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日本学術会議の任命拒否問題はアカデミズムを議論させるための菅政権の“トラップ”? 透明性・独立性を保つには…

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 日本学術会議の新たな会員候補だった学者6人の任命を菅総理が見送った問題。

 菅総理は5日、報道各社の取材に対し「日本学術会議は政府の機関で、年間約10億円の予算を使って活動しており、任命される会員は公務員の立場になる。

 推薦された方をそのまま任命してきた前例を踏襲してよいのか考えてきた」とした上で、「過去の省庁再編議論の際に学術会議の必要性やあり方が議論されてきた。その上で総合的・俯瞰的活動を確保する観点から今回判断した」と説明した。

 6日の『ABEMA Prime』では、この問題について日本学術会議会員でもある北海道大学の宇山智彦教授を交えて議論した。

■そもそも日本学術会議とは?会員はどうやって選ばれる?

 日本学術会議は1949年、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立された、全国の科学者(約87万人)を代表する組織だ。

 政府への提言も役割の一つで、今年も「感染症の予防と制御を目指した常置組織創設について」「大学入試における英語試験のあり方についての提言」「行政記録情報の活用に向けて」など、67件の意見を提出してきた。

「政府からの求めに応じて出す答申は減少傾向にあり、大半が学術会議の側でテーマを設定している。また、政府だけでなく、社会の様々な方面に向けた提言もある」(宇山教授)。

 国は日本学術会議に年間約10億5000万円の予算を計上しており、このうち約4500万円が会員への手当だ。

 この点について宇山教授は「生活者の感覚から見れば10億円という予算は大きいが、100兆円規模の国家予算の中では“一滴”で、半分近くが内閣府の職員で構成される事務局の経費だ。また、会員は210名だが、活動において大きな役割を担っている連携会員という人たちが2000人ぐらいいる。つまり単純計算で1人あたりの活動費は20万~25万くらいなので、活動の基本的な単位である分科会を年に1、2回を開く分しかない。実はものすごくお金のない組織だといえる」と説明。

 その上で「日本学士院と混同して、何か立派な身分で年金ももらえるという主張をしている方もいるが、それは学術会議の話ではない。確かに会員に選ばれるのは名誉なことだが、多方面にわたり調査し提言するので、手間もかかる。手当もわずかなので、個人的な利益はほとんどないと言っていい。それでも公務員という立場で、日本の学術の発展のために必要だからやっているということだ」と話した。

 この210人の会員の任期は6年(70歳で定年)。3年毎に半数を入れ替えている。当初は科学者の投票による公選制だったが、1984年以降は学会などが推薦した候補者を、2005年以降は選考委員会が取りまとめて推薦した候補者を総理が任命する形をとっている。また、会員は3年毎に候補者を推薦(5人以内)することもできるという。

「かつては選挙で、次いで学会からの推薦で選ばれていたが、いずれもうまくいかなかったので、会員や連携会員が選ぶというシステムになった。優れた研究者を選ぶということが強調されているが、どちらかと言えば提言など学術会議の活動にふさわしい経験や能力がある人を選んでいる。そうなると、ある程度知っている人を選ぶしかないが、少なくとも私の経験で言えば、仲が良いから推薦した、ということは全くない」(宇山教授)。

■「法律の定めと合っていない任命の仕方、若い研究者に対する影響を懸念」

 任命が見送られた6人について、菅総理は5日、「6人の見解と任命拒否の判断は一切関係ない」としているが、政権へのスタンスや、安保法制や共謀罪法をめぐる議論が関係しているのではないかといった声もある。

 しかし宇山教授は「それぞれの方の政治信条は分からないが、本当に様々な立場の方々だということは確かだ。一部から“左翼だ”という声もあるが、実際には“左翼なわけないだろう”という人もいるし、むしろ旧来の左翼とは全く違う歴史観・政治観で研究してきた方もいる。

日本の政治とは関係のない研究者で、政府に批判的な声明にも賛同者の一人として名を連ねただけの方もいる。だから、なぜこの6人が“狙い撃ち”されたのかというのは分からない。たまたま目に付いたということなのか、それとも排除の対象になり得るのだということを示すためにあえて様々な方を含めたのか、全く分からない」と話した。

 任命されなかった東京慈恵会医科大学の小澤隆一教授(憲法学)は野党ヒアリングで「6人の任命拒否は学術会議全体の問題。学問の自由への大きな侵害だ」、早稲田大学の岡田正則教授(行政法)も「法解釈の変更であると言わざるを得ない。内閣総理大臣が改めて選考するというのはそもそも法律でやってはならないことだ」と主張している。

 宇山教授は「この6人の方々は信念を持って研究をされているし、今回のことで研究を変えるようなやわな方々ではない。研究者が研究している内容が時の政権と対立するものになってしまうことはあると思う。ただ、その政権も未来永劫続くものではないし、学術会議に入らなくても研究は続けられるという意味では、研究の自由そのものが失われるのだろうか、とも思う。

ただ、考えがぐらつきやすい研究者、あるいは若い研究者に対しては、“不利益な目に遭うかもしれない”とか、“文系の研究をやっても政府ににらまれるだけ”と思わせてしまうことが懸念される」と指摘。

 また、「問題は、法律の定めと合っていない任命の仕方をしているということだ。菅首相や加藤官房長官の発言を見ると、学術会議への“監督権”という、法律には書かれていないことを強調している。政府の審議会や諮問会議は半ば初めから結論が出ているが、学術会議は学者側の意見を自主的に幅広くまとめるので、政府の考えとは違う結論が出ることもあり得る。

そういうことを排除するため、チェックとまでは言わないが、物を言う機関に対し監督権、圧力を行使するということだ。裁判所や検察の人事に手を突っ込んで“従順にしなさい”と言っているのと同じ効果を学者に対して狙っているという解釈も成り立つ。

こういうことが繰り返されていけば、法治国家としてのあり方が問われる。政治学の用語では“水平的アカウンタビリティ”というが、自由民主主義体制の維持に必要不可欠な仕組みを壊していく効果を持ちかねない」と警鐘を鳴らした。

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