記事

日本企業も関与「中国ウイグル族弾圧」で行われる苛烈な「強制労働」 - 阿古智子

1/2

[画像をブログで見る]

「国土」や「国民」は自然発生的に生み出されるのではなく、為政者が創り出すストーリーに基づいて形成される。

 中国政府が盛んに主張する「中華民族」も例にもれず、

「中国は多民族だが古代より連綿として引き継がれる《中華民族》という一体的な民族=国民観念を有する」

 という政府の説明や、歴代王朝と現代の国民国家を同一視する態度には、現政権の意図が明らかに反映されている。

 少数民族自治区や香港、マカオ、台湾を含む「中国」という国土において、「中華民族」が団結して国家建設に励むことこそが、中国共産党政権が理想とする姿だ。

 そうした理想像を念頭に行われているマイノリティへの人権侵害や差別の多くが、中国政府のみならず、少なからぬ中国の人々にも「正当な行為」と認識されていることに、我々は注意を払う必要がある。人権や民主主義、自由、平和、他者への尊重など、人間が人間らしく生きるために重要な概念や、基本的な価値意識に関して、中国共産党は独自の論理を展開し、日本を含む民主主義国と、それらを共有できない状況が一層顕著になっているからだ。

 そのため、言論・思想に対する統制、官製メディアやイデオロギー教育を通じたプロパガンダが徹底的に行われ、中国共産党の論理は中国社会に浸透し、活動家や弁護士、宗教リーダー、リベラル知識人、市民活動や知的活動を支援する実業家など、本来、社会変革に重要な役割を果たすべき人物が弾圧の対象となり、AI(人工知能)やビッグデータを駆使した監視の強化によって、恐怖政治が進行している。

 そんな中、国民は恐怖を前に、互いに疑心暗鬼になり、牽制し合い、不利益を被ったり、疑いを持たれたりしないように、自らの立ち位置を調整することが当たり前になっていくのである。

 国際社会において激しい批判を受けているにもかかわらず、中国国内では「正当な行為」として進行している深刻な人権侵害の一例が、ウイグル族への弾圧だ。

 そして後述するが、実はこの弾圧に、我々日本人も関わっていることをご存じだろうか。

形骸化する民族区域自治政策

 ウイグル族に対する弾圧の実態を分析する前に、中国の国家建設・国民統合における民族政策の位置づけを簡単に見ておきたい。

 中国大陸において、統治機構の整備(国家建設)と国民集団の育成(国民統合)が、本格的に始まったのは、1911年の辛亥革命以降である。

 中華民国期に「五族共和論」(満州族、漢族、モンゴル族、イスラム系民族、チベット族の五族団結による国家統一)が提起され、それが次第に漢族への同化主義的色彩を帯びて、1920年代の終わりには、少数民族は「中華民族」の氏族に過ぎないとされてきた。他方、中国共産党は中華人民共和国建設以前から、国民統合を民族の平等と団結によって実現するとしている。

 現在、中華人民共和国では、省レベルで5つの民族自治区が、そして州以下のレベルにも民族自治州(30州)、民族自治県(120県)、民族自治郷(1173郷)が設けられ、少数民族の自治権が認められている。

 民族別人口比率に基づき、民族自治区の範囲内においては、代表権や自治権が付与されるというのが、中国の民族区域自治政策のエッセンスである。そして少数民族には、少数民族幹部を養成する権利、首長や人民代表に少数民族を当てる権利、自らの文字や言語を使用する権利、民族教育を実施する権利などが与えられている。

 しかし昨今、民族区域自治の理念は実践されていない。まず、チベット自治区(チベット族90%、漢族8%)をのぞいて、少数民族がマジョリティである民族自治区は存在しない。

 新疆ウイグル自治区では、1949年に全区人口の約76%を占めていたウイグル族が、2015年には47%にまで減少した。一方、1950年代に同自治区で数%だった漢族は、2015年には36%にまで上昇した。移住で漢族が増加したため、現在では漢族中心の経済開発が進められている。

 また、改革開放期に推進されていた少数民族語と中国語(漢語)のバイリンガル教育も、中国語を中心とした学校教育に転換している。

 宗教活動も政府機関が厳格に管理し、共産党組織の「統一戦線工作」を通じた民族・宗教指導者への懐柔を積極的に行うようになった。こうした政府の“介入”は、ウイグル自治区に限ったことではない。

 さらに、国境地帯が多く含まれる民族地区の管轄内には、国家安全保障上の戦略要地の安定を確保するため、軍隊や武装警察、各種の治安要員が常時大量に動員されている。

「断種ジェノサイド」も

 民族区域自治政策が形骸化するなかで、2017年頃から特に、ウイグル族への弾圧が激しさを増している。日本ウイグル協会副会長のレテプ・アフメット氏は、

「著名な大学教授や実業家、作家や大学の学長など、ウイグル人社会を支えてきた文化人や経済人が一斉に姿を消すという悪夢の様な事態が生じています。

 ウイグルに来たことがある人はご存知かと思いますが、文化がまったく違っているので、中国の一部とは思えないでしょう。だからこそ、近年、より強制的に“同化”させようとしているのでは」

 と話す。驚くことに、「外国に家族がいる」「パスポートを申請したことがある」「外国を訪れたことがある」という理由だけで、収容施設に送られることもあるという 。

 現在、新疆ウイグル自治区に入って調査や取材を行うことは難しいが、衛星写真や映像、内部文書の流出によって、厳しい弾圧の実態が明らかになっている。

 2019年9月、後ろ手に手錠をかけられ、布で目隠しされた丸坊主の男性たちが、数百人の警察官に囲まれ、列車で移送されようとしている場面が動画で配信された。何者かがドローンを使って撮影したと見られる。

『BBC』の番組に出演した中国の劉暁明駐英大使は、スタジオでこの動画を見せられ、

「何の映像かわからない」

 と繰り返していたが、専門家はウイグル族が拘留施設に送られる途中だと見ている。

 トルコに逃れたウイグル族などから証言を集めた『BBC』によると、親が収容所に送られた子どもたちは、子ども専用の教育収容所に収容されているという。そこでは、中国語以外の言葉を話すと処罰される。

 共産主義犠牲者記念財団の中国研究上級フェロー、エイドリアン・ゼンツ研究員は、

「新疆ウイグル自治区政府は、新たな世代を民族のルーツや宗教、固有の言葉から引き離し、育成しようとしている」

 と指摘する。

 加えて、『CNN』が中国当局に確認したところ、ウイグルにおいて子宮内避妊具(IUD)の挿入率が急増していることがわかったが、これによって、ウイグル女性に対する大規模な避妊器具の装着や、不妊手術の強制も疑われている。

 一人っ子政策が終わり、中国全体では2018年、IUD装着率は10万人あたり21人と減少した。しかし、新疆では逆に、10万人あたり約1000人と増加している。人口1000人当たりの出生数は、2017年に15.88人だったのが、2018年には10.69人に減少した。

 これは自然の人口減少では到底説明がつかず、自治区政府は『CNN』の取材に対し、

「家族計画を全面的に実施したため」

 と認めている。

 ウイグルにだけ、特別な家族計画を実施する意図は何なのか。

 米チュルク系民族弁護士協会会長のライハン・アサット氏、ラウル・ワレンバーグ人権センター法律顧問のヨナー・ダイアモンド氏は、

「『彼らの血筋を断て、彼らのルーツを壊せ、彼らの人脈を断ち切り、起源を破壊せよ』といった号令の下で、中国政府が行う組織的なウイグル人弾圧は、中国政府も批准している『ジェノサイド(集団虐殺)条約』が規定するジェノサイドのすべての項目に当てはまる」

 と主張する。つまり、前出のゼンツ氏は、ウイグル族をターゲットに「断種ジェノサイド」が行われようとしていると、危惧しているのだ。

共産党への忠誠、中国語や政治思想も

 米国務省が2019年6月に発表した世界各国の信教の自由に関する『年次報告書』(2018年度版)によると、2017年4月以降、中国政府は推計で少なくとも80万人、最大で200万人以上のウイグル族などイスラム教徒を拘束しているという。

 さらに、最近問題になっているのは、拘留施設からアパレル産業や電子機器などの工場に移り、強制的に労働させられているウイグル族の存在だ。

「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」や米「戦略国際問題研究所(CSIS)」は、内部協力者や中国を出国した拘留経験者から証言を集めている。それによると、

「工場に行かなければ拘留施設に逆戻りだ」

 と脅迫され、長時間、低賃金あるいは無給という悪条件での労働を強いられたうえ、中国語や政治思想を学ばなければならず、イスラム教の信仰も禁じられていることなどが明らかになった。

 例えば、現在海外にいる拘留経験者は、政府がトルコ、カザフスタン、アフガニスタンなど「敏感な国」に指定する26カ国のうち1国を訪ねたことで、「外国の思想」に晒されたと咎められ、地元の警察に15日間の教育研修への参加を求められた。それから彼女は夫と子どもと引き離されて、1年3カ月も拘留され、強制労働をさせられた。

 拘留期間中、彼女は朝から共産党に忠誠を誓って共産党の歌を歌い、7分で朝食を取り、その後、45分の中国語の授業を受けていたという。クラスメートとの中国語を使用する会話の中では、自らが宗教を信仰していないことを明確にしなければならない。トイレでは2分以上過ごすと木の棒で叩かれる。昼は食事と30分の体操の後、共産党に対して批判的な思想を持っていないか、自らの過去を反省しているか、信仰を実践していないかを確認する質問を教員から受ける。夜、寮で就寝する際には、2人の女性が就寝前のお祈りをしていないかをチェックする――という過酷な生活を送っていた。

 また、伊寧県の工業団地にある「伊犁卓萬服飾製造公司」の工場で手袋を作っていたという女性は、毎日、寮から3キロ離れたところにある工場兼再教育施設にバスで通っていた。CSISの研究チームが、Google Earthで工場の外にバスが待っているのを確認している。

 この工場の警備員は、中華人民解放軍か警察の制服にも見える明るい青色のユニフォームを着て武装しており、

「6~8カ月の契約で、新疆の他の地域から送られてきた」

 と不平を言っていたという。彼らは、工場が雇う警備員ではなく、政府が各地に派遣している人員のようだ。

 この女性も共産党への忠誠を誓い、中国語を学ぶといったルーティンをこなし、携帯電話は定期的にチェックされていた。

 工場で働く300人の労働者のうち、30人は拘留経験者で、そのうち4人は同じ拘留施設にいたという。女性は以前の仕事で月給3000元(約4万6400円)を得ていたが、この施設では毎日、8時から18時まで10時間働き、給与は最初の1カ月半に260元(約4000円)支払われただけで、そのあとは未払いだった。

 この強制労働から逃げ出そうと、夫を通じて人権団体に連絡した女性は、警備員に携帯メッセージをチェックされ、警察に連行された。取り調べでは手錠をかけられ、冷水に頭をつけられるという暴行も繰り返された。

 最終的にはカザフスタンへの出国が許されたが、工場や拘留施設で経験したことを話せば、カザフスタンの関係者や新疆の家族に被害が及ぶと警告されている。

あわせて読みたい

「ウイグル」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    堀江氏 餃子店1千万円支援に苦言

    女性自身

  2. 2

    橋下氏「否決なら住民投票無効」

    橋下徹

  3. 3

    毎日の誤報「公正」は口だけか

    青山まさゆき

  4. 4

    年末年始「17連休案」空振りの訳

    BLOGOS しらべる部

  5. 5

    NHK「しれっと」報道訂正に疑問

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  6. 6

    JALの旅行前検査 医師が「ムダ」

    中村ゆきつぐ

  7. 7

    社長辞任 勝者なき大塚家具騒動

    企業法務戦士(id:FJneo1994)

  8. 8

    若者の提案に上司「立場を失う」

    文春オンライン

  9. 9

    誤報訂正せず 毎日新聞社に疑問

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  10. 10

    田代まさし闘病で収監延期の現在

    SmartFLASH

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。