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「保健所より厳しい」社員7万人トヨタの感染対策はやはりすごかった

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新型コロナウイルスの影響で自動車業界は危機にある。だが、トヨタ自動車だけは直近四半期決算で黒字を計上した。なぜトヨタは何があってもびくともしないのか。ノンフィクション作家・野地秩嘉氏の連載「トヨタの危機管理」。第3回は「徹底された現場の感染対策」——。

作業の前に従業員の検温を行うフランスのトヨタ工場=2020年4月21日
作業の前に従業員の検温を行うフランスのトヨタ工場=2020年4月21日 - 写真=AFP/時事通信フォト

フィリピンの3つの工場が操業停止に

2月4日に始まった対策本部だが、毎日、開いていたのが3カ月後には閉会した。特に終了宣言をするわけではなく、「トヨタの危機管理人」として座長を務める朝倉正司が「もういいだろう。今後は問題の都度、招集する。大部屋は当面残し、情報はアップデートしてほしい」と言ったところで終わる。部品の供給が平常に戻ったのがちょうどその頃だった。ただ、供給危機への対応は終わったが、医療機器、医療用ガウンの製造などへの支援は続いていた。

さて、ここからは、災害、感染症の危機の度に、部品の調達網をつなぐ仕事をし、また数ある協力工場へ赴いて復旧支援してきた危機管理人、朝倉に危機への対処について、ノウハウを語ってもらう。

「今回はある部品の供給が止まりました。いくつか仕入れ先がありますが、いずれもフィリピンに工場を持っていたのです。フィリピンは都市が封鎖になったので、工場の操業ができなくなりました。生産能力はあるのだけれど、従業員が出社できなかった。病気でもないし、工場が被災したわけでもない。それでも作ることができなかったのです。

ただし、徐々に封鎖も解けてきて、出社できる州もあればダメなところもありました。状況は時々刻々と変わりました。これ、災害でも、経済危機でも、危機の特徴なんです。うちの友山(茂樹、執行役員)が『危機は大きな変化だ』と言ったでしょうけれど、危機の最中は事態の変化が激しい。つねに新しい情報を入手しなければいけない」

初めての危機にどう対応したのか

「危機管理ではわれわれはつねに調達と一緒になってやります。まず日本の全工場における車の生産台数を調べる。そうすると、各部品の日当たりの必要量がわかる。生産能力が全世界の協力工場で半分になったとわかったら、次は在庫量を調べる。

トヨタの場合は他社とは違い、在庫量が少ないんです。他社が1週間分とすればうちは2、3日分しか持っていない。リーン(引き締まった、ムダのないの意)な体制だから、実は年がら年中、供給危機に対応しているようなものです。災害や新型コロナの危機では対応する工場と量が大きく増えただけです」

今回、具体的に対策会議が出した解決法は次の通りだった。

フィリピンの工場で作っていた量は他の国の工場よりも多かった。代替生産するにも一国では無理だったので、タイの工場と日本国内の工場に振り替えたのである。

「タイと日本のどこそこへ持ってこよう」と判断ができたのは調達部門が平常時に緻密な調達部品マップを作成していたからだ。

生産地を振り替え、復元するまでのプランを一気に練る

代替する場合、生産が動いている国で、フィリピンの工場のコストに見合った生産ができる国の工場に生産を振るのが基本だ。生産を振る場所が決まったら、次は日本の組み立て工場まで持ってくる物流のルートを確保しなければならない。

朝倉は言う。

「設備は工作機械が多いわけではないし、難しいものではありません。人海戦術でやって、できないことではない。ただ、手作業だから、人件費の安いところでやらなきゃならないんですよ。

それで、フィリピンが都市封鎖になったから、タイの工場に振りました。また、一部は日本にも生産設備を引き揚げて、作りました。ただ、日本の場合は緊急にはやれるけれど、継続的にはできない。日本人がやったら、そろばんに合わないからです。

フィリピン、ベトナムといった手先が器用で、細かいことをやれる人がいるところで作るのが基本ですよ。要は、現在、部品を作っている工場って、最適生産だから、そこでやっている。それを変えたら、また元に戻さなきゃならん。そこまで考えて振替生産のプランを作って実行するわけです」

どの業界にも当てはまる「物流」の問題

今回の危機に際してはタイミングがよかったと言っていいのかどうか判断に迷うところだが、トヨタは数年前から本格的な物流改革をやっているところだった。

「リードタイムを短く、小口の量で、フレキシブルに、そしてリーズナブルな値段で運ぶ」物流を構築しているさなかだったため、物流ルートの振り替えもスムーズに行うことができた。

トヨタが供給危機に対応できたのは生産部門と物流部門が日頃から協同で物流改革に臨んでいたからだ。システムの端々までを知悉(ちしつ)し、動かし方をわかっていたので、振り替えも難しくなかったのである。

どんな会社でもセクションが違うとコミュニケーションがスムーズにいかなかったりする。危機への備えのひとつに各セクションが日頃から情報の共有を行っていることが欠かせない。ただし、これは実行することは簡単ではない。

たいていのメーカーは質はともあれ調達網のマップは作っている。つまり、振替生産のプランを立てることはできる。しかし、物流の全体マップを持っていても、フレキシブルな運用をできる会社は限られている。

メーカーであれ、販売会社であれ、商社であれ、危機管理では物流についての知識、知恵、現場経験が必要となってくる。危機に際しては物流ルートの状況把握と代替輸送をするとすればどこに頼むのか、それとも自社でやれるのかといったプランBは用意しておかなくてはならない。

7万人の社員を抱えて「3密」対策もしなければ

対策会議で討議に時間がかかるのは振替生産をするかしないか、やるならばどの工場に持っていくか、物流のラインは確保できるのか。生産に直結する問題が第一だが、むろんそれだけではない。

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