている。すでにアメリカ合衆国では新型コロナは蔓延しているんだよ!!」という言説もみられたが、現時点で振り返ってみればもちろん、その当時であってもその可能性はほぼなかった。例年でも2020年1月から2月の程度の閾値超えは普通にみられたし、検査によるインフルエンザ診断数も増えていたからだ。

新型コロナに限らず肺炎死を引き起こす病気が流行すれば、肺炎死の増加と検査によるインフルエンザ診断数にギャップが生じることでわかる。複数の指標を用いる利点の一つであろう。実際、アメリカ合衆国で新型コロナが本格的に流行すると、全死亡者数に占めるインフルエンザおよび肺炎による死亡者数の割合は激増した。第一波のピーク(4月中旬)には16%に届こうかという勢いだった。検査によるインフルエンザの診断数はほぼゼロであり、増加分のほとんどすべてが新型コロナによると考えられる。2020年第30週(7月末)のグラフを引用しよう*2

全死亡者数に占めるインフルエンザおよび肺炎による死亡者数の割合(2020年7月)

新型コロナが原因で亡くなっても死亡診断書に肺炎の病名がついていないと数え落としが生じるため、「インフルエンザおよび肺炎による死亡者数」で評価すると、新型コロナの影響を過小評価してしまうようだ。つい最近’(少なくとも10月1日以降)、割合に新型コロナによる死亡も含まれるようになり、インフルエンザおよび新型コロナによる死亡者実数の情報が追加された。これまでグラフでは左のY軸は"% of All Deaths Due to P&I"「全死亡者数に占めるインフルエンザおよび肺炎による死亡者数の割合」であったのが"% of All Deaths Due to PIC"「全死亡者数に占めるインフルエンザ、肺炎および新型コロナによる死亡者数の割合」に変更された。Pが肺炎、Iがインフルエンザ、Cは新型コロナである。

全死亡者数に占めるインフルエンザ、肺炎および新型コロナによる死亡者数の割合(2020年10月)

新型コロナによる死亡を合算すると新型コロナ流行の第一波のピークである2020年4月中旬では28%近くであった。7%程度は例年通り(ベースライン)で新型コロナ以外の原因による肺炎死で説明できるが、残りはほぼ新型コロナによる死亡と考えられる。実数も図示されて季節性インフルエンザよりもずっと死亡者が多いことがわかる。

新型コロナについて十分な情報がなかったころならともかく、いまだに「新型コロナウイルスの毒性はインフルエンザウイルスと大差ない」とか、ひどい場合は「インフルエンザより毒性が弱い」という主張がなされることがあるが、そのように主張するなら6万人が亡くなった2017年から2018年にかけてのインフルエンザ大流行よりも明らかに肺炎死が多い事実について何らかの説明が必要だろう。

参考:
グラフは■Weekly U.S. Influenza Surveillance Report | CDCおよびその■アーカイブからの引用である。2020年第5週時点のグラフは■Weekly U.S. Influenza Surveillance Report | CDCから、2020年第30週時点のグラフは■Weekly U.S. Influenza Surveillance Report | CDCから。

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■軽症であればインフルエンザが心配だからと病院に行くのはおすすめしない

*1:たとえば■感染者2200万人・死者1万人以上 アメリカ、爆発的「インフル猛威」のなぜ | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

*2:第二波がすぐ下がっているように見えるのは最新データは過小評価されるているため

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