- 2012年10月19日 01:36
ブルックリンのNIMBY目線
ブルックリンというと最近は流行の発信地的なエリアとして有名らしい(こっちに来てから初めて知った)。といってもそれはイーストリバーを渡ってすぐにウィリアムズバーグという地区辺りのことで、広大なブルックリンの大半の地域は中小規模の町や家の建ち並ぶエリアが広がっている。よそと違うのは人種や社会階層の断絶、経済的な格差の見本市みたいな地域になっていることだ。
取材の日は地下鉄2号線の終点フラットブッシュアヴェニュー駅で降りたのだが、地上に出ると周囲を歩いているのは99%がアフリカ系。で、北東に2ブロック歩くとアフリカ系はほとんどいなくなり、ジューイッシュの姿しか目にしなくなる。ティーパーティーの若者とはコーシャーのカフェで会って話を聞いた。
居住地域が人種ごとに分かれているのはアメリカでは珍しくないが、人口250万人、ニューヨーク市の5つの行政区の中でも最大のブルックリンが極端なのはこの地図を見るとわかる。僕が取材で行った場所はこの地図の水色のエリア(黒人)と緑色のエリア(白人)のちょうど境目あたりだった。
所得や人種の入り交じった階層でエリアが分断されていると何が起きるか。ニューヨークタイムズの記事によれば、170のベッドを備えたホームレス向けシェルターの新設計画に一部の住民が反対しているという。
シェルターが計画されているキャロルガーデン地区は住民の大半が白人で、しゃれたレストランやラウンジ、バー、ブティックなどがあるエッジーな地域として知られる。反対派住民の言い分は「せっかく立派なエリアに育て上げたのだから昔の危ないブルックリンに戻すなんてとんでもない」とか「帰りが遅いこともある妻の身が心配」とか、要するに日本のゴミ処理場や葬儀施設、被災がれき処理、放射性廃棄物処分場などでついて回るのと同じNIMBY(ノット・イン・マイ・バックヤード=作るのは結構だが、うちの裏庭ではなくよそでやってくれ)だ。
最近の統計ではニューヨーク市のホームレスの数は46000人で、大恐慌以来、最大になっている。反対意見が出るのがもともと差別意識むき出しのエリアならともかく、ブルックリンに住むのは公助の精神を尊重するはずのリベラルを自任する誇り高きニューヨーカー。これを偽善と言わずして何を偽善と言うのか、と、呆れるメディアがいるのも無理はない。
ブルックリンのコーシャーのカフェで話を聞いた30代のユダヤ人男性は祖父母がイスラエルからの移民で、オーストラリアや南アフリカにも親戚がいるという。コンピュータソフトの仕事をしながら5歳の娘を育てている。
ティーパーティーになぜ参加するようになったのかは自分でもよくわからないが、州議会上院選でティーパーティーに理解を示す保守系政治家のキャンペーンに参加したり、今回の共和党の大統領予備選でティーパーティー系候補を仲間と応援することで、「変革」に自ら関わっている充実感を覚えるのだと彼は言う。大統領が権力を独占して税金を勝手に使いまくる政治システムがいかに間違っているか、テロを企ててやまないイスラム教徒を社会に受け入れることがいかに不条理か、医療保険制度も中東政策も何もかも含めてオバマがいかに国を誤った方向に導き続けているか、といった主張を、アイスティーをすすりながら静かな口調で、けれど険しい目つきで、淡々と語り続けた。店のショーウィンドウににっこり笑ったオバマの写真が飾られた黒人地区から100メートルも離れていないカフェで、彼のそうした話を聞き続けるのは不思議な気がした。
富裕層支持者向けの「47%発言」の隠し撮りビデオが流出してなじられたロムニーは、10月16日火曜日の第2回討論会でオバマにその話題を突かれた際も「私は100%の国民のために働く」と弁解していた。本音がどちらにあるのかはわからないが、政治家になる前、シカゴの貧困地域でコミュニティーオーガナイザー(住民を組織化する活動のリーダー)をしていたオバマが、ブルックリンに見られるような人種や宗教や所得格差が生み出す断絶の克服を常に意識しているのに対して、ロムニーはむしろホームレス向けシェルターを忌み嫌う偽善的なNIMBYたちと同じ視線から「アメリカがあるべき姿」をみていると有権者の一部が感じているのは確かだろう。



