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あなたはそれでも王を目指すのか―個人と組織の間

スペインには「A rey muerto, rey puesto(王が死んで、代わりの王がきた)」ということわざがある。これは誰かから重宝されていたり、どれだけ偉大な人だと言われていたりしても、死んで代わりがいないということはあまりない――つまりどんな物事でも、価値が絶対的なものはないし、代わりはいつでも存在するという意味だ。

サンフランシスコ・ジャイアンツ、読売巨人軍と、日米ともに「ジャイアンツ」が長いペナントレースを制し、新たな歴史の1ページにその名を刻んだ。プロ野球選手にとって、チームを優勝に導く原動力になることは、選手生命をつなぎ止める最大の方法であるに違いない。スポーツ界は新陳代謝が激しく、人材の流動性は、一般企業と比較にならない。

読売巨人、ヤンキースで輝かしい成績を残した松井秀喜はチームを解雇され、イチローはヤンキースに電撃移籍を果たし、金本知憲が現役を引退した。この世界はシンプルにできていて、とても残酷だ。多くのファンは、選手のひとつひとつのプレーに魅了され、数字を追いかけている。マスメディアは選手がひとたび打てなくなったり、勝ち星をあげられなくなったりすると、とたんに興味の対象から除外し、記事に掲載しないばかりか、インタビューすらしなくなる。

欧州統計局は、EU27カ国の失業者数が8月には4万9000人増加して、合計2546万6000人に達したと発表した。失業率はEU27カ国で10.5%、ユーロ圏で11.4%とそれぞれ過去最高に達している。とりわけ経済危機が深刻なギリシャでは、24.4%、スペインでは25.2%と、数字上では約4人に1人が失業している。さらに若年層(25歳以下)の失業率は、それぞれ55.4%、52.9%で、雇用市場の構造的問題が浮き彫りとなっているのが現状だ。さらにユーロ圏では労働力余剰が拡大しているにも関わらず、賃金コスト上昇圧力は弱まっていない。こうしたことから金融危機や欧州債務危機により、若年層や低スキル労働者が最も大きな打撃をうけていることを伺い知ることができる。

だけど、経済危機が深刻な地域をはじめ、各国は抜本的な構造改革を実行する余裕がないのが現状であり、「財政引き締め策の罠」にはまるリスクが高まってきている。欧州自動車工業会(ACEA)が16日に発表した9月の新車販売台数は113万台と、前年同月の127万台から11%減少、12ヶ月連続の前年割れで、2010年10月以来の大幅減となり、需要減少が深刻な問題となっている。こうした需要減少により、あらゆる業種で欧州市場向けの雇用削減圧力は高まり、雇用市場を逼迫している。

世界的な低成長のうねりは、当然日本にも押し寄せていて、日銀が発表した10月のさくらレポートによると、東北を除く8地域の景気判断が下方修正された。さらにトヨタ自動車は、2012年の世界生産台数が従来計画の1000万台を下回る見通しを発表し、製造業における人材雇用の面でも警戒感が強まってきている。

こうした市場情勢をみて、一部の人は、しきりに「価値ある個人」になる必要性を説いている。ジョック・ヤングは著書「後期近代の眩暈」において、先進諸国における大きな社会変化と構造的問題を鋭い視点で描きだした。いまや「アンダークラス(下層)」に属する人々とそうではない人々の境界は曖昧になっていて、包摂と排除、吸収と排斥の両方が同時に起きているという。彼はこれを「過剰包摂型社会」と呼び警鐘を鳴らしたのだ。ぼくらの世界は、性別、年齢、人種といったあらゆるひとびとに開かれているように見えるけれど、実はそこで利益を享受できるのは、ごく限られた層に属する人だけであり、国民の半数以上が属する中産階級でさえも不安にさいなまれている。アンダークラスのイメージが、個人の失敗とコミュニティ破綻の物語を象徴するものであるとすると、「セレブリティ(特権階級)」のイメージは、夢の実現や個人の成功、理想的なコミュニティ、美しいライフスタイルの物語を伝達している。こうした二項対立構造が境界をぼやかし、社会の不平等や格差を覆い隠しているのだという。ここには圧倒的な財と地位が、セレブリティに集中するということが自然なことであるかのような錯覚を引き起こしていて、実に眩暈がするような社会を作り出しているのだそうだ。だからこそ、人は個人主義にひた走るインセンティブを得て、成功しても、失敗しても、それは自己実現における報酬であり、罰則であるという理解が社会に浸透する。

これは確かに金融危機前の社会ではそうであったに違いない。だからこそオマハの賢人バフェットは、年収100万ドル以上の富裕層に対する課税をうったえたのであろうし、人々は、「Too big Too fail(大きすぎてつぶせない)」と揶揄されたウォール街の巨大銀行を必要に非難し、ボルカー・ルールをはじめとした金融機関に対する規制強化を支持しているのだろう。

しかしながら、社会はまさにヤングが描いた時代からさらに大きな変化が起きており、ほんの一部の限られた個人が特権を得られるチャンスもなくなってしまったのだ。こんなときに「個人になること」はリスクを必要以上に抱えることになりえるし、時代錯誤と言わざるをえない。これからはまさに組織の時代であり、組織で生き残る術を開拓していかねばならないのだ。もちろん多くの企業組織でリストラが加速している現状を見れば分かるように、単純に組織に属することが、この問題の正しい解でないことは疑いようのない事実だ。だからこそ、組織の中で強い個人になることを目指し、顧客やチームとのリレーションを密にすることが求められるだろう。

そう、まさにぼくたちは時代の過渡期に生きているのだ。まだ個人の時代であると考え「価値ある個人」を目指すのもいいだろう。ただ悲しいかな、この規制や規則でがんじがらめになり、世界的に低成長が長期化する世の中は、個人でのりきれるほど単純にはできていない。だっていついかなるときも王の代わりはいるのだから。

参考文献

後期近代の眩暈―排除から過剰包摂へ 画像を見る

リキッド・モダニティ―液状化する社会 画像を見る

ジブリ映画から見えてくる若者の世界観 リベラル日誌

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