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令和元年台風19号から1年 被災したリンゴ農園で収穫最盛期「申し分ない出来」

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写真:徳永虎千代

「4mの高さまで浸水したリンゴの木はどうなるか分からないし、地域全体が終わってしまうのかなという思いがよぎりました」

言葉を選びながら、令和元年台風19号をそう振り返ったのは長野のリンゴ農家・フルプロ農園の徳永虎千代さんだ。

フルプロ農園は全国でも有数のリンゴ産地である「アップルライン」と呼ばれるエリアの中に位置する。現在、2020年の収穫最盛期を迎えているこの地域だが、ちょうど1年前に10月12日から13日にかけての豪雨による河川の氾濫で甚大な被害を受けた。

被災当時のこと、その後1年をどう乗り越えて今に至ったのか徳永さんに話を聞いた。

台風当日は「大したことない」という印象だった

2019年10月14日の様子 写真:徳永虎千代

2019年10月12日、「大型で猛烈」な勢力の台風19号が伊豆半島に上陸し各地に大きな被害をもたらした。中でも被害の大きかった長野県では15人が死亡、住宅は920棟が全壊し、1360棟が床下浸水に見舞われた。被害総額は2766億円にものぼるとされ、氾濫した千曲川周辺の「アップルライン」では、浸水被害などにより損失したリンゴが1億4000個と試算されている。

この地域でリンゴ農家の4代目として生まれた徳永さんは、「フルプロ農園」を立ち上げ地域のリンゴ産業を活性化させるべく活動してきた。

強い勢力の台風が迫っていると報じられたとき、徳永さんは対策としてリンゴを収穫し、倉庫に保管して備えた。当日は、雨風こそ激しくなったものの徳永さんの印象では「そんなに強くないな」という程度だった。夜中には警戒アラートが延々と鳴り続けたが、気に留めることはなく夜を過ごしたと振り返る。

しかし13日の朝目覚めてニュースを見ると、様変わりしたアップルラインの様子を映した上空からの映像が飛び込んできた。上流からの増水で千曲川が氾濫し、アップルラインは広大なエリアにわたって4mもの高さで浸水。リンゴの木や家屋、倉庫は泥水に飲み込まれていた。

写真:徳永虎千代

徳永さん自身は少し離れた長野市近くに住んでいたため当日は現地に近づくことができず、水が引いた後日、ようやく足を踏み入れるとそこには「悲惨な光景」が広がっていた。農園だった場所にはゴミが散乱して、すべてが真っ黒な泥にまみれている。隣にある倉庫や、その中の農機具、収穫したリンゴはすべてダメになっていた。

「4ヘクタールの畑なので本当は50トンくらいのリンゴが収穫できる。しかし3.7ヘクタールほどが水没して、去年は結局、一部残った3,4トンしか獲れなかった。

リンゴが出荷できないのに加えて、農機具で2500万円、倉庫は3000万円強の損失です」

泥まみれのリンゴ畑を前に、何をするべきか、今後どうなるのかも考えることができず、ただただ頭が真っ白になったという。

年をまたいで4月まで続いた掃除 離農する高齢者も

写真:徳永虎千代

徳永さんの畑は台風後に1ヘクタール増えて、5ヘクタールになっている。被災を機に辞めていく高齢の農家もあり、徳永さんが引き受けるなどしたからだ。

「家、家財道具、畑もダメ。儲けもなくなって、補助金があるとはいってもそこから立て直す気力や体力を考えると、高齢の農家さんにとっては厳しい。

若い世代は再起して頑張ろうと考える人が多かったと思いますが、70代の農家さんがそう思えないのは理解できる」

一方、そこからの復興は多くの人の助けのおかげだと徳永さんは感謝を口にする。

SNSで被害について投稿すると多くの応援メッセージが寄せられ、LINEでボランティアを申し出るメッセージが集まった。実際に毎日のように長野市内や東京からも多くの人々が訪れた。

畑を整備する作業は、12月までに終わらせたいと考えていたが間に合わず、その後は雪によってストップした期間もあり結局4月までかかってしまった。

「今年のリンゴの出来は申し分ない」

奇跡的に台風を乗り越えたリンゴもわずかにあった 写真:徳永虎千代

気になるのはリンゴの木だ。広大な面積の木がほぼ水没し、畑の復興には何年もかかりそうな印象を受けるが意外にもそういうわけではないという。

「去年の果実はダメになったけど、木自体は問題なかったんです」

リンゴの木は水害に強く、一度は2日にもわたって水に浸かったが、今年は果実を実らせて保健所の審査も通ったという。

河川の氾濫によって土壌は肥沃になるとされ、今年のリンゴについても「出来は申し分ない」と語る。

「もともと高齢化や担い手不足の影響を受けていた上に災害を理由に辞めていく方もいて、地域全体の衰退のスピードが加速していくことも懸念された。盛り上げていくのは若者の役目、そして責任だと思っている。地域のリンゴ文化を活性化する思いは強まった」

被災地を支援するリンゴレシピが本に

リンゴのレシピで被災地を支援した料理人・神谷隆幸さん © 神谷隆幸(Licensed under CC BY SA 4.0)

リンゴ農家を支援する活動はネット上でも広がりを見せた。1年前の台風被害直後、リンゴ農園の被害を知った国内外の料理人が、「#被災地農家応援レシピ」というハッシュタグを付けてツイッター上でリンゴを使った料理のレシピを公開。被災地のリンゴ購入を呼びかけ、サイトでは多くのリンゴが瞬く間に完売した。

リンゴのレシピ公開に積極的に参加した料理人らが結成した「#CookForJapan」は、徳永さんが立ち上げ1100万円を超える金額を集めたクラウドファンディングのリターンとしての食事会の開催に協力するなど、様々な形で支援に参加した。今後も有志メンバーで、災害時に被災地を支援する活動を継続的におこなっていくことにしている。

被災地を支援したリンゴのレシピは、1年のときを経て本にまとめ出版が決まった。活動の発起人でもある南仏のシェフ・神谷隆幸さんは「(台風19号被災から)ちょうど1年で本が届くように調整しています」と明かす。

南仏のニースでは、2016年、花火の見物客にトラックが突っ込み80人以上の死者を出すテロ事件が発生した。神谷さんはそれを機にニースを離れ、より良いレストランを築くことを決意して去年新たな場所で無事に店をオープンさせている。

「絶望には希望。ニースのテロで思ったことです。

(農家の方々が)辛い思い出の日に、こうやってみんながリンゴ買ってくれるから頑張らなきゃって前を向いて、またリンゴ作る希望になったらなと思ってこの日にしました」

年々被害が大きくなる台風。過去の知見をもとにした備えが重要なのは言うまでもないが、それでも被災は免れえないのが現実だ。絶望的な被害から立ち上がる人々の姿は、今後誰かの希望の光になるに違いない。

書名:「りんごのレシピ」
体裁:本体80頁、オールカラー、A5判
定価:2500円(税込、送料別)
発行:一般社団法人CookForJapan


【関連記事】タルトタタンが救った長野の台風被災地 シェフ・パティシエらが支援の輪 - 川島透(BLOGOS編集部)

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