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選択と集中の罠(その2)

 さて、10月2日のブログ「選択と集中の罠(大学改革の行方その10)」で、10月1日に科学技術政策研究所主催の「研究に着目した日本の大学ベンチマークと今後の大学のあり方について」というシンポジウムが六本木の政策研究大学院大学で開かれ、僕にパネルディスカッションでの発表の機会が与えられたお話をしましたね。

 実は昨日内閣府の総合科学技術会議の基礎研究・人材育成部会があり、僕の席の一つ隣に座っておられた国立横浜大学の藤江教授から、僕のシンポジウムでの発表原稿を、研究担当の先生が読むようにと、もってこられたというお話を伺いました。そんなことで、僕の原稿は関係筋、特に地方大学の皆さんにけっこう読まれているかもしれませんね。

 そのスライド原稿は文科省の科学技術政策研究所のHP上ですでに公開されているのですが、ブログ上では詳しくお話をしていいないので、重複することになりますが、数回に分けてお話をすることにしましょう。また、発表当日は持ち時間が10分ほどしなかく、データを十分に説明する時間がなかったので、当日言えなかったこともブログ上でお話ししたいと思います。

 今日のタイトルは、「選択と集中の罠(大学改革の行方その10)」の続きということで、「選択と集中の罠(その2)」としました。


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 このシンポジウムのディスカッションポイントは、モデレーターのの有本建男さんが準備されました。そのディスカッションポイントにそって、スライドが構成してあります。まず、今日のブログでは、最初の「ベンチマーク等の調査分析の役割、課題、今後の方向(海外主要国との国際比較など)について」です。

 科学技術政策研究所のベンチマークデータについては、基調講演で研究所長の桑原さんがお話になりました。その内容は下のサイトから見ることができますので、ぜひご覧ください。

http://www.grips2012-symposium.org/univ_benchmarking2012/program.html


 僕の発表では桑原さんのデータとあまり重複しないように、僕独自のデータを中心にお示しをしました。すでにこのブログ上で、読者の皆さんに何回かお示しをしたデータです。

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 まず、このブログでもすでにおなじみのトムソンの論文データバースInCitesによるグラフです。日本だけが停滞をしており、他の海外諸国がすべて右肩上がりで、国際競争力がどんどんと低下していることがわかりますね。

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 下の図は、6月27日の僕のブログ「あまりにも異常な日本の論文数のカーブ」でお示しをしたグラフですね。このブログは1日のアクセスが6万7千件という、びっくりするアクセス数を記録しました。

 その際、なぜ、日本だけがこのような異常なカーブを示したのか、いろいろと考察をしましたが、おおむねその推測は間違っていなかったと思います。データ元で、Scopusという論文データベースを販売しているエルゼビア社に問い合わせたところ、このデータはカンファレンスペーパー、つまり、学会等の抄録も含んだデータであったということです。Scopusでも原著論文だけのデータでは日本の論文数は上に凸のカーブにはならずに、ほぼ横ばいになるとのことです。海外諸国はもちろん右肩あがりです。

 どうも、カンファレンスペーパーを含めると、ちょっとした影響で上がったり下がったりして、カーブが不安定になるようです。

 また、トムソンの論文数のデータに比較して、Scopusでは論文数が急な傾斜で増加する時期があるのですが、それは、ちょうどこの頃、データベースを完備するために、収載する学術雑誌数を急増させたことが一因であろうということでした。なお、それ以降は、安定した学術誌収載をおこなっているとのことでした。

 でも、トムソンのデータにしろ、エルゼビアのデータにしろ、原著論文にしろ、カンファレンスペーパーにしろ、日本全体の学術研究のアクティビティーの国際競争力が低下しているという結論にまったく変わりはありません。(山中先生はノーベル賞をとりましたが・・・)

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 相対被引用度という論文注目度の世界平均を1とした場合の各国の被引用度の比較ですが、欧米の主要国は軒並み右肩上がりです。日本も最近若干上昇傾向にありますが、そのカーブが緩慢で、欧米諸国に水を開けられており、やっと世界平均に到達したところです。

 一方中国・韓国等の新興国は、日本を追い上げてきていましたが、2010年に急に下がっていますね。一方、欧米先進国は、この年に、鏡像のように急激に上昇しています。

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 この相対被引用度の上下の動きの解釈としては、いくつかの可能性が考えられると思います。以下に、考えられるいくつかの見方を列挙しておきます。

1.もっとも単純な見方

   上昇⇒論文の質向上の努力により、その国の注目度の高い論文の割合が向上

   下降⇒論文の質向上努力が足りず、その国の注目度の高い論文の割合が低下

 なお、文科省科学技術政策研究所のデータでは、国際共著論文の方が単著論文よりも被引用数が多くなる傾向にあり、国際共著論文の割合が高い国ほど、相対被引用度が高くなる傾向にあります。 欧米諸国の国際共著論文の割合は50%に近く、日本の約2倍あります。

2.少し穿った見方

 新興国の学術誌のデータベースへの収載(仮説)

新興国が論文数を増やしていく過程では、学術が先行している欧米の論文をたくさん引用せざるを得ず、一方、先進国はまだ新興国の論文をあまり引用しない段階なので、データベース上で新興国の注目度の低い論文数が増え、一方先進国の論文の被引用数が増える。

⇒先進国では、論文の質向上の努力をしなくても論文の相対的な注目度が自然に向上する。(努力をした場合にはもっと上がる。)一方、新興国では、実際には質の高い論文数の割合は減っていないのに、新興国の学術誌収載に伴って、データベース上では相対被引用度は低下する。

 実際に確認したわけではないので、正否のほどはわかりませんが、中国・韓国等の新興国で相対被引用度が2010年に急激に低下している理由として、ひょっとして新興国の発行している学術誌の収載をこの年に急に増やした可能性があるのではないかと疑っています。

 もし、この仮説が正しいと仮定するならば、2010年に欧米先進国の相対被引用度が急激に上昇しているにもかかわらず、日本の相対被引用度がまったく増加していないことは、まことになさけない話になりますね。つまり、新興国の論文に欧米諸国の論文は引用されているのに、日本の論文が引用されていないことを示しているかもしれませんからね。

 また、論文の質の面では、まだ、中国・韓国に追い抜かれていないと考えるのも、楽観的すぎると思います。新興国が論文数を急激に増やしてくる過程では、先ほどの仮説に基づけば、新興国は学術で先行している先進国の論文を引用せざるを得ず、また、先進国は新興国の論文をまだあまり引用しない段階なので、必然的に先進国の相対被引用度が上がり、新興国の相対被引用度が下がる傾向が生じるからです。これは、要するに、先進国が10~20~30年、学術研究が先行しているという一日の長があることを示しているにすぎないかもしれません。こういう状況で日本の相対被引用度が上昇しないことは、ひょっとして日本の論文の質が劣化していることを意味しているかもしれしれません。まだ、少し時間がかかるかもしれませんが、論文の質の面でも新興国に早晩追いつかれ、あるいは追い抜かれることは明らかだと思います。

 また、日本の相対被引用度の上昇率が緩慢であることの理由として、「臨床医学」が足を引っ張っていることが考えられます。後のスライドで出てきますが、臨床医学の日本の相対被引用度は、昔から0・8のままで推移し、いまだに0.8のままで、向上する兆しすら見えません。世界平均にも達しないなんて、なんとなさけない話でしょう。しかも、臨床医学の論文数は数が多いので、その被引用数の低さが全体に大きな影響を与えます。

 臨床医学論文の質の向上のための研究体制の整備を急ぐ必要があると考えます。

(このブログは豊田の個人的な感想を述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない。)

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