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性的虐待に声をあげる勇気 #MeTooの起点描く『その名を暴け』が示す社会の変化

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日本は性暴力の被害者が声をあげにくい社会である。被害を受けた女性を攻撃し、非があるかのように扱う風潮は根強い。一例として、最近であれば国会議員の問題発言が挙げられるだろう。「自民党の杉田水脈衆院議員が『女性はいくらでもウソをつける』と発言したとされる問題で、杉田氏は1日、自身のブログに『ご指摘の発言があったことを確認した』と投稿した。

当初、発言を否定していたが一転して認めた。自民はこれ以上の対応をしない構えだが、抗議の声は収まっていない」(朝日新聞10月2日29面)。この発言があったのが「女性の性暴力に関する相談事業」を議論する党会議だったというのだから、絶望感は深まるばかりだ。彼らが会議室でいったい何を話し合っていたのか、著者には想像がつかない。

周囲の黙認で続く虐待行為

被害を受けた女性が声をあげにくい状況は、日本に限った話ではない。2017年に大きく報道された、アメリカの映画プロデューサー(ハーヴェイ・ワインスタイン)の性的虐待事件を記憶している方も多いだろう。

Getty Images

アカデミー賞の受賞作品を連発した敏腕プロデューサーが、女性俳優や、みずからが経営する映画会社の女性従業員に対して、20年以上にわたって性的虐待をくわえていた犯罪事件は社会に衝撃を与えた。さらには、多くの関係者が事実を察知しながら黙認していた、誰にも止められないまま虐待行為が長期間継続していたという点に、女性が性的被害に声をあげることの難しさが見て取れるだろう。

米ジャーナリスト、ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーによるルポルタージュ『その名を暴け #MeToo に火をつけたジャーナリストたちの闘い』(新潮社)は、ニューヨーク・タイムズ社が報道したハーヴェイ・ワインスタインの性的虐待事件に関する取材記録である。

アメリカ本国では2018年にピューリッツァー賞を受賞した本書だが、2020年7月末に日本で翻訳が発売されると、こちらも一時は入手が困難になるほど話題となった。ワインスタイン事件は、後の#Metoo運動へつながるきっかけでもあり、記憶に残っている方は多いだろう。取材を担当したふたりの調査報道記者が事件の告発に踏み切るまでにはどのような経緯があったのか、また被害にあった女性がどのような苦しみを抱いていたかが具体的に書かれており、できるだけ多くの方に知ってほしい充実した内容となっている。

リスクが大きい性的虐待の実名告発

ふたりの記者はかねてから、ワインスタインにまつわる業界内の悪評や、有名女性俳優がSNS上で実名を挙げずにほのめかした映画プロデューサーからの性的虐待について疑念を抱いていた。本書は、被害を受けたと思われる女性にひとりずつコンタクトし、慎重に情報を収集していくところから始まる。調査を進めるなかで、どうやらワインスタインは数多くの女性に性的虐待をくわえ、騒ぎが大きくなりそうな場合は示談へ持ち込んで沈黙を強いるという行為を繰り返していたことが判明する。

告発記事の準備が進められるが、実際に記事にするには性的虐待の証拠(示談書の写し等)を入手し、実名で情報提供してくれる複数の女性を見つけなくてはならない。これは非常に難しい条件である。性的虐待の実名告発にはリスクがあり、身の危険を感じた女性は表立っての発言を避ける傾向があるためだ。

さらには、ニューヨーク・タイムズが記事を準備していると知ったワインスタイン側は、潤沢な資金と強い影響力を使って、記事を差し止めようと妨害してくる。ワインスタインはやがてイスラエルの諜報機関まで雇い入れ、あの手この手で記事の公表を止めさせようと画策するのだ。幾多の困難を乗り越え、果たして告発記事は発表できるのか……というのが本書の大まかな展開である。

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『その名を暴け』のすばらしさは、それまで誰も耳を傾けてこなかった被害者女性の声を丹念に集めていく記者の取材過程と、声をあげることを決意した女性たちの精神的変化にある。被害を受けた女性は、ワインスタインの強大な権力、財力の前になす術がなかった。

周囲の人間も彼の性的虐待を黙認するばかりか、時には積極的に状況へ加担し、事実の隠蔽に協力していた。女性が被害に悩んだとしても、入社時の契約書や示談書に記載された「秘密保持契約」に縛られているため、他人にいっさいの情報を漏らすことを禁じられ、誰にも相談できないまま秘密を抱え込んでいることが多い。被害にあった女性のなかには、夫にすら過去の体験を説明できず長らく苦しんでいた人もいたという。こうして権力によって孤立させられていた女性たちをひとりひとり探し当て、話を聞いていくふたりの記者は、取材という行為を通じて失われた連帯を取り戻していくかのようである。

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