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“映え”の時代に心に響く「なにげない写真」〜映画『浅田家!』写真家・浅田政志さんインタビュー

消防士、極道、レーサーなど、さまざまな職業やシチュエーションを再現した「家族写真」を撮る浅田政志さん。その作品を収めた写真集『浅田家』と、東日本大震災の被災地で写真洗浄のボランティアの現場を収めた写真集『アルバムのチカラ』を原案とした映画『浅田家!』が10月2日から公開されている。今、改めて考える写真の意義ついて、浅田さんに話を聞いた。【取材:宮原沙紀】

振り回されても常に協力してくれる家族

―完成した映画『浅田家!』を観て感じたことを教えてください。

「人生は何があるかわからない」という言葉を実感しています。僕はただの写真家ですし、映画になるような人生を歩んできたつもりもなかったので。

―映画を観たご家族の反応はどうでしたか?

家族は完全に舞い上がっていて、まだ冷静に観ることはできていません(笑)。浅田家では、これから50回以上観ると思うので、徐々に映画を噛み締めていくことになるんじゃないでしょうか。

―作中で描かれたキャラクターと、実際の浅田家の方々は似ていますか?

当初は写真集からインスピレーションを受けた映画というだけで、それ以外は自由に物語を創作するのだと思っていました。しかし映画のなかの家族は、本物の浅田家とよく似ています。監督が丁寧に取材を重ねて、細かいところにもこだわって撮ってくれたからだと思います。劇中にも出てくるエピソードにあるように、家族写真の撮影は家族に無償で協力してもらっていました。家族は休みの日に振り回されて、恥ずかしいことをさせられて。それでも協力してくれていたんです。

©2020「浅田家!」製作委員会

被災地で気づいた写真の持つチカラ

―『アルバムのチカラ』のエピソードも描かれていました。実際に被災地にボランティアに行ったのはどうしてですか?

東日本大震災が起こった後、写真家仲間で集まって写真でなにかできることはないかと話す機会が多くありました。しかし震災直後の被災地は、住むところも食べるものもない。そんな状況で写真を撮りに行って、被災地の力になれることはないという結論になるんです。もし写真を撮ることで協力できることがあるとしても、何年か後に復興した時だろうと。僕もそう感じたので、撮影ではなくボランティアをしに現地へ行きました。

―そこで、写真洗浄に出会ったんですね。

はい。津波で流されたアルバムの写真を洗浄して、持ち主に返すボランティアです。現地で写真洗浄を見るまで、こんな方法があるとは思いつきもしませんでした。実際にボランティアをしてみて初めて写真が手元に返るということが、こんなにも喜ばれることだと知ったのです。写真家が撮ったような上手い写真だけではなく、誰もが撮っているなにげない写真。実はそういう写真に、力があることを知りました。

今、みなさんのスマホにも写真が入っていると思います。今は写真をプリントせず、スマホやPC、ハードディスクなどに保管していますよね。写真洗浄のボランティアをした時に洗われた写真は、ひと昔前のフィルムの写真ばかりでデータの写真の再生はできませんでした。

今はいつでも見返すことができるデータでも、10年後には全く違う形になりデータの取り出しさえできなくなってしまうかもしれません。データは永遠ではないので、写真がプリントされているということは大切なことです。震災のような日常が変わった時に、写真の価値が変わります。今は写真家として撮影をすることよりも、どうやって写真を残していくかに興味があります。

新型コロナウイルスで変わった家族写真の役割

―緊急事態宣言が発令されている間、浅田さんは家族写真を毎日Instagramに投稿されていましたね。

新型コロナウイルスの感染者が増えていくなか、アメリカでは家族写真を撮る人が増えているという話を聞きました。アメリカの方が日本より、感染者数も死者数も多く切迫した空気だったと思います。そのなかで、今生きている自分たちの姿を残しておきたいと思ったようです。僕自身も家にいる時間が増えて、今が写真を撮る時かもしれないなと思いました。

家族写真は旅行に行った時など、なにか特別な景色やシチュエーションで撮ることが多いので、自分たちのいつもの居場所で撮ることは、実は少ないのです。だからこそ最初の投稿は、家族が一番長く時間を過ごすソファで、いつもの格好で正面から撮りました。僕の子どもが大人になった時にこの写真を見返したら、コロナの時代を家族で乗り越えたというメッセージを受け取ってくれると思っています。

―毎日投稿される浅田さんの写真を楽しみにしていた方も多いと思います。この機会に家族写真を撮ってみようと思う人もいたのではないでしょうか。

今の写真はどうやったら綺麗に撮れるかとか、多くの人にいいと思ってもらえるかなど、いわゆる「映える」という言葉に象徴されるような価値観が重視されます。しかし本当に心に響き、何年後かに涙を流す写真というのはなにげない一枚だったりするんです。

©2020「浅田家!」製作委員会

―作中で「一生にあと一枚しか写真を撮れないとしたら?」という問いかけがありました。今、浅田さんがそう聞かれたら何を撮りますか?

やっぱり大切な人や、家族、大好きな風景などになるのではないでしょうか。今は写真が、無制限に撮れる時代になりました。だから一枚しか撮れないなんてことはありえないんですけれども。その答えは、その人の一番大事なものになると思います。みなさんもその質問を自分自身にしてみたら、自分にとって一番大切なものは何かを見つめ直すきっかけになるかもしれません。

映画情報

映画『浅田家!』10月2日(金)全国ロードショー
監督・脚本:中野量太 脚本:菅野友恵
出演:二宮和也、黒木華、菅田将暉、風吹ジュン、平田満、妻夫木聡 ほか
原案:浅田政志「浅田家」「アルバムのチカラ」(赤々舎刊)
公式サイト:https://asadake.jp/
©2020「浅田家!」制作委員会

プロフィール

浅田政志
1979年生まれ、三重県出身。2000年に日本写真映像専門学校を卒業。07年に写真家として独立。09年、写真集『浅田家』で第34回木村伊兵衛写真賞を受賞。『家族新聞』(10)、『家族写真は「」である。』(13)、『アルバムのチカラ』(15)などの写真集を発表。PARCO MUSEUM TOKYOにて写真展『浅田撮影局』を開催中(10/12まで)。

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