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憲法改正より修正が分りやすい

決めるのは主権者たる国民

(産経新聞「正論」2020年9月30日付朝刊掲載)

日本財団会長 笹川 陽平

菅義偉新内閣のアフターコロナの最大の政治課題の一つが憲法改正問題である。筆者は憲法も人が作る以上、時代の変化に合わせ見直す必要があると考えるが、変えるにせよ、変えないにせよ、それを決めるのは主権者たる国民である。

然るに国民の関心は、消費税や年金問題などに比べ今一つ盛り上がりを欠く。一因として国民の多くが「改正」の言葉に、憲法全体の作り替えにつながるような“重大さ”を感じているのではないかと思う。必要なのは憲法に対する国民の関心の高まりである。

ならば改正をもっと柔らかい「修正」の言葉に置き換えるのも一考と思われる。

この考えを9月17日に行われた「正論大賞」の授賞式での講演で披露したところ、たまたま会場に顔を出された元駐英大使の藤井宏昭氏から、後日、以下の指摘をメールでいただいた。

「現行の日本国憲法が旧帝国議会で承認された際、明治憲法(大日本帝国憲法)の改正と明記された。こうした点もあって、憲法改正というと何となく全面的に変えると感じる国民が多いようにおもわれる」

現下の状勢を見ると改憲、護憲に分かれた政治家や学者の論争ばかりが目立ち、社会の変化を踏まえた現実的な議論は少ない。どこに問題があるのか、国民には見えにくい状況があり、この点も憲法に対する関心が低調な一因となっている。

確かに憲法第96条(改正)1項には「この憲法の改正は」とある。しかし憲法改正は一般に「条文の修正、追加または削除」と解説され、憲法修正であっても特段の支障はないと思う。

憲法は「不磨の大典」ではない

議論の取っ掛かりとして、現憲法に対する私見を述べさせていただく。憲法は国の基本法であり、改正はその国の判断に委ねられなければならない。然るに現憲法は、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が草案を作成するなど、その成り立ちにまず問題がある。

全体の目的や精神を述べた前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とある。平和は尊いし、諸国民の公正と信義を信頼できる国際社会こそ理想である。

しかし、日本の周辺を見渡せば、北朝鮮は核開発を急ぎ、南シナ海での軍事拠点づくりを進める中国は沖縄県・尖閣諸島周辺への侵入を常態化させている。トランプ米大統領の自国第一主義を見るまでもなく、日米同盟を基軸とする安全保障環境も変化しつつある。

諸国民の公正と信義を信頼して安全を保持できる状況にはない。

焦点となっている憲法9条も現実的と思えない。戦争の放棄や陸海空軍その他の戦力の不保持は、どう見ても自衛隊の存在と矛盾するし、自国の軍隊を持つのは独立国家の要諦である。戦前の反省を踏まえ厳しいシビリアンコントロール下に置いた上で、憲法で自衛隊を国軍と位置付けるのが、あるべき姿と考える。

何時、起きてもおかしくない南海トラフ大地震など大災害を想定すると、新型コロナ禍で浮上した緊急事態条項の新設も必要だ考える。このほか私学助成の在り方など、現実に合わせ見直しが必要な条項は何点かある。

日本国憲法は終戦2年後の1947年5月3日に施行された。同様に第二次世界大戦後に制定されたドイツ連邦共和国基本法は60回以上、イタリア共和国憲法も10回以上、改正が行われている。

それぞれの構成や法律としての性格に違いがあるとしても、施行以来73年間、一字一句、変わることなく現在に至る日本国憲法は世界でも極めて特異な存在である。

憲法も時代に合わせ見直さなければ社会と合わなくなる。時に護憲派から、現憲法を「人類の英知」と礼賛する声を聞くが、現憲法は「不磨(すり減らないほど立派)の大典」ではないし、そうあってはならないと考える。

国民参加の幅広い議論こそ

筆者は2009年から6年間、古くからの友人であるヨルダン王国のハッサン王子と共にアラブ諸国や南アジアの知的指導者によるWANA(西アジア・北アフリカ)フォーラムをアンマンで開催した。

ある時、ハッサン王子が筆者を「笹川財団の笹川」と紹介するのを聞き、「笹川平和財団の笹川」だと伝えると、「よく知っている。しかし中東では平和という言葉を使うと“偽善者”と見られる。だからあえて『平和』を外した」との説明だった。

平和の捉え方ひとつとっても、国によってこれだけの違いがある。憲法問題は改憲、護憲だけに二分化できるような単純なテーマではない。

今、必要なのは一人でも多くの国民が参加した幅広く分かり易い議論の広がりだ。誰もが参加できる柔軟な「憲法修正」の議論こそ、その実現につながる。

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