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「東京大学総長選」で怪文書が飛び交い、大混乱する日本独特の「筋論」 - 山本 一郎

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 まだゆるゆると日本学術会議が炎上しております。

 日本学術会議が会員に推薦した6名の学者を総理大臣である菅義偉さんが任命拒否したことで勃発したこの事件、設置法(日本学術会議法)の読み方から憲法上規定される人権や学問の自由を巡る論争になってしまいました。どうしてこうなったのでしょう。

菅義偉さん、日本学術会議に介入して面白がられる一部始終

https://bunshun.jp/articles/-/40666


菅義偉 ©文藝春秋

「アベロス」現象からの「スガ政治を許さない」で落ち着いた感じに

 巷では、苦労人として報じられて新総理就任直後は支持率7割を誇った菅義偉さんですが、今回の件で地味に強権政治の謗りを受け、もっぱら政権批判をしたがる左派やマスコミからは「ガースー黒光り内閣」とか「スガーリン」などと揶揄されるようになってしまいました。一時期はサンドバッグ状態になっていた安倍晋三さんが総理でなくなってしまったことにより、批判対象を喪失した「アベロス」現象も心配されておりましたが、菅さんも安倍さんと変わらず「スガ政治を許さない」という文脈も踏襲して我が国の政治論壇もかなり落ち着いた感じがいたします。

 もちろん、今回の日本学術会議ネタは面白いわけですが、これ単体で言えば「少なくとも、菅政権は任命拒否までするのであれば『なぜそうなったのか』を説明して欲しい」と政権には言いたくなります。一方で、この案件を政治問題、政権批判にまで膨らませてしまった以上、日本学術会議自体の改革も議論に出てくることでしょう。

 菅さんの天敵でもある東京新聞の望月衣塑子さんも記事にしていますが、過去にも任命拒否の事例があったと報じられたものの「安倍前政権が本当に任命拒否したならそれは問題ですが、なぜそのときは騒がれなかったのでしょうか」という素朴な疑問を抱きます。

日本学術会議にも問題発覚で全体的に超絶緩んでる

 同様に、日本学術会議は設置法に定められている政府への答申が2007年以降提出されていないという問題も飛び出し、適法ではない(かもしれない)任命拒否をやってのけた菅政権もグダグダだが、政府の諮問機関であるはずの日本学術会議も違法に答申を行ってこなかったという、全体的に超絶緩んでる一部始終が明らかになるわけであります。

 政府全体の学術予算から見ればはした金である年間10億円程度の予算とは言え、日本国民が納めた税金は税金である以上、国民としては「お前ら、もう少し真面目にやれ」としか言いようがありません。

【独自】2018年の補充時も官邸難色示す 学術会議の任命拒否問題:東京新聞 TOKYO Web

https://www.tokyo-np.co.jp/article/60151

日本学術会議の在り方 作業チーム設けて検討へ 自民 | NHKニュース

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201007/k10012652441000.html

東京大学総長選でも意味不明のすったもんだが

 で、同じく我が国の学校教育の最高峰に位置するはずの東京大学総長選でも、意味不明のすったもんだが広がっていました。

 簡単に言えば、6年の任期である東京大学総長が改選されるにあたり、こっちはこっちで厳重に秘密が守られるはずであった「東京大学総長選考会議」での会話すべての録音とその文字起こしが流出してしまったのです。

「総長選考のプロセスが不透明なのではないか」という騒動になった本件ですが、しかもご丁寧に誰の発言かまできっちり書き分けているこの文書だけでなく、各学部の「有識者」たちが各種怪文書を乱発。東京大学内部の人事抗争を炙り出す内容で興味深いことこの上なく、義憤に駆られたのか私利私欲の果てなのか分かりませんが、実に純然たる権力闘争をしておられます。

 もともとは、教員からの信頼が得られない人物では東京大学の総長が務まらないという事情から「学内投票」を行ってこの投票結果を参考にしつつも、最終的には総長選考会議を構成する学内委員(教育研究評議員)8名、学外委員(経営協議員)8名の合議で総長を決定する、という方針でした。

 後述しますが、いわゆる「意向投票」と言われる東大関係者による選挙は、必ずしも総長選考では求められていません。投票をやると民主的だし透明でいいよねという話もあるわけですが、しかし学級委員じゃあるまいし、大学の経営に資するトップを人気投票で決めていいはずもなく、文部科学省も国立大学の総長を選任するにあたっては、むしろ投票によらず、選考会議で大学の運営・経営において能力と意欲と実績のある人をきちんと合議で選んでほしいと言っています。

 とはいえ、学内の投票による総長選抜は「東京大学の伝統」という側面もあり、意向投票をどこまで総長選出に反映させるのかは長い長い議論が東京大学内部でありました。

得票1位の宮園さんに関する怪文書が登場

 すったもんだはありつつも7月7日に代議員会で1回目の意向投票(いわゆる予備選)が行われ、ここで総長選考会議にかかる11名が候補者として絞り込まれます。東京大学医学部で理事・副学長の宮園浩平さんが1位(67票)、次点が元生産技術研究所長で同じく理事・副学長の藤井輝夫さん(54票)でした。そして、2015年にニュートリノ研究でノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章さん(24票で3位)らが総長選で辞退。そこへ、学外委員による推薦で永井良三さんが浮上してくることになります。

 ところが、録音の内容を聞く限り、現・三菱総研理事長で元東大総長という東大大物OB・小宮山宏さんが大暴れであります。9月4日に開催されたという総長選考会議では、総長を選ぶ本選で候補者を絞り込む選考で、予備選の票数を考慮するかどうかで議論になります。学内委員からすれば、みんなで投票して一番得票したのが宮園さんなのだから、本選候補者には宮園さんを入れるべきと主張するわけですけれども、ここで凄いタイミングで怪文書が登場するわけであります。

 怪文書曰く、「分子生物学の第一人者だった教授・加藤茂明氏(当時)が2017年に論文の捏造で懲戒解雇処分された件で、宮園氏は加藤氏と研究仲間であり、共著があった」。

 この加藤さんの論文捏造事件は2012年に発覚し、全発表論文165本のうち33本について不正行為があったと最終的に報告されたという、ある意味で小保方級の大スキャンダルだったわけです。この重大な不正を行った加藤さん本人と、東京大学総長予備選で1位の得票であった宮園浩平さんとを結びつける出どころ不明の怪文書を、なぜか総長選考会議で小宮山宏さんが取り上げ、本選で宮園さんを候補から外せと熱弁をふるっておりました。

総長選考を行う密室の会議で篩い落とされる宮園さん

 この宮園さん、6年前の総長選の投票でも現・東京大学総長で1位だった五神真さんに次ぐ2位の得票数で、順当にいけば東京大学学内からの篤い信頼を得てそのまま東京大学総長に就任するのかというところで、この総長選考を行う密室の会議で篩(ふる)い落とされることになります。

 不思議なことに、怪文書ではこの不正な研究捏造で東京大学を懲戒解雇になった加藤さんとの繋がりを示唆するのですが、宮園さんは最終報告書にもある通り不正研究に加担したわけでもなければ加藤さんに協力してきたわけでもありません。

分子細胞生物学研究所・旧加藤研究室における論文不正に関する調査報告(最終)

https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400007786.pdf

 東京大学関係者は、必ずしも事件を起こした加藤さんとの関係を結び付ける宮園さんへの怪文書だけが問題であったわけではないと証言しています。

 学外委員によって推薦された永井良三さんは、元東京大学医学部附属病院(以下、大学病院)の元院長であり、病院の運営において改革を行い、非常に功績のあった人物であることは知られています。この永井さんによる改革で、看護師や技師、歯科衛生士などコメディカル(医師や歯科医師の下で働く医療関係者)からは非常に高い評価を得る一方、大学病院で働く教授らからすれば特権を剥奪されたようなもので、教授らの反発もあって永井さんは功績者であるにもかかわらず大学病院院長の座を追われることになります。しかし、この病院改革の能力を買われて、小宮山宏さんら学外委員からの組織経営の手腕を買われ、大学総長に推薦された、という経緯があります。

 一方、得票が首位であった宮園さんは、永井さんの後を受けて東京大学医学部部長として、やや失権した教授陣の権益を揺り戻し、それに対する声望を得て、東京大学学内の支持を取り付け得票数を伸ばして、ついに1回目の意向投票でトップに立った、と見る向きが強くあります。見ようによっては大学内の信望が高いので得票が1位だった、と見る人たちもいれば、ある種の金権政治・ばら撒きで学内の支持者を固めて東京大学総長の座を狙ったと感じる人たちもいるのです。

 出どころ不明の怪文書など、世間でちょっと目立つ活動をして恨まれたり妬まれたりすれば、誰しもが経験する飛び道具にすぎません。怪文書ごときで右往左往するようでは権力者は務まらないのです。しかし、ここで東京大学元総長にして東京大学経営協議員(外部委員)である小宮山宏さんが「この人物は、研究不正に関わってきたという文書が流れているため、総長最終選考の投票候補者には相応しくない」と断じてしまったら、これはもはや怪文書ではない、宮園さんを東京大学総長にしたくない勢力による策略であるという話になります。もうね、権力闘争です。グダグダ一直線です。透明性とかいうレベルじゃないです。

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