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『14歳からわかる生活保護』の巻‐雨宮処凛がゆく! - 雨宮処凛

10月22日、書き下ろし本を出版した。

タイトルは『14歳からわかる生活保護』(河出書房新社)。

今、この国の「最後のセーフティネット」が切り崩されようとしていることは前回の原稿でも触れた通りだ。

8月に成立した「社会保障制度改革推進法」では生活保護制度の見直しを実施することが明記され、同月、閣議決定した来年度予算の概算要求でも「生活保護の見直し」の方針が示されている。また、社会保障審議会の生活保護基準部会は、年末までに生活保護基準に関しての結論を出す見通しだ。

とにかく、このまま行くと「生活保護バッシング」を最大限利用する形で、社会保障の土台である生活保護が切り崩されそうなのである。

「だけど生活保護受けてる人が増えて財政が大変なら仕方ないんじゃない?」

そんなふうに思う人もいるはずだ。

しかし、生活保護基準が下がれば、最低賃金にも影響する。現在、最低賃金で働いた額が生活保護を下回っている地域があることが問題視されているが、「だから生活保護を下げよう」となってしまうと、それに連動する形で最低賃金も下がってしまう。必要なのは「フルで働いても生活保護基準に届かない」最低賃金の引き上げであることは、多くの人が認めるところではないだろうか。これじゃあ「どん底への競争」が加速するだけだ。

また、基準の引き下げだけでなく、前回書いた「扶養困難な理由の説明義務づけ」など、多くの問題を孕む形での引き締め案が目白押しだ。

それでも生活保護に関して、不正受給などの悪いイメージや「恥ずかしいもの」という意識がある人は多いと思う。私自身も、貧困問題にかかわるまで誤解と偏見に満ちた情報に晒され、ものすごく偏った印象を持っていた。

しかし、このことこそが、問題なのだと思う。「困った時の最後のセーフティネット」なのに、多くの人がその「使い方」すら知らない。どこに行ってどういう手続きをして、その上でどんな言い方をすれば福祉事務所との「攻防戦」(こういうのがあることがまずおかしいんだけど)を乗り越えられるのかも知られていない。学校でも家庭でも、おそらくほとんど語られることがない。多くの人は、正しい情報をあまりにも知らない。だからこそ、「なんとなく悪いイメージ」が蔓延する。そして「よくわからない」から、バッシングが起きる。知らないから、一方的で勝手なイメージが一人歩きする。そして多くの当事者はバッシングを恐れて声を上げることができないでいる。

今年の5月、お笑い芸人の家族の問題で大々的なバッシングが起きた時、心配したのは「『生活保護=悪』というイメージが植え付けられることによって、生活保護家庭の子どもがいじめに遭うようなことはないだろうか」ということだった。だからこそ、14歳でもわかるように、この本を書いた。

本書で、まずは基礎的なデータに触れた。この連載をずっと読み続けてくれている人はご存知だと思うが、生活保護を受けている世帯でもっとも多いのは「高齢者世帯」で42.9%であること。次いで多いのが「傷病者・障害世帯」で33.1%であること。実に8割近くを高齢者、病気や障害で働けない人が占めていること。そして「稼働年齢層」と呼ばれる18〜64歳は16.4%で、その半分以上を50代以上が占めていること。また、メディアで取り上げられがちな不正受給に至っては、2010年で1.8%。額にして0.4%以下であること。

現在、生活保護を受けている20代の男性と、少し前まで受けていた40代女性にも話を聞いた。また、「もやい」の稲葉剛さんには生活保護の基礎的なことをインタビューし、元厚生省の官僚であり、現在は「生活保護問題対策全国会議」の代表幹事である弁護士の尾藤廣喜さんにもお話を聞かせて頂いた。40年近く、生活保護問題、貧困問題に取り組んで来た弁護士さんだ。尾藤さんへのインタビューでぜひ読んでほしいのは、海外の生活保護制度について語られている部分。日本の捕捉率2〜3割に対して、フランス91.6%、スウェーデン82%、ドイツが64.6%。捕捉率とは、受けられるべき人がどれだけ受けているかを示す数字だ。日本の捕捉率の低さの背景には、「恥をかかないと受けられない」という実態があることは言うまでもないだろう。対して、ドイツではそんな「恥の意識」を乗り越えるために「失業手当2」という形で職業訓練とセットにし、就労までをもサポートする。職業訓練のメニューも100以上ある。

イギリスも、就労援助に力を入れている。ちなみに大ベストセラー小説『ハリー・ポッター』シリーズの作者は、シングルマザーとして生活保護を受けながらあの小説を書いたというのは有名な話だ。また、韓国では生活保護という名前を「国民基礎生活保障法」に変えた。その上、特筆すべきはライフラインの滞納や周囲から孤立している家庭があると通報を受けると、政府の委託機関がその家に行き、「こういう制度を利用していますか」と勧めるようになったのということ。国が「おせっかい」をあえてやるようになったのである。

対して、この国ではどうか。本書の第一章は、「札幌姉妹孤立死事件」のルポルタージュで構成されている。3度も役所にSOSを発しながら、救われなかった命。極寒の冬、ガスも電気も止められた部屋で発見された2人の遺体。知的障害を持つ妹は、姉の死後、半月ほど生きていたと見られている。姉の遺体の傍らで、妹はどれほどの寒さと飢えと恐怖と、そして絶望を味わっただろう。それを考えると、思わず思考停止したくなってくる。

本の巻末には、生活保護の「申請書」もつけた。

この本によって生活保護への理解が広まり、そしてそれが誰かの命を守ることに繋がれば、こんなに嬉しいことはない。

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