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私が旧宮家の皇籍復帰に賛同できない理由(中)

3.旧皇族の「覚悟」への疑問

 今年2月29日、MSN産経ニュースに次のような記事が載った。

男系維持へ「一族として応える」 旧皇族の大半、皇籍復帰要請あれば 「正論」で明らかに

 終戦直後に皇籍離脱した旧皇族の多くが、皇位の男系継承を維持するために皇籍復帰を要請されれば、「一族として応えるべきだ」とする意向を固めていることが分かった。主に現在の宮家と養子縁組することで、男系を継承することを想定している。

 旧皇族の慶応大講師、竹田恒泰氏(36)が、3月1日発売の月刊「正論」4月号に寄せた論文で明らかにした。皇統問題で旧皇族の意向が文書で公表されるのは初めて。女系天皇容認につながると懸念される「女性宮家」創設を念頭に、政府が検討する皇室典範改正作業への影響は必至だ。

論文によると、竹田氏は昨年11月~2月中旬、皇位継承問題について旧皇族20人以上と意見交換。大多数が男系の皇統は維持されるべきだと考えており、女性・女系天皇を積極的に容認する人はいなかった。男系維持のため皇籍復帰を要請されれば、「一族として要望に応える覚悟を決めておかなければならない」と考える人が大半を占めたという。

 論文は、寛仁親王殿下の長女、彬子さまが今年1月7日付の毎日新聞のインタビューで、女性宮家創設だけが議論される現状に「違和感」を表明、「男系で続いている旧皇族にお戻りいただくとか、現在ある宮家をご養子として継承していただくとか、他に選択肢もあるのではないかと思います」と発言されたことを紹介。このうち養子継承案が注目されているとし、旧皇族一族には少なくとも9人の未婚男子と、ここ数年内に結婚した5組の男系夫婦がいて、通常の養子や婿養子、夫婦養子となることが可能だと指摘している。竹田氏は「皇室から、そして国民から求められた場合には、責任を果たしていかなくてはいけないと(すでに)覚悟している者が複数いて、その数が増えつつある」としている。竹田氏が意向を確認した旧皇族は、占領政策で皇室が経済的に圧迫され、昭和22年に皇籍離脱を余儀なくされた旧11宮家(うち4家は廃絶)の男系子孫たち。



 私は『正論』4月号を買ってこの竹田論文「皇統問題 旧皇族一族の覚悟」を読んでみた。
 主題である旧皇族の意向については、ほぼMSN産経ニュースで報じられたとおりであり、特に詳細が論じられているわけではなかった。
 しかし、本論文中で明らかにされている、竹田の論壇デビュー作『語られなかった皇族たちの真実』(小学館、2006)が出版されるに至った経緯に私は驚いた。
 以下、本論文の記述を引用する。

 いま、旧皇族の中では皇統の問題に危機感を抱いている者が多いが、以前はそうではなかった。かつて小泉政権下で女性・女系天皇の是非を巡る皇室典範の議論があった時、当初は旧皇族の中には問題の本質を理解しない者もいた。〔中略〕女性天皇と女系天皇の違いを理解していない者も多かった。
 〔中略〕
 私は機会ある度に、粘り強く男系維持の重要性を説いて回ったが、私が本を出版するにあたり、
「もし、陛下が女系天皇を希望なさったら一体どう責任を取れるのか」
 といって出版を牽制する親族もいた。
 〔中略〕
 この本を出版した意図は二つある。一つは、皇室典範議論に一石を投じること。もう一つは、旧皇族と旧華族の責任感があまりに薄いことへの警鐘を鳴らすこと、だった。
 〔中略〕
 この本が原因ではないと思うが、いまや旧皇族が男系維持で一枚岩になっているのは実に喜ばしいことであると思う。
 〔中略〕
 出版に当たり、親族から強い反対があった。
「お前に言論の自由があると思うな」
 とは、本を出す過程で一族から何度も聞かされた言葉だった。



 竹田がこの本の執筆を編集者に依頼されたのは、小泉政権が皇室典範改正に向けた有識者会議を立ち上げた時期だった。

「女系天皇が成立したら日本は終わりです」
 という編集者の悲痛な訴えがあったが、この時私は執筆を断っている。なぜなら、私が皇室に関わる政治問題について発言することは、親族が絶対に許さないからだった。旧皇族の人脈をもってすれば、この出版を中止に追い込むことは容易い。一族と対立した状態では、出版は不可能だと思われた。
 ところがその編集者は、何度も私に出版の必要性を訴えた。



 編集者は、出版しても小泉内閣は典範改正を押し切るだろうが、旧宮家出身者が反対の意志表示をしたことには意味があり、将来女系天皇が成立するかもしれない段階に至って、再び議論を起こすきっかけとなるかもしれないと説いたという。

 私は編集者のその根気に負け、一族の同意を得られる保証のないまま、原稿を書くことにした。〔中略〕
 原稿の大半を書き終えたある日、私は父から衝撃的な報せを聞かされた。旧皇族一族の意向として、皇室典範の問題については一切メディアの取材には応じないことになったようだから「君も従うように」というのだ。出版は遠のいた。



 竹田はどうしたか。

 そこで私は、強い者を巻くためにはより強いものが必要と思い、複数の皇族方、そして伊藤忠商事特別顧問(当時)の瀬島龍三様に相談し、出版の了解を求めた。これが揃えば、周囲は反対できなくなると期待した。特に瀬島様は、陸軍では祖父竹田恒徳の後輩に当たり、祖父の葬儀委員長を務めた人物であるため、私の周囲には強い影響力を持っていた。
 私が相談した複数の皇族方はいずれも出版を了解して下さった。そして、私は瀬島様の事務所を訪れた。



 瀬島との面会から2日後、「大変有益でした」「本当によく勉強されており感心しました」としながらも、「(有識者会議の案に)逆行する様な意見は表に出すべきではないと考えます。貴殿は好むと好まざるとに拘らず旧皇族、天皇家の一員と見なされ、その意見は特別な物とされるのです」といった、出版を差し控えるべしとの書簡が瀬島から届いた。
 失意の竹田は伊勢神宮や神武天皇陵などを訪れた。

神武天皇陵で祝詞を奏上して天皇弥栄を祈念し「もしこの本が世に出るべきものなら、道を開き給え」と申し上げたその時、御陵の森から何千羽ものカラスが一斉に飛び立ち、あたり一面が掻き曇った。神勅が下ったと理解した私は、数日の内に大幅に原稿を改め、瀬島様に次の手紙を宛てた。



 手紙の要旨は、
・文中の皇室典範改正私案を削除し、具体的な政策提言をしないこととした。男系継承は守るべきであること、歴史の重みを十分に認識して慎重に議論するべきであることの指摘に留め、それ以上の政治的意見は削除した
・出版自体を中止することも検討したが、熟慮の末、原稿を改めて出版することにした
・「瀬島様」の意見がなければ、これほど原稿を改めることはなかった
・「あとがき」に挙げる協力いただいた方の1人として「瀬島様」の名を挙げさせていただきたい
・神武天皇陵でのカラスの神秘体験(神武天皇を導いたのは八咫烏)
だという。
 瀬島からは「御苦心の決定全般同意申し上げます。又あとがきの件も承知しました」との返信が届いた。

 これで道が開けた。瀬島様がお許しになったことで、これまで反対していた人たちが、しぶしぶ同意もしくは黙認してくれることになった。もしあの時、カラスが飛んでいなければ、この本の出版はなかったと思うと、不思議な気持ちになる。
 その後、間もなく秋篠宮妃殿下が御懐妊になり、若宮がご誕生になったことは、皇統護持のために天の意思が動いた結果ではなかったか。神武天皇陵での一件と瀬島様の御了解、そして若宮誕生は、一連の新風だったのかもしれない。



 竹田の神秘体験はどうでもいい。
 私が驚いたのは、竹田が「強い者を巻くためにはより強いものが必要と思い」、瀬島龍三を「私の周囲には強い影響力を持っていた」と評していることだ。
 そのように、旧皇族に影響力を行使することができる者がいるということだ。

 瀬島は、2007年に没した。
 しかし、同様の「より強いもの」はまだほかにもいるかもしれない。
 そのような「影響力」に左右され得る人々を、皇族に復帰させてよいものだろうか。

 それに、これでは、竹田の言う旧皇族の「覚悟」にしても、どこまでが彼らの真意なのか疑問を持たざるを得ない。
 竹田自身、この論文でこう書いている。

 このように、本の出版については、無理やり一族の反対を押し切った感があるが、その後、旧皇族の中でも意識の変化があり、現在では男系の皇統を守ることの重要性が共有できている。



 本当に「意識の変化」があったのだろうか。それもまた「影響力」の産物ではないのだろうか。

 さらにもう一点。
 瀬島は当初竹田を諫めている。極めて常識的な判断だと私は思う。
 そこで竹田が瀬島を説得して翻意させ、出版にこぎつけたというならまだ話はわかる。竹田はそれを誇ってもよいであろう。しかしそうではない。
 竹田は「神勅」を理由に出版を強行することにしたのだ。そして瀬島にはその事後承諾を求めたにすぎない。
 瀬島の真意は私にはわからない。原稿の修正に満足したのかもしれないし、諫めたのに強行するならもう好きにしろと考えたのかもしれない。これを「瀬島様がお許しになった」とはどういう神経をしているのか。
 はじめに結論ありきで、独断で事を起こし、既成事実を作った上で上の者に事後承諾を求める。昭和陸軍が得意とした手法だ。
 竹田がこのような手法の使い手であることは、よく記憶しておくべきだろう。

(続く)

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