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学術会議任命拒否 焦点は/憲法と国民全体への攻撃

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 菅義偉首相が日本学術会議の推薦する6人の会員候補の任命を拒否したことが、日本学術会議法や憲法23条の「学問の自由」に抵触することが、いよいよ明白となっています。

 菅首相の任命拒否は特定の科学者への攻撃にとどまらず、憲法が保障する「思想・良心の自由」「信教の自由」「表現の自由」「言論の自由」への攻撃につながる重大問題です。問題の焦点を振り返りました。

本質は「学問の自由」の侵害

「会員選考の(政府からの)独立性はまさに『学問の自由』に位置付けられる」―広渡清吾元学術会議会長は、菅義偉首相による任命拒否で問われているのは「学問の自由」であると指摘しました(9日、野党合同ヒアリング)。

 任命拒否は、拒否された6人の研究者だけの問題ではなく、日本学術会議への介入であり、日本国憲法23条の「学問の自由」への侵害です。科学と学問は国民の共有財産です。学問の自由を侵害する動きは国民全体の権利に対する攻撃です。

 憲法に「学問の自由」が書き込まれたのは、戦前、侵略戦争遂行のために「学問の自由」が侵されたことへの反省からです。

 本格的な中国への侵略戦争を始めた満州事変(1931年)以後、学問・思想への歴史的な弾圧事件が起こりました。京都帝国大学の滝川幸辰(ゆきとき)教授の自由主義的な刑法学説が右翼から攻撃されると、大学の反対を無視して、文部省は滝川を休職処分にしました(33年)。

 政党政治の理論的基礎になった美濃部達吉の「天皇機関説」を政治家などが攻撃し、政府は学問上の理論である天皇機関説を否定する声明を出しました(35年)。これらの学問・思想への介入から、国民の思想統制が行われ、侵略戦争が進められたのです。

 この痛苦の歴史の反省に立って「学問の自由」は定められ、それに基づいて日本学術会議も創立します。

 学術会議法第3条で「独立して」と書かれ、政治からの独立性、自律性を定めているのは「学問の自由」を保障するためです。

 広渡氏は、「政府の科学に対する態度で一番大事な点は、科学が独立に自由に真理を追究することを目的としていることを保障すること」と主張します。

「形式的任命」が保障

 政府は、「学問の自由」を保障するために「形式的任命」を行うと認めていました。1983年、学術会議の会員について、学者による公選制から、推薦に基づく任命制にする日本学術会議法の改定案の審議で、政府は推薦された者を拒否することなく全員任命する「形式的任命」だと繰り返し答弁しています。

 中曽根康弘首相(当時)は「政府の行為は形式的行為であると考えれば、学問の自由・独立というものはあくまで保障される」(同年5月12日)と明言しています。つまり、「学問の自由」を守るために「形式的任命」をしていたのであり、今回の任命拒否はまさに「学問の自由」への侵害にほかなりません。

 日本共産党の田村智子参院議員が8日の参院内閣委員会で、任命拒否が可能であるという法解釈を示す文書があるのかと質問すると、木村陽一内閣法制局第一部長は「私が知る限り見当たらない」と、学問の自由を守るための「形式的任命」を否定する政府の文書を示せませんでした。

任命拒否の根拠 完全に崩壊

 菅政権は、任命拒否が日本学術会議法に反しない根拠として、内閣府が2018年に作成した文書を挙げています。

 同文書には、“日本学術会議の推薦のとおり、首相が任命すべき義務はない”“首相は、任命権者として、日本学術会議に人事を通じて一定の監督権を行使できる”との見解が記されており、内閣法制局がこれを了承したとしています。

法解釈の変更

 これは、これまでの政府の国会答弁を百八十度覆す法解釈の変更であり、それを国会に諮らず勝手に行うことは立法権に対する明らかな侵害行為です。

 内閣法制局は「法解釈の変更ではない」などと弁明し、その整合性を言いつくろうために、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利」とした憲法15条を持ち出しましたが、この論法でも、政府の任命拒否を正当化することはできません。

 日本共産党の田村智子議員は8日の参院内閣委員会で、内閣法制局がよりどころとしている1969年7月24日の衆院文教委員会での高辻正己内閣法制局長官(当時)の答弁を紹介。

 高辻氏が「明らかに法の目的に照らして不適当と認められる場合」以外に、政府に任命拒否の裁量が与えられていないとしていることを示し、菅首相の任命拒否が日本学術会議法の目的に照らして不適当と認められる理由を示すよう迫りました。

 これに対し、政府は何一つ理由をあげられず、「人事とからむので答えは、差し控える」(内閣府の大塚幸寛官房長)と逃げの答弁を打つだけ。国民主権原理にもとづく憲法15条を持ち出しながら、国民には任命拒否の理由を説明できないなどあってはならず、任命拒否の根拠は完全に崩壊しています。

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