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介護に携わるプロフェッショナルでも「甘えたっていいじゃん」-「賢人論。」121回(後編)近内悠太氏

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近内悠太氏独特の思考の源となっているのは数学。また、若き哲学研究者が持つもう1つの顔は、統合型学習塾「知窓学舎」で数学の教科を担当する教育者である。そのユニークなキャリアを持つ近内氏に、介護職に見られる「燃え尽き症候群」を防ぐために大切な物事の考え方と、プロフェッショナルを突き動かす「使命とは何か」について語っていただいた。

取材・文/木村光一 撮影/荻山拓也

数学の明快さに心が安らいだ

みんなの介護 慶應大学理工学部卒の近内さんが、なぜ哲学の研究者になったのでしょうか。「数学」と「哲学」の出会いについて聞かせてください。

近内 僕の中には子ども頃から、確実な知識に対してしか心が落ち着かない感覚があって、理科の授業などで何かの法則を習っても、「そんなこと、どうやったらたしかめられるの?」と気になって納得できず、気持ち悪さがずっと尾を引いていました。

それに対して数学は、「三平方の定理」も「素数が無限個存在すること」も自分で確かめることができる。カント哲学で言うところの「共通する理性」を持っていれば誰でも検証できて納得できる。その明快さにとても心が安らいだんです。

それから、ひたすら確固たる知識、確実な世界認識としての「数学」を学ぼうという思いで大学まで進んだものの、そこで挫折。この先どうしようかと迷っているとき、ウィトゲンシュタインの言葉「すべてを疑おうとする者は、疑うところまで行き着くことができないであろう。疑いのゲームはすでに確実性を前提としている」(ウィトゲンシュタイン『確実性の問題』、第115節)に出会いました。その瞬間、「これはもしかしたら僕が子どもの頃から漠然と感じていた“知的不安”に対する答えなのではないか」と直感。以来、彼の哲学を追求し続けているわけです。

科目を分けずに連続的な知識を獲得する「知のマッシュアップ」

みんなの介護 近内さんが知窓学舎で実践されている、学問分野を越境する「知のマッシュアップ」とはどのような試みなのでしょうか。

近内 一言でいうと科目を問わずに全部混ぜちゃえばいいという教え方です。僕は主に高校生を教えているんですが、例えば「ロジック(論理)がなぜ必要か」という話をするとします。

僕はその答えの1つとしてまず「民主主義」を挙げ、意見が対立する人と一緒に社会をつくっていくときには、“私はこう考えています。なぜならば…。例えば…”と言葉を継いで、他者を納得させる必要があると説明します。

そして次に「民主主義はどこから始まったと思う?」と問いかけて歴史の話へ飛び、「古代ギリシャでは民主制と同時に、演劇と数学と哲学が誕生。これらはすべて他者を理解するための方法で、人々は演劇によって人間のさまざまな生き方を、数学の確実な論証によって誰であってもここまで辿り着けるという考え方を、哲学によってどうすれば共同体としての認識が成立するのかを知ろうとした。じゃあ、そのロジックの最たるものである数学の『集合と論理』の問題を解いてみようか」といったふうに、気がつけば科目の垣根を越えているという進め方をしています。

みんなの介護 それはとてもおもしろそうな授業ですね。すべての知をつなぎ合わせて理解することで、各分野への興味も高まるように思います。

近内 そうなんです。そもそも数学は雑談を交えにくい科目ですが、1クラスの生徒数が10人程度ということもあって、こうした対話的な授業が可能になっているんです。僕が重視しているのはその場の臨場感や即興性。生徒一人ひとりとのやりとり次第でどんな方向にも授業の流れを変えていく。そういったライブ感を生かすように心がけています。

硬直した「使命」より「他力」のしなやかさ

みんなの介護 では、いよいよ最後のテーマです。慢性的人手不足、遅々として改善が進まない労働条件にもめげず、コロナ禍にあっても介護に携わるプロフェッショナルたちは奮闘しています。おそらくそれを支えているのは「使命感」だと思われます。近内さんは著書で「使命」についても言及しておられますが、これについてお話いただけますか。

近内 『世界は贈与でできている』では、「倫理、義務感、誇り、プロ意識、勇気といった定量的に測ることのできない内的動機に基づいて、消防や教育という公共的な仕事はかろうじて成立しています。これらの内的動機は、一言でまとめれば『責任』です。それも外から押し付けられた責任ではなく、自らが気づいたうちなる責任の自覚です。もう少し強い言葉を使えば、『使命』です」と書いています。

しかし、最近ではこの内的動機の考え方ついて、「使命」より「他力」という表現の方がしっくりくるような気がしています。

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