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私が旧宮家の皇籍復帰に賛同できない理由(下)

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4.旧宮家の復帰だけではいずれ行き詰まる

 新たな理由のもう1つは、現在の社会制度のまま、旧宮家を復帰させるだけでは、男系継承の維持は極めて困難であることに思い至ったことだ。
 先に述べたように、大正9年の「皇族ノ降下ニ関スル施行準則」により、伏見宮系の宮家の臣籍降下はあらかじめ予定されていた。
 そして、予定より早く、占領期に一斉に臣籍降下することとなったわけだが、それによって皇位継承を危惧する声が生じたとは聞かない。
 何故か。
 昭和天皇には、3人の弟宮があった。そして現在の今上陛下と常陸宮の2人の男児があった。1946年には三笠宮に寛仁親王が生まれている。
 これだけの男性皇族がいれば、当面皇位継承には問題ない。そう考えられていたからだろう。
 しかし、それから60年余りで、皇統は危機に瀕するに至った。
 これは、男系継承を維持することがそうそう容易ではないことを示している。

 では何故これまでは維持してこられたのか。
 それは、側室制度があったからだ。

 側室制度によって、多数の子をもうけることが可能だった。子が多ければ、男子である確率もそれだけ高くなる。
 大宅壮一によると、幕末から明治にかけて成立した伏見宮系の11宮家の創立者は、「一人の例外もなしに妾腹から出ている」という(『実録・天皇記』)。
 また、竹田恒泰によると、仁孝、孝明、明治、大正の4代の天皇は「全て生母が側室」だという。

 竹田は『語られなかった皇族の歴史』でこう述べている。

 このように、万世一系を保つために、世襲親王家と側室制度の二つの安全装置が常に用意されていた。側室制度は皇統の危機を招かぬよう、日頃から皇族を繁栄させ、それでも皇統の危機が訪れた場合は世襲親王家から天皇を擁立することで男系による万世一系を守り抜いてきたのだ。(p.66)



 だが、現在では側室制度の復活は国民感情から難しい。また、側室ではなく皇后を複数立てる方法もあるがこれにも違和感を覚える人が多いだろうと竹田は説く。

 したがって側室制度と複数の皇后を立てる制度の復活が望めない現在は、別の手段、つまり皇族を充実させて傍系からの即位を可能にする方法を強化し、皇統の維持を図らなければならないのではないだろうか。(p.68)



 しかし、伏見宮系の大量の宮家が成立し得たのは側室制度があったからだ。現代の一夫一婦制の下では、やがては現皇室と同様に危機に陥る可能性が高いのではないか。現に、前回紹介した竹田恒泰の『正論』本年4月号の論文によると、旧宮家のうち山階、梨本、閑院、東伏見の4家は絶家となったという。
 旧宮家が皇籍に復したからといって、男子が生まれ続けるとは限らない。その場合、どうするのか。側室制度を復活させるのか。人工的な手段で男子誕生を試みるのか。あるいはもっと遠縁の元皇族を捜すのか。
 そうまでして維持しなければならない男系継承とは何なのか。


5.結語

 そもそも何故天皇は男系継承なのだろうか。
 先人は、男系継承と女系継承という選択肢がある中で、何らかの理由で男系継承を選んだのだろうか。
 いや、イエは(あるいは世襲する高位は)男子が継ぐということが当然とされていたからだろう。
 天皇家に限らない。徳川将軍家も、足利将軍家も、藤原摂関家も皆男系継承である。
 支那の皇帝も、朝鮮の国王も皆そうである。ヨーロッパの諸国も基本的にはそうであった。

 明治時代の皇室典範制定に際して、女性天皇や女系継承が問題になった。
 これは、ヨーロッパに女王や女帝が存在し、女系継承があることが知られていたからだろう。
 当初は、皇位継承権者の男性が絶えた場合には女帝を容認し、女帝に皇子がなければ皇女に継承するとの案もあったという。
 しかし、井上毅は、過去の女帝は臨時的な例外であり、「王位は政権の最高なる者なり。婦女の選挙権を許さずして、却て最高政権を握ることを許すは理の矛盾なり」などとして女帝を否定し、女系継承も皇統が女帝の夫の姓に移るとして否定したという(鈴木正幸『皇室制度』岩波新書、1993、p.56-57)。

 では、女性に選挙権も被選挙権も認められた現代であれば、反対理由の1つが消えることになる。
 それに、皇族は姓を持たないのであるから、女帝の皇子への継承によって皇統が女帝の夫の姓に移るという主張もおかしい。

 伝統に固執する方は、より万全な策として、側室制度の復活を主張されてはどうか。
 さらに、身分制度の復活も主張されてはどうか。
 顔をあらわにすることもなく、御所から一歩も出ない、庶民にとってはいるのかいないのかわからない、そんな前近代の天皇の復活を唱えてはどうか。
 そのようなことが維持できるのであれば、確かに皇室は安泰だろう。
 しかし、現代の国民が望んでいる皇室は、そのようなものではないだろうし、そんな時代錯誤が現代に可能とも思えない。

 一時の国民感情などどうでもいい、伝統の墨守こそが重要なのだという見解がある。
 女系天皇になればそれはもはや天皇ではないとか、崇拝の念が損なわれるとか、果ては日本が日本でなくなるとか。
 わが皇室と国民は、それほど弱々しいものだろうか。

 伝統を墨守するだけならこんにちのわが国はなかった。
 明治維新の主導者は、「王政復古」の大号令を出したにもかかわらず、幕府のみならず摂政・関白をも廃止し、「諸事神武創業の始」にもとづくとして全く新しい政府を成立させた。
 五箇条の御誓文には、

旧来ノ陋習ヲ破リ天地ノ公道ニ基クヘシ

智識ヲ世界ニ求メ大ニ皇基ヲ振起スヘシ



とある。
 わが国は、こうした精神に基づいて近代化を果たし、欧米列強に伍するまでに至ったのではなかったか。
 他方、旧弊を打破できなかった清国や朝鮮は亡び、再興までに長い年月を要した。

 男尊女卑が当然であった明治時代ならともかく、現代においては、女性天皇、女系継承を認めることこそが「天地ノ公道」というものではないだろうか。
 40親等以上離れた傍系の男子を皇位継承者にするという手法は、必ず国民から疑問の声が上がる。それはむしろ天皇制に対する懐疑心を生み、果ては天皇制廃止論に及ぶおそれもある。
 女性天皇、女系継承を認めることこそが、天皇制存続の道だろうと私は思う。

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