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橋下の罠にハマった週刊朝日〜実は橋下こそが加害者?

週刊朝日が佐野眞一の記事「ハシシタ奴の本性」が物議を醸している。橋下徹大阪市長(以下「橋下」)の出自について言及が、あからさまな人権無視、差別的なものであったことに橋下当人が怒り、出資会社の朝日新聞の記者会見を受けないとまで宣言。これがメディアに大きく取り上げられたことについては、すでに、よくご存知だろう。

被害者と加害者を入れ替えて考えてみよう

さて、今回の騒動、メディア論的にちょっとひねって、つまり視点を変えて考え直してみたい。週刊朝日のやったことは明らかに×、タダのアホな行為であることを僕は全く否定しない。だが、あえてここで被害者と加害者の立場を入れ替えて考えてみたい。つまり加害者=橋下徹、週刊朝日=被害者という図式。というのも、こうやってみてみると、実は橋下という人間が「メディアの魔術師」であること、つまりいかにメディアを操るのに長けているのかが見えてくるからだ。

ネガティブからポジティブへ

メディアの手法のひとつとして、よく使われるのが「知名度・認知度を利用する」というもの。たとえば二世の芸能人は親が有名人で顔つきが似ていることもあるゆえ、メディアに登場する際にはアドバンテージが与えられている。これは、それがどんなものであっても知名度・認知度さえあれば利用できるということを意味している。

東国原の「負を正にかえる」戦略~東国原劇場

2006年末、宮崎県知事選でそのまんま東が選挙に出馬した際、東は自らの選挙演説の冒頭で「私、1998年に不祥事を起こさせていただきましたそのまんま東でございます」とやって、有権者の関心を惹きつけることに成功した。その頃、東は通称「イメクラ事件」と呼ばれる不祥事で芸能界からホサれるかたちになり、テレビから姿を消していた。地元宮崎でも「宮崎の恥」と呼ばれ、出馬することについてきわめて批判的なムードが漂っていた。だが街頭演説ではこうやっていきなり自分のネガティブなイメージを自分から発言してしまうことで笑いを取ると同時に、有権者の魅力を惹きつけることに成功している。つまり、相手のこちらに対するネガティブなイメージをこちらから先に言ってしまい、謝ってしまうことで、ネガティブなイメージを利用して自らをポジティブ=誠実で面白みのある人間に見せることに成功したのだ。

当選後、東は東国原英夫として県知事に就任した後にも同じことをやっている。就任直後、宮崎県清武町(現宮崎市)で鶏インフルエンザが発生。宮崎鶏はイメージ的に壊滅と思われたが、東国原はネガティブなかたちで宮崎鶏が認知されたことを逆手にとって大々的な宮崎鶏のキャンペーンを展開する。「みやざきの鶏は安心、おいしい、しかもヘルシー!」とキャッチコピーを繰り返しながら、トップセールスマンとして自らが宮崎鶏を食べるシーンをメディアに露出し続けたのだ。その結果、宮崎鶏はバカ売れし、「鶏はみやざき」というイメージを全国的に定着させることに成功する。つまり、ネガティブなかたちで広がったイメージを逆利用してしまったのである。これはまさに「東国原劇場」だった。

騒ぎを大きくした本人は橋下自身

今回の橋下の出自を巡る週刊朝日騒動も、これと全く同じ図式が当てはまる。よくよく考えてみても欲しい。あの記事がそんなに騒ぐことなんだろうか?橋下の出自が、いわば「血が汚れている」みたいな文脈で展開されているのだけれど、おそらくそのまま放っておいても大したことにはならなかったと僕は考える。もともと差別的なニュアンスが強すぎて他のメディアが取り上げるのが厳しいネタ。だから、テレビも他のメディアもおそらくビビってスルーしたに違いない。ところが、これが大騒ぎになった。なぜ?……なんのことはない、当の橋下がこれに怒り心頭に達したことを記者会見し、メディアイベントとして話題を盛り上げてしまったからだ。これで、盛り上がった。そう、事をデカくした張本人は橋下その人だったのだ。

橋下劇場=スペクタクルの展開

だが、こうなってしまうと、もう橋下の思うツボ。週刊朝日=悪役、橋下=正義の味方というベタな図式の下、やりたい放題が始まる。橋下は「次回の記載内容を見ていきたい」と発言をした。ビビった当の週刊朝日の方は、次号の巻頭で謝罪、連載を中止するとともにチェック機能を徹底検証すると宣言。事実上、「全面降伏」する。

ところがこの発言はギミックだった。橋下は、今度はこれに噛みつく。紙面で謝罪するなどマナーや社会性のない鬼畜集団だ!ときたのだ。しかも、こうやって雑誌に謝罪文を掲載することで売り上げを伸ばすような阿漕なことまでやっている。許せない!と糾弾はエスカレート。そして、朝日新聞の記者会見は再会するが、週刊朝日の対応は非常識で許せるものではないという文脈の論調を展開した。その結果、この騒ぎ=「橋下劇場」はさらに盛り上がりをみせていったのだった。

しかし、この論法はちょっとおかしい。一般的には、騒動は週刊朝日のやり方で一件落着となる。誌面での誤りは誌面で謝罪というのがメディアの一般的なやり方だからだ。でも、誰もそれに気づいていない。なぜ?それは橋下の秀逸なパフォーマンスにわれわれが完全に幻惑されてしまったからに他ならない。

勧善懲悪劇場のクライマックスは、まだこれから?

おそらく、この橋下劇場はまだ終わらないだろう。次には週刊朝日の編集長がメディアの前に引きずり出されるなんてところにまで話が進む可能性がある。しかも、橋下はそれを狙っているようにしか、僕には思えない。

これは「メディアの魔術師=メディア使い」である橋下の見事のメディア戦略だ。自民党、民主党総裁選の絡みの中で、ここのところ維新の会の支持率は急降下している。だからなんとしても、ここで起死回生の一発を撃つ必要がある。そのためにはメディアに橋下が露出し、さながら正義の味方=ジェダイの騎士のようなカッコイイ活躍をする必要がある。で、そういったパフォーマンスが展開出来るのであるのならば悪役=ダースベイダーは誰でも構わない。そして、狙い撃ちされたのが週刊朝日だったのだ。

われわれは「勧善懲悪もの」が大好きだ。正義の味方が悪をくじく姿を是非とも見物したい。この要望を察知している橋下は無理矢理、週刊朝日という悪役を作りだし、それを叩きはじめた。で、叩けば叩くほどわれわれ=オーディエンスはカタルシスを感じる。だから誌面で謝罪をさせ、次にはこの謝罪のやり方を叩き、さらにダースベイダー=週刊朝日の編集長その人を引っ張り出して、ジェダイの騎士=橋下による成敗(あるいは「公開処刑」)のスペクタクルを期待する。そして、こういう劇場が展開している間、人々は激情=熱狂しつづけ、そういったカタルシスを感じさせてくれる橋下にワクワクするのだ。また、メディアもこの熱狂が視聴率と発行部数に直結することを動物的カンで知っている。だから、延々と報道をし続ける。そうすることで橋下と維新の会の支持率は上がっていくのである。

リアルはファンタジーではない!

こんなふうに今回の騒動の立ち位置、つまり被害者と加害者を入れ替えてみると、橋下という人間のメディアを操作する技術がいかに長けているのかがよくわかるのではなかろうか。これは、ある意味「賞賛」に値する。大衆=オーディエンスはこうやってしばしば煽動されてしまうことを、橋下はよく知っているのだ(橋下は地方遊説で「僕はハシシタではありません」とこの騒動を自ら煽り続けている)。

ただし、これがやっぱり、かなりアブないことであることを僕らは理解しなければならないだろう。僕らは、これが橋下が展開するギミックであることを見抜くほどのリテラシーを持つ必要がある。橋下は被害者面をして、見事にわれわれをハメているのだから。

今回の橋下のギミックのポイントは一つ。”紙面謝罪をさらに非常識と非難したこと”。これ、実はあたりまえで非常識でも何でもないのだ。でも、大衆=オーディエンス(そしてメディア)は橋下の自信たっぷりのパフォーマンスにうつつを抜かして、このギミックに相づちを打ってしまっている。だから、われわれとしてはこれに煽られないこと。そして、橋下がこれ以上週刊朝日を叩くようなことを続けるのであるのならば「この男は胡散臭い」ととりあわないことだろう。そういった意味では、橋下という人物は僕らのメディアリテラシーを涵養するためには是非とも必要な存在。いわば「必要悪」なのである。僕らは橋下を乗り越えなければいけない。

それにしても橋下徹という男のメディア戦略は、やっぱりスゴイ。オーディエンスとメディアを丸ごとギミックにかけてしまうのだから、見事なものだ。やれやれ……

(追記)ちなみに「鬼畜集団発言謝罪」についても全く同様だ。今度はこっちが先に謝り機先を制すると同時に「素直さ」をアピールして好感度を得ようとしているということになる。そう、つまり、全ては「支持率アップ」に集約されていると見ると、戦略的には実にわかりやすい。

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