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彼氏を友人に奪われ、リストカット。友人の自殺を経て、自殺防止の活動を【生きづらさを感じる人々35】

9月は、自殺に関連する話題が多くなる。過去40年間で18歳以下の自殺が多いのは9月1日とされている(2018年に発表)。また、9月10日は、WHOが定めた「世界自殺予防デー」だ。日本では、その日から16日までは、自殺対策基本法にもとづく、自殺予防週間としている。さらには、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市、相模原市の九都県市では、9月を「自殺対策強化月間」ともされているため、各地で、自殺対策に関連する取り組みが多くなる。

失恋は、自殺の「原因・動機」の1%

 「失恋をするまでは、自殺や自傷のことを考えたことはありませんでした。失恋して、最初は怒りしかなかったです。そして、自分なんか必要ない。消えたい。そう思うようになって、手首をカッターで切りました」

さつき(35)は、10年ほど前に、失恋をした。それも、高校時代に仲が良かったグループにいた女性に、彼氏を奪われたからだ。リストカットには当事者にとってはいろいろな意味がある。人によっては本気で死ぬ手段だったり、別の人には、死なないための手段だったりする。記憶がない中でする場合もある。ただ、このときのさつきにとっては、死ぬための手段だった。

失恋をきっかけに「死にたい」と思う人はいるし、実際に、自殺に向かう人もいる。警察庁の統計によると、「原因・動機」別では、2019年に239人(男性151人、女性88人、同統計は、「原因・動機」を三つまで計上している)。19年の自殺者数は20169人のため、全体の1%ほどが「失恋」だ。決して、少なくはない割合だ。

写真:渋井哲也

ミクシィの日記で彼氏の浮気を知る

彼氏は、さつきと同じグループの仲間だった。友人に奪われたことは当時、流行っていたSNS・ミクシィで知った。彼氏と会おうとさつきが誘ったとき、彼氏は「仕事だ」と話していた。しかし、その日の彼氏のミクシィの日記には、ケーキバイキングをしていたことが投稿されていた。しかも、友人の女性と同じ場所の写真だった。

「その日記を見て、私は、裏切られた感じでした。でも、グループの仲間は、彼女を守ろうと、かばったんです。グループは6人。そのうち女性は2人で、私とその友人。比べてしまえば、彼女は身長が小さく、髪が長い。男の人からすれば、頭をポンポンしたくなるようなタイプです。それに彼氏と彼女は、同じ趣味があったんですよね」

彼氏と出会った高校は、不登校の子どもたちが集まる学校だった。中学1年の夏までは登校していたが、夏休みの課題でつまずいた。また苦手な大縄跳びの大会が夏休み中にあった。こうしたことが重なり、学校へ行かなくなった。

「中学3年の修学旅行には行きました。担任の先生が『ついているから大丈夫』と言ってくれて、結局、旅行は楽しかったこともあり、そこから学校へ行くようになりました」

不登校が長期化する中で、楽しみはラジオ番組

さつきは小学校の頃から学校が苦手になっていた。引っ越しを繰り返したからだろう。父親は転勤族で、5歳までは関東に住んでいた。そこから北海道へ転勤。小学校3年の10月になると、同じ道内で引っ越した。転校してすぐ学芸会があったが、うまくできなかったことで、小学4年の頃から学校へ行かなくなった。

不登校の間、楽しみにしていたことがあった。ラジオ番組だ。特に、海砂利水魚(現在のくりぃむしちゅー)の番組はお気に入りだった。

「この番組が楽しみで、生きる希望でした。隣の部屋にいるお姉ちゃんに『うるさい』と注意されたこともあったんですけどね。だからこそ、芸能関係の仕事に就きたいと、東京の学校へ行こうと思ったこともあるくらいです。ただ、中3のとき、番組が終わってしまい、『この人たちも新しいスタートなんだ。自分も頑張らないといけない』と思って、学校へ行くようになったんです。でも、普通の授業になったときにいじめられるようになりました。汗っかきだったことも一因かもしれません。配布物が回ってこなかったり、給食で配膳されなかったりしたんです」

ラジオ番組が生きる希望だった。写真:足成

こうして長期間の不登校を脱出したものの、いじめを受けて、普通の学校へ行くことができなくなった。その後、不登校経験者が集まる高校へ進学したことで、将来の彼氏になる男性との出会いができた。しかし、彼氏の浮気で失恋。それがきっかけとなり、リストカットをした。

「友達が中学時代にリスカをしていたんですが、当時は、なんでこんな怖いことできるんだろうと思っていたんですが、仲間に彼氏を取られたことで、どうでもよくなりました。自傷は今でもしています。もう癖になっています。手首だけでなく、足やスネを切ったりします。手首よりも痛いですね」

リストカットで死ねない。「だから薬」と思った

ただ、鬱傾向になっていたのは失恋前からだ。クリニックに行くようになったのは20歳の頃。彼氏の兄がうつ病で、クリニックに通い出してから改善が見られるようになったと彼氏に聞いていたからだ。さつきは「自分もよくなるんじゃないか」と思い、通い始めた。

「最初に行った病院は薬だけを渡されただけでした。でも、次の病院では、精神療法である、SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)やグループミーティングがありました。この病院には2、3年通いました。失恋後のリスカは、自分の中では自殺未遂。死のうとしたんです。消えたいとも思いました。それに、やはり、仲間の裏切りは悔しかったこともありますね。また、無職だったために、『いつ就職するんだ』と言われ、父との確執があったんです。いろんな思いが積み重なっています」

しかし、もちろん、リストカットでは死ぬまでは至らない。そのため、処方薬の過量服薬(オーバードーズ、OD)をするようになっていく。

「死ねないから、薬だと思ったんです。でも、そうすると、通っていたクリニックから追い出されてしまったんです」

精神科のクリニックには、リスカやODを繰り返すと、病院が受け入れないという判断をするところもある。これにはいろんな意味があるが、自傷行為をやめさせようとするメッセージであったり、他の患者に伝播しないようにするためだったりもする。ただ、さつきは、自らの行為とその結果によって、コンプレックスを刺激されていく。

「みんな自分の道を進んでいるのに、自分だけが遅れている。自分は何をしているんだろう。高校のときだって、希望の大学へ行けると言われたのに、大学進学をやめてしまったんです」

写真AC

居場所が見つけられずに自殺系サイトへ

高校卒業後は、専門学校へ通うことにしたが、そこでも温度差を感じた。クラス内で話しかけても、名前さえ、教えてくれないのだ。勉強にもついていけなくなった。英語も、筆記体が前提だったが、高校は不登校の子たちが集まっていたところだったためか、筆記体をちゃんとは学んでいなかった。社会の中でなかなか居場所が見つけられない中での、唯一、信頼できるのが、高校時代に知り合った仲間たちだ。しかし、その仲間に裏切られ、彼氏を取られる。そんな状況の中で、「自殺系サイト」へアクセスした。自殺のスポットとされる「富士樹海」に関するサイトも見るようになる。

「ネット検索は得意じゃなかったんです。そのため、検索キーワードは、『自殺』+『名所』+『道具』という単純なものでした。ただ、アクセスしたサイトでは、特にやりとりすることはなかったです」

相談先は検索したのだろうか。

「未遂前後は、『いのちの電話』や女性相談にも電話をしました。でも、結局、相談員から『病院へ行ってください』で終わってしまって。じっくり話を聞いてくれる相談先はなかったんです」

写真AC

自殺予防に関わるきっかけは友人の自殺

相談先を彷徨っているときに、たどり着いたのが、現在、副代表を勤めている任意団体「自殺予防団体 −SPbyMD−」(北海道札幌市)だ。関わるきっかけは、中学時代の友人の自殺だ。テレビのニュース速報で電車事故を知った。予感がして、友人にメールをするが、返事がない。そのため、自宅に電話をすると、父親が出た。心配だったために、友人の自宅へ向かった。

「自殺した彼女は精神科に入院をしていたんです。例えば、『24時間テレビは、目に見える障害者を応援する。精神障害はとりあげないよね』などの話もしていました。病院に面会に行くこともありました。亡くなったときは、一時退院をしていたときだったようです。

その後、引きこもって、ネット検索をしていたら、団体のFacebookページにつながりました。団体に関わり、活動をしているのは、その子への贖罪意識からです。ちゃんと話を聞いていればよかったと思っています。自殺の2日後、その子が好きで行くはずだったKinKi Kidsのコンサートへ足を運びました。その子が作ったうちわも持っていきました」

 こうしてさつきは、現在、地域住民の交流活動をはじめ、自殺を考えている人の傾聴ができる「ゲートキーパー」の養成講習も北海道内で開催している。さつきは双極性障害でもあり、当事者としての話もしている。

現在のさつきさん。写真:渋井哲也

「自殺予防団体 −SPbyMD−」
https://spbymd.jimdofree.com

*記事の感想や生きづらさに関する情報をお待ちしています。取材してほしいという当事者の方や、リクエストがあれば、Twitterの@shibutetu まで。

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