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「多くの人が考える“普通”の家族の姿を撮った」〜映画『浅田家!』中野量太監督インタビュー

写真家・浅田政志さんの写真集『浅田家』と、『アルバムのチカラ』を原案とした映画『浅田家!』が10月2日から公開されている。主人公の政志が家族を巻き込みながら写真家として成長する姿や、写真を通して東日本大震災と向き合う人々を描いた期待の作品だ。さまざまな家族の形を描いてきた中野監督に、今作『浅田家!』について聞いた。【取材:宮原沙紀】

浅田家の泥臭いまでの“家族らしさ”を描きたかった

―浅田政志さんの写真集『浅田家』を映画化したきっかけについて教えてください。

プロデューサーが浅田さんと同郷で、ずっと温めていた企画だったそうです。映画化にあたり、監督を探しているということで声をかけていただきました。

写真集『浅田家』を見た時は、本物の家族がこんな風に写真を撮っていることに驚いて、すぐに興味を持ちました。思わず笑ってしまう写真ですが、なんだか懐かしくて温かい印象も。そしてこんな面白いことを始める裏には、絶対にドラマがあるはずだと確信しました。

―実際に浅田家のみなさんとお会いした印象はどんなものでしたか?

やっぱり面白い人たちでした。しかし一風変わっているけれども、どの家族よりも「普通」の家族だとも感じたんです。親が子どものために、作品作りに協力する。子どもは子どもで、両親を喜ばせたくて、写真を撮っていたと言います。それは僕らがよく知っている、普通の家族らしい姿。映画では、その泥臭いまでの“家族らしさ”を伝えようと決めました。映画を観終わった後に「変わった家族だったな」という印象のままだったら僕の負け。浅田家の芯にある普通の家族らしさは絶対にぶれさせずに描こうと思っていました。

©2020「浅田家!」製作委員会

だからこそ出演者のみなさんには、まず家族になってもらおうと考えたんです。劇中で、写真集『浅田家』を再現した写真が出てきます。まずはその写真撮影から始めました。撮影をしてくれたのは浅田さんです。しかしこれがまあ、大変なんですよ。1日に5、6箇所移動して写真を撮る。苦労もするけれど、笑っちゃうこともある。その共同作業をすれば家族になれると思ったんです。出演者のみなさんは疲れたと言いながらも、達成感があったので良い進め方ができたと思っています。

「震災をエンタメ化していいのか」という葛藤

―東日本大震災の被災地で、津波で流されてしまった写真を洗って持ち主に返却する様子を記録した写真集『アルバムのチカラ』のエピソードも描かれています。震災を描くことに葛藤はありましたか?

ずっと震災は避けては通れないテーマだと思っていましたが、どう映画にしたらいいのかわかりませんでした。しかし『アルバムのチカラ』を見て、ユニークな浅田さんを通してならばやっと僕らしく震災を描けるのではないかと思いました。もう一つ、僕は映画とは知らなかったことを伝える役割もあると思っています。写真洗浄という事実を伝えることも、この映画の役割だと確信できたことも大きかったですね。

©2020「浅田家!」製作委員会

僕は、この映画を観て楽しめるエンターテインメント作品にしようと思っていました。同時に震災を扱った映画を、エンタメと捉えていいのかという躊躇も消えなかった。しかし取材をしていると、被災者のみなさんは僕が想像しているよりもずっと前を向いていたんです。もちろんどこかに傷を持ちながらも乗り越えようとしている姿をみて、映画にしようと決意ができました。そして取材した人たちにも恥ずかしくないものを作れたと思っているし、観てもらいたいです。

「家族はこうあるべき」という定義はない

―今までいろんな家族の形を描いてきた中野監督ですが、監督が思い描く「家族」の姿とはどんなものでしょうか?

作品を撮れば撮るほど、いろんな家族がいることを実感しています。僕は血の繋がっている家族も撮ったし、全く繋がっていない家族も撮りました。今回は、一風変わっているけど一番普通の家族です。それぞれの家族には、それぞれの形があります。「家族はこうあるべき」なんて定義は、この世に存在しません。

僕の映画では、それぞれの家族が、どんな状況下でも自分たちのことを肯定できたらいいなと思って描いています。現実の世界には家族を恨んでいる人もいるし、家族で苦しんでいる人もいる。僕は決して声高に「家族最高!」と言うつもりはないけれど、「まあ、家族って悪くないよな」と思わせてくれる家族を撮っています。

―今後も「家族」を撮り続けたいと思いますか?

家族を撮るのは得意だし望んでくれる方がいるから撮っていますが、家族ではないものも撮ってみたいです。しかしコロナ禍のなかで、映画の作り方は変えざるを得ないということが現状。

今は、これまで築いてきた方法を使えなかったりで、模索しながら映画を撮っています。これからの映画の撮り方の正解はまだわかりません。人の喜びとは、人と人が触れ合うこと、関係性を持つことで生まれます。だからこそ、コロナ対策の制限があるなかで映画を撮るのはやっぱり難しい。映画の作り方や何を撮るのかに関しては、考えていかなければならないと思っています。

映画情報

映画『浅田家!』10月2日(金)全国ロードショー
監督・脚本:中野量太
脚本:菅野友恵
出演:二宮和也、黒木華、菅田将暉、風吹ジュン、平田満、妻夫木聡 ほか
原案:浅田政志『浅田家』『アルバムのチカラ』(赤々舎刊)
公式サイト:https://asadake.jp/
©2020「浅田家!」製作委員会

プロフィール

中野量太
1973年生まれ、京都府出身。大学を卒業後、日本映画学校で映画制作を学ぶ。2012年、自主長編映画『チチを撮りに』を発表。『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)で商業映画デビュー。第40回日本アカデミー賞の優秀作品賞など、その年の映画賞を総なめにした。『長いお別れ』(19)など家族をテーマに、ユーモアを交えた人間ドラマを撮ることに定評がある。

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