- 2020年10月07日 18:20
学術会議任命権のナゾ 「昭和58年答弁」と「平成30年ペーパー」における“齟齬”

内閣総理大臣による会員の任命権が議論になっている日本学術会議について、7日午前におこなわれた内閣府閉会中審査でも取り上げられ、「昭和58年の国会答弁」と「平成30年のペーパー」が争点となった。
質問に立った立憲民主党の今井雅人議員は、昭和58年答弁と平成30年の政府ペーパーの内容に齟齬があるとし、今回の任命問題と合わせて整合性を追及した。
昭和58年答弁は「推薦されたものをそのとおり形式的な発令を行う」

今井議員は学術会議について、昭和24年に設立され、同58年の法律改正で会員が選挙制から推薦制に変更となったとこれまでの経緯を説明。そして当時の国会答弁で推薦された会員候補を「そのとおり内閣総理大臣が形式的な発令を行うと私どもは解釈してございます」とする答弁があったと指摘した。
高岡完治(内閣総理大臣官房参事官):ただいま御審議いただいております法案の第七条第二項の規定に基づきまして内閣総理大臣が形式的な任命行為を行うということになるわけでございますが、この条文を読み上げますと、「会員は、第二十二条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣がこれを任命する。」こういう表現になっておりまして、ただいま総務審議官の方からお答え申し上げておりますように、二百十人の会員が研連から推薦されてまいりまして、それをそのとおり内閣総理大臣が形式的な発令行為を行うというふうにこの条文を私どもは解釈をしておるところでございます。この点につきましては、内閣法制局におきます法律案の審査のときにおきまして十分その点は詰めたところでございます。
(第98回国会 参議院 文教委員会 第8号 昭和58年5月12日)
また平成16年には、会員候補は、協力学術団体による推薦から、日本学術会議による推薦に変更された。今井議員は、この当時「形式的な任命」について議論した事実は議事録にみられなかったとし、昭和58年の「解釈」が引き継がれたと解されると指摘する。
平成30年に解釈変更?「推薦のとおり任命する義務はない」

さらに平成30年11月13日付けの「日本学術会議法第17条、推薦と内閣総理大臣による会員の任命との関係」という合議のペーパーがあるとし、以下の記載があることを紹介した。
3.日学法第7条第2項に基づく内閣総理大臣の任命権の在り方について
内閣総理大臣による会員の任命は、推薦された者についてなされねばならず、推薦されていない者を任命することはできない。その上で、日学法第17条による推薦のとおりに内閣総理大臣が会員を任命すべき義務があるかどうかについて検討する。
(1)まず、
①日本学術会議が内閣総理大臣の所轄の下の国の行政機関であることから、憲法第65条及び第72条の規定の趣旨に照らし、内閣総理大臣は、会員の任命権者として、日本学術会議に人事を通じて一定の監督権を行使することができるものであると考えられること
②憲法第15条第1項の規定に明らかにされているところの公務員の終局的任命権が国民にあるという国民主権の原理からすれば、任命権者たる内閣総理大臣が、会員の任命について国民及び国会に対して責任を負えるものでなければならないことからすれば、内閣総理大臣に日学法第17条による推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えないと考えられる。
(日本学術会議法第17条、推薦と内閣総理大臣による会員の任命との関係 平成30年11月13日)
今井議員は以上の経緯を説明し、昭和58年答弁と平成30年ペーパーは明らかに内容が異なり、解釈変更だと思われるとし内閣府側の見解を求めた。
大塚官房長は「任命権者たる総理大臣が推薦のとおりに任命しなければならないということではない」という考え方で一貫しているとし、以下のように説明した。
大塚官房長:今回の任命につきましては任命権者である内閣総理大臣が、この法律にもとづきまして、特別職の国家公務員として会員を任命してございます。
憲法第15条第1項を引用させていただきますが、これはやはり公務員の選定罷免権が国民固有の権利という考え方からすれば、任命権者たる総理大臣が推薦のとおりに任命しなければならないということではないということでございまして、会員が任命制になったときからこのような考え方を前提にしておりまして、考えを変えたということではございません。
今井議員は昭和58年答弁の内容と違っているとして再び質問し、三ツ林内閣府副大臣にも説明を求めた。しかし内閣府側が同様の趣旨の答弁を繰り返したため、今井議員は「きちっと整理してください。言ってることめちゃくちゃですから」と苦言を呈している。
官邸からの指示があったのか
また今井議員は平成30年のペーパーについて「突然このような論点整理があったということは、何かきっかけがあったはずだ」として、その端緒を問うとともに、以下のように説明した。
今井議員:事実関係だけ申し上げますね。決めつけているわけではありませんが、平成30年の11月13日、平成30年ですけども、この直近5年間で色んな重要な法案が可決しています。
平成25年、特定秘密保護法。平成27年、安保法案。平成29年、共謀罪法。このとき多くの学者が反対をしました。その翌年にこのペーパーです。
時系列でいうとそういうところなんですね。だからみなさんが、これ関係あるんじゃないのという風に思ってしまっていると。事実は分かりません。しかし経緯としてはそういうことなわけです。
で、お伺いしたいんですが、じゃあこの検討は例えば官邸の方から、検討していただきたいとか、そういう指示はありましたか?
日本学術会議の福井事務局長は、当時、半数改選にあたって被任命者よりも多い候補者を推薦することについて、推薦と任命の関係の法的整理をおこなったと説明。官邸からの指示については「そういうご指示に基づいて始めたものではないという風に承知しています」と述べ、今井議員は「とても需要な答弁だと思います」と指摘した。
今井議員が、解釈変更ともとれる平成30年のペーパーについて、なぜ報告しなかったのか質問すると、大塚官房長が再び答弁に立ち、改めて解釈変更ではなかったという見解を示している。
大塚官房長:昭和58年の答弁について、形式的な発令行為との発言がなされている。これは事実でございます。
ただ、必ず推薦のとおりに任命しなければならないというところまでは言及されておりません。それを前提といたしまして、憲法15条第1項の規定「公務員の選定罷免権」が国民固有の権利であるという考え方が当時からございまして、任命権者たる内閣総理大臣が推薦のとおりに任命しなければならないというわけではない。この解釈は一貫しているものでございます。
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