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人々が「立ち去る」職場について

大阪府教委は23日、来春採用の府内の公立学校教員採用試験で、平均倍率が4倍で史上2番目の低さだったと発表した。

中学理科では倍率が2倍を切り、府教委は「水準に達する人材が確保できなかった」と異例の追加募集を行う。

大阪維新の会の主導で厳しい教員評価などが盛り込まれた条例の施行後、初の採用試験。大阪府では橋下前知事時代から給与カットが続き、小中学校教員の平均基本給が全国平均より月約2万8千円低いことも響いた可能性がある。(朝日新聞、10月24日)記事によると、中学理科の倍率は大阪が1.9倍、京都は3.85倍、兵庫は3.1倍。東京は(中高共通枠なので単純に比較はできないが)5.44倍。条例施行によって、大阪府の教員応募者が激減することは当然予測されていたはずである。

絶えざる査定と格付け圧力にさらされ、保護者からのクレームに対して行政は原則として「保護者の側に立つ」と公言している就業環境である。このような事態になることは高い確率で予想されていたはずである。雇用条件が全国平均よりはるか低いレベルにまで引き下げられ、首長や議会や教委がきびしく教育活動を監視し、保護者たちが教員にクレームをつけることそのものを制度化し、産業界が要求する「グローバル人材」の効率的な育成をうるさく求められるような職場環境に進んで就職したがる若者がいるだろうか。ふつうに考えればわかるはずである。

維新の会の橋下代表は府知事時代から、反撃するだけの力のない「敵」を選び出しては、そこに攻撃を集中させるという手法で、「既得権益を享受している層を叩き潰す」風景に溜飲を下げる選挙民たちのポピュラリティを獲得してきた。短期的には愉快なスペクタクルだったかも知れない。

だが、そのようにして叩き潰されたセクターの中には「士気が高く、使命感のある人たちが安定的に供給されなければ、システムそのものが停滞する」ものも含まれていた。教員もそのようなセクターの一つである。

そこに人が来なくなった。

維新の会が教育行政を統括している限り、この流れは止らないだろう。能力の高い教員志願者たちは、大阪よりはるかに条件のよい就職先を探して、近県に散らばるはずである。わざわざ監視や恫喝や罵倒が制度化された職場を選ばなければならない理由は誰にもないからだ。

府教委が率直にカミングアウトしているように、今年の志願者には「水準に達しなかった」ものが例年よりも多く含まれていた。来年以降この傾向が回復するということはあるまい。あるいは「異常に低い倍率で教員試験に合格できる大阪府は今が狙い目だ(それに府知事や市長がいずれ代れば、こんな条例は廃止されて教員の待遇はふたたび好転するはずだ)」というようなクールな計算をする若者たちが集まってくるのかも知れない。だが、彼らにしても維新の会の教育行政方針に賛同したわけではない。むしろ「こんな非常識な条例がいつまでも保つはずがない」という条例の短命についての見通しによって進路を選択するのである。

同じような「立ち去り型サボタージュ」は維新の会がこれまで攻撃の標的にしたすべてのセクターで起きる可能性がある。 職員基本条例によって政治活動を規制され、組合活動を抑圧された府市の職員たちが、これまで以上に高い士気と創発性を発揮するだろうという見通しに私は与しない。「公務員は勝手にさせると、仕事をさぼり、不当に利得をむさぼる」という公務員観に一面の真理があることを私は認める。

だが、それを前面に掲げて、公務員を監視と査定の対象にした場合に、組織のパフォーマンスが向上するということはありえない。人間には「好きにやっていいよ」と言われると「果てしなく手を抜く」アンダーアチーブタイプと、「やりたいことを寝食を忘れてやる」オーバーアチーブタイプに二分される。このどちらかだけを作り出すということはできない。

そして、ブリリアントな成功を収めた組織というのは、例外なく「『好きにやっていいよ』と言われたので、つい寝食を忘れて働いてしまった人たち」のもたらした利益が、「手を抜いた」人たちのもたらした損失を超えた組織である。「手を抜く人間」の摘発と処罰に熱中する組織はそれと同時にオーバーアチーブする人間を排除してしまう。必ずそうなる。「手を抜く人間」を際立たせるためには「全員を規格化する」以外に手立てがないからである。

だが、それが成功した場合でも、達成されるのはせいぜい全員が定時に来て定時に帰り、労働契約通りの仕事しかしない組織が出来上がるというだけのことである。そのような組織が高いパフォーマンスを達成し、創造的な事業を始めるということは原理的にありえない。維新の会はこれまでそのようにして「現場の自由裁量を許すことによってのみ発揮される潜在的な組織の力」を潰してきた。みごとな手腕だったと思う。

だが、壊すだけ壊しただけで、「新しいもの」はまだ何も生まれていない。

これから生まれるかどうかについても私は懐疑的である。

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