- 2020年10月13日 16:12 (配信日時 10月12日 09:15)
「意外な事実」ネット炎上の参加者は参加しない人より年収が80万円高い
1/2インターネットで「炎上」に参加する人は、全体の約1%ほどだ。それなのに、ターゲットとなった人が身の危険を感じるほどの中傷につながるのはなぜなのか。炎上の書き込みをする人々は何を考えているのか。毎日新聞取材班が取材した——。
※本稿は、毎日新聞のWEB連載「匿名の刃 SNS暴力考」をまとめ、加筆した、毎日新聞取材班『SNS暴力 なぜ人は匿名の刃を振るうのか』(毎日新聞出版)の一部を再編集したものです。

炎上書き込みをする人はわずか1%
炎上に参加するのは意外に「普通の人」であることが分かってきたが、実際に参加しているのは全体から見れば、ごく少数であるようだ。
慶應義塾大学の田中辰雄教授(計量経済学)と国際大学の山口真一准教授(計量経済学)らが2014年に実施した調査で、その一端が明らかになっている。
インターネットモニター約2万人を対象に、炎上への関わりや性別、年齢などの属性を尋ねたところ、炎上を「聞いたことはあるが見たことはない」との回答が約75%を占めた。
一方、炎上に参加した経験がある人は、「1度書き込んだことがある」と「2度以上書き込んだことがある」を合わせて計1.1%だった。質問では「炎上事案に対しての書き込み経験があるか」を尋ねており、批判や中傷に限定していない。炎上している人を擁護する書き込みが含まれることを考えると、批判的な書き込みをした人はさらに少ない可能性が高い。
これとは別に、山口准教授らが16年に約4万人を対象に実施した別の調査結果によると、1件の炎上事例に書き込んだ人のうち、書き込みが3回以下だった人が69%だったのに対し、51回以上の「粘着型」とも言える人は3%だった。山口准教授は「そもそも関与する人は少なく、さらにごく少数の人たちが大量に書き込むことで大きな影響力を持ってしまう。それがネット炎上の特徴です」と語る。
「反応しておく」だけの人が多い
炎上を構成する投稿の内訳については、本書の第2章でも紹介している帝京大学の吉野ヒロ子准教授も分析している。あるパソコン販売店で「高額のサービス解約金を求められた」とした客の投稿をきっかけに炎上した16年の事案に関する約60万件のツイッター投稿を調べたところ、炎上を構成する投稿全体の6割は「なんだこれ」「こんなこと起きてるんだ」といった軽い反応だった。吉野准教授は「炎上というと、ものすごく大量に誹謗中傷が飛び交っているイメージが強いですが、話題になっているから反応しておく、という感じの人がかなり多い」と話す。
さらに、リツイートされる頻度が高かったのは、過激で攻撃的な投稿よりも、騒動を俯瞰してまとめた投稿や、面白おかしくネタにした投稿だったことも分かった。炎上参加者の大半は、冷静な人たちだったとみられている。
テレビ番組とネットニュースが炎上を増幅させる
吉野准教授は、炎上を拡大させる要因として、マスメディア、ニュースメディアの影響も指摘する。2015年に行ったウェブ調査で、炎上を認知する経路として「テレビのバラエティー番組」を挙げた人が50.4%と最も多く、「ネットニュース」が32.2%、「テレビのニュース番組」が28.5%と続いた。「ツイッター」(20.4%)や「2ちゃんねる」(18.4%)の割合は低く、既存のマスメディアやそれを引用したネットニュースの影響力が大きいと言える。
さらに、テレビのニュース番組で炎上を認知した人は、炎上した対象を非難する態度が形成されやすいことも分かった。ニュース番組では「炎上対象が不適切な行動をとったために炎上している」という論調で取り上げることが多いのが原因とみられる。マスメディアやネットニュースが多くの人に炎上を認知させ、さらに攻撃的な態度にも影響を与えているのだという。
炎上記事の量産が、「再炎上」を招く
実際、ツイッターでの炎上が、テレビやネットニュースなどで取り上げられると、さらに多くの人が参加し、再炎上するという現象が起きていることも判明している。吉野准教授は「たいして批判が広がっていないのに、やたらと炎上、炎上と書いて記事を量産しているネットメディアもある。報道を抑制するなど何らかのガイドラインを設ける必要があるのではないでしょうか」と提言し、こう続ける。
「背景には炎上と書けばPV(ページビュー)がとれ、広告収入が増えるなどの事情があるのかもしれませんが、炎上をコンテンツとして消費し続けることは好ましくない。そういうメディアに対して、企業も広告を出さないようにするなど自主的に規制することも対策の一つです」
伊藤詩織さんへの書き込みをウェブサービスごとに分析
ネット中傷や炎上という現象は、ウェブサービスによってその現れ方が違う。評論家の荻上チキさん(38)は、ジャーナリストの伊藤詩織さん(31)に関する約70万件の書き込みを対象にウェブサービスごとに傾向を分析した。
第4章で詳しく触れるが、伊藤さんは2017年、元TBSワシントン支局長の山口敬之氏から性的暴行を受けたとして実名で被害を告発。
19年12月には山口氏を相手取った東京地裁の民事訴訟で山口氏側に賠償を命じる判決(控訴中)が出たが、ネット上では伊藤さんに対する中傷が多く投稿された。伊藤さんは20年6月8日、ツイッター上で伊藤さんを中傷するようなイラストを投稿したなどとして、漫画家のはすみとしこ氏らに対し損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。
荻上さんは20年2月、伊藤さんの弁護団から依頼を受け、訴訟対象とする書き込みを絞り込むため、伊藤さんが性暴力被害を実名で告発した17年までさかのぼり、投稿内容を収集、分析した。
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