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- 2012年10月18日 15:18
「マイナンバー」が必要な理由 志波幸男さんインタビュー
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経済、社会の情報化に貢献した人に総務大臣が贈る「情報化促進貢献等表彰」を佐賀県庁の志波幸男さんが受賞した。「国民本位の電子行政の実現に向けた勉強会」を立ち上げるなどの功績が認められた志波さん。受賞の経緯や感想を語る一方で、日本の「電子行政」の立ち後れを問題視していると話す。2012年に国連が発表した「世界電子政府ランキング」で「日本」は「18位」。隣の韓国が2010年、2012年と1位をマークしたのに対し、確かに大きく立ち遅れている。志波さんが危惧する日本の電子行政について聞いた。
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―今回の受賞の理由に「昭和62年から情報化分野に携わり、特に平成19年度は全庁的・全県的な視点から行政情報化推進に尽力」とあります。主に自治体クラウド(※)の取り組みを指しているのですか。※2009年12月佐賀新聞記事など参考
それだけを指しているわけでもないですね。昭和62年に地域情報化の分野に配属され、ケーブルテレビなど地域の活性化の業務担当になりました。当時は先のことを見据えて、個人データを基に医療と福祉の連携や、教育と行政の連携などが盛んに言われていました。ITのことを、当時は「ニューメディア」とか「テレトピア構想」などの言葉で表していましたね。その後しばらく離れて平成19年に課長としてこの分野に戻ってきたんですが、すごく進んでいるものと、全然進んでいないものがあると思いました。
―詳しく教えてください
平成元年くらいに、NTTの携帯電話サービスが始まりました。その当時は、すごく大きな端末で、通話料金も高かった。端末も高価だったので、実際にはレンタルしてやっと使っていた。しかしそれから約20年、一気に技術が進んで一般の使用が広がりました。今は携帯電話を1人1人が持つ時代、若い人は固定電話を置かない人も出てきたでしょう。それからインターネットもすごく普及したと思います。いまやネット販売がデパートの売り上げを上回るようになっている。
ところが、20年前あれだけ言われていたITを駆使した医療と福祉の連携はどうか。医療機器などはもちろん進歩しているんですが、例えば、健康診断のデータを使って事前に予防する、という風にはなってないでしょう。行政サービスもあまり便利になっていませんね。相変わらず役場にいかないといけないし、証明書を受け取らないといけない。医療や教育、行政分野は全然進まなかったと言えるでしょう。
―進んだもの、進まなかったもの、何が違ったんでしょうか
競争原理が働くものが便利になってきたと思うんですよね。逆に、競争下にないものは以前からそんなに進んでいない、もっといえば行政が関わる部分が進んでいないんです。でも行政のIT化、電子化は高齢者や弱者にこそやはり必要なことだと思うんですよ。高齢者の人は健康保険証をもらったり、福祉を受ける人は給付金をもらったりなど、役場に行くことが多いですよね。ここのところがあんまり進んでいないのは問題だと思います。2007年に韓国に視察に行ったのは、そう思っていた時でしたが、そこでは日本より5年か10年くらい行政が進んでいると思って非常にびっくりしました。
―電子行政が進んでいたんですか。
そうです。例えば佐賀市で住民票を取ろうと思うと、入り口付近に自動交付機があって写し(コピー)がもらえますよね。日本はいくつかの自治体で、コンビニでも写しがもらえるようになってきていますが、韓国は街角のいろんなところ、例えばキオスクなどで手続きができました。それどころか、ネット環境があれば自宅にいても、海外にいても「写し」をプリントアウト出来る。
また「証明書」自体がいらないケースも多いです。日本の場合、役場でもらう「証明書」は多いですよね。そのもらった証明書をまた役場に提出する。役場で完結する話じゃないですか。わざわざ証明書などいらないはずなんですよ。韓国はそれを実践しているんです。
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―日本はなんでそんなに「証明書」主義なんでしょうか。
まず「証明書」はネットが普及する前の時代は、必要なものだったんですよ。その時代のシステムをまだ進化させてない、という現状なんだと思います。
―「紙」が大事ということではないんですね。
そうです、そうです。そこのところを検討できるようになったのが、今度の「マイナンバー法」なんですけどね。まだ法案通ってないんですが。
―「国民総背番号制」という名前の時代は、今よりも批判が多かったような印象があります。
そうですね、管理が優先のイメージでしたね。所得を管理するとか、そんなイメージ。国からすると、課税状況を正確に知ることは大事なことですし、実際に韓国は電子行政を導入して税収は上がっている。ただ、例えば低所得者に給付を行う場合に、正確な所得情報が知りたいという側面もあるんですけどね。
―日本が韓国のように出来ないのは何故でしょうか。
少なくとも技術の問題ではないと思いますね。韓国は自宅で証明書が取れると言いました。それにはコピーが出来ないような「すかし」があるんです。それは実は日本の技術なんです。だけど、日本には適用されない。社会が受け入れない限り、どんな優れた技術も使われないということです。私はせめて佐賀県だけでも便利にできないかなと思って「電子県庁(※)」の構築に取り組んだり、県内20市長と協力して「ICT推進機構」というのを作ったりもしてきました。県だけでやれるわけじゃないから、市町村の方と一緒になって実現しようと思ったんです。その一環の中で「自治体クラウド事業」にも取り組んできました。自治体クラウドは、我々のやりたいことが、国の実証事業に一致したので、国の予算で出来るならありがたい、と手を挙げて取り組みました。ただ、我々の狙いと国とは微妙に考え方の違いがありました。国が実現したかったのは業務の「コスト削減」が主ですが、我々がやりたいのはあくまで行政サービスの向上でした。※09年2月佐賀新聞記事など参照
高齢化が進むと役場に行くことさえ難しくなります。しかし現状は、タクシーでもバスでも使って役場に来いというシステムでしょう。しかも証明書の発行はお金がいくらかかかる。そこまでした揚げ句、自分は対象ではなかった、と知ることだってあるんです。これは現状が「待ちの行政」だから起こること。行政が、住民が申請してくれるのを待っている状態。しかし電子行政で制度と仕組みを進めれば「その人だけにお知らせ(=プッシュ)」ができます。つまり「プッシュ型行政」となって、この状況を打破できる。
佐賀の地上デジタル放送(地デジ)事情で言えば、国が佐賀県の非課税世帯にチューナーを無償給付しました。民生委員が中心となって地デジボランティア4000人に家庭訪問をしてもらって手続きの補助などをしたんです。もしこれが非課税世帯をソフトで抽出して、その家庭だけに民生委員さんを向かわせればよりスピーディーに、徹底できますよね。でもそれは地方税法違反になるんです。「非課税状態」という個人情報を、税を司る部局が別のセクションに教えることになりますからね。これが違反になってしまう。こんなことはいくらでも例がありますよ。30万世帯のうち1000世帯しか対象にならないのに、情報連携できないから全世帯にビラを配ったりする。無駄ですよね。
つまり韓国のように出来ないのは、けして技術の壁じゃないんです。法制度や仕事のやり方を変えない、意識の問題なんだと思います。韓国みたいなことはむしろ今の技術なら容易にやれると思います。
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志波幸男(しわ・ゆきお)1952年10月15日生まれ。佐賀市嘉瀬町出身。九州工業大学情報工学科卒。1980年に佐賀県庁に入庁し、2010年から統括本部副本部長。今回表彰された「全国都道府県情報管理主管課長会」会長としての活動のほか、「地上デジタル放送普及対策検討会」の会長も務め、地デジ化における佐賀県の難視聴区域、いわゆる地デジ難民の救済に尽力した。
20年進んでいないもの
―今回の受賞の理由に「昭和62年から情報化分野に携わり、特に平成19年度は全庁的・全県的な視点から行政情報化推進に尽力」とあります。主に自治体クラウド(※)の取り組みを指しているのですか。※2009年12月佐賀新聞記事など参考
それだけを指しているわけでもないですね。昭和62年に地域情報化の分野に配属され、ケーブルテレビなど地域の活性化の業務担当になりました。当時は先のことを見据えて、個人データを基に医療と福祉の連携や、教育と行政の連携などが盛んに言われていました。ITのことを、当時は「ニューメディア」とか「テレトピア構想」などの言葉で表していましたね。その後しばらく離れて平成19年に課長としてこの分野に戻ってきたんですが、すごく進んでいるものと、全然進んでいないものがあると思いました。
―詳しく教えてください
平成元年くらいに、NTTの携帯電話サービスが始まりました。その当時は、すごく大きな端末で、通話料金も高かった。端末も高価だったので、実際にはレンタルしてやっと使っていた。しかしそれから約20年、一気に技術が進んで一般の使用が広がりました。今は携帯電話を1人1人が持つ時代、若い人は固定電話を置かない人も出てきたでしょう。それからインターネットもすごく普及したと思います。いまやネット販売がデパートの売り上げを上回るようになっている。
ところが、20年前あれだけ言われていたITを駆使した医療と福祉の連携はどうか。医療機器などはもちろん進歩しているんですが、例えば、健康診断のデータを使って事前に予防する、という風にはなってないでしょう。行政サービスもあまり便利になっていませんね。相変わらず役場にいかないといけないし、証明書を受け取らないといけない。医療や教育、行政分野は全然進まなかったと言えるでしょう。
―進んだもの、進まなかったもの、何が違ったんでしょうか
競争原理が働くものが便利になってきたと思うんですよね。逆に、競争下にないものは以前からそんなに進んでいない、もっといえば行政が関わる部分が進んでいないんです。でも行政のIT化、電子化は高齢者や弱者にこそやはり必要なことだと思うんですよ。高齢者の人は健康保険証をもらったり、福祉を受ける人は給付金をもらったりなど、役場に行くことが多いですよね。ここのところがあんまり進んでいないのは問題だと思います。2007年に韓国に視察に行ったのは、そう思っていた時でしたが、そこでは日本より5年か10年くらい行政が進んでいると思って非常にびっくりしました。
―電子行政が進んでいたんですか。
そうです。例えば佐賀市で住民票を取ろうと思うと、入り口付近に自動交付機があって写し(コピー)がもらえますよね。日本はいくつかの自治体で、コンビニでも写しがもらえるようになってきていますが、韓国は街角のいろんなところ、例えばキオスクなどで手続きができました。それどころか、ネット環境があれば自宅にいても、海外にいても「写し」をプリントアウト出来る。
また「証明書」自体がいらないケースも多いです。日本の場合、役場でもらう「証明書」は多いですよね。そのもらった証明書をまた役場に提出する。役場で完結する話じゃないですか。わざわざ証明書などいらないはずなんですよ。韓国はそれを実践しているんです。
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日本の技術が日本で使われない
―日本はなんでそんなに「証明書」主義なんでしょうか。
まず「証明書」はネットが普及する前の時代は、必要なものだったんですよ。その時代のシステムをまだ進化させてない、という現状なんだと思います。
―「紙」が大事ということではないんですね。
そうです、そうです。そこのところを検討できるようになったのが、今度の「マイナンバー法」なんですけどね。まだ法案通ってないんですが。
―「国民総背番号制」という名前の時代は、今よりも批判が多かったような印象があります。
そうですね、管理が優先のイメージでしたね。所得を管理するとか、そんなイメージ。国からすると、課税状況を正確に知ることは大事なことですし、実際に韓国は電子行政を導入して税収は上がっている。ただ、例えば低所得者に給付を行う場合に、正確な所得情報が知りたいという側面もあるんですけどね。
―日本が韓国のように出来ないのは何故でしょうか。
少なくとも技術の問題ではないと思いますね。韓国は自宅で証明書が取れると言いました。それにはコピーが出来ないような「すかし」があるんです。それは実は日本の技術なんです。だけど、日本には適用されない。社会が受け入れない限り、どんな優れた技術も使われないということです。私はせめて佐賀県だけでも便利にできないかなと思って「電子県庁(※)」の構築に取り組んだり、県内20市長と協力して「ICT推進機構」というのを作ったりもしてきました。県だけでやれるわけじゃないから、市町村の方と一緒になって実現しようと思ったんです。その一環の中で「自治体クラウド事業」にも取り組んできました。自治体クラウドは、我々のやりたいことが、国の実証事業に一致したので、国の予算で出来るならありがたい、と手を挙げて取り組みました。ただ、我々の狙いと国とは微妙に考え方の違いがありました。国が実現したかったのは業務の「コスト削減」が主ですが、我々がやりたいのはあくまで行政サービスの向上でした。※09年2月佐賀新聞記事など参照
「プッシュ型」行政サービスとは
高齢化が進むと役場に行くことさえ難しくなります。しかし現状は、タクシーでもバスでも使って役場に来いというシステムでしょう。しかも証明書の発行はお金がいくらかかかる。そこまでした揚げ句、自分は対象ではなかった、と知ることだってあるんです。これは現状が「待ちの行政」だから起こること。行政が、住民が申請してくれるのを待っている状態。しかし電子行政で制度と仕組みを進めれば「その人だけにお知らせ(=プッシュ)」ができます。つまり「プッシュ型行政」となって、この状況を打破できる。
佐賀の地上デジタル放送(地デジ)事情で言えば、国が佐賀県の非課税世帯にチューナーを無償給付しました。民生委員が中心となって地デジボランティア4000人に家庭訪問をしてもらって手続きの補助などをしたんです。もしこれが非課税世帯をソフトで抽出して、その家庭だけに民生委員さんを向かわせればよりスピーディーに、徹底できますよね。でもそれは地方税法違反になるんです。「非課税状態」という個人情報を、税を司る部局が別のセクションに教えることになりますからね。これが違反になってしまう。こんなことはいくらでも例がありますよ。30万世帯のうち1000世帯しか対象にならないのに、情報連携できないから全世帯にビラを配ったりする。無駄ですよね。
つまり韓国のように出来ないのは、けして技術の壁じゃないんです。法制度や仕事のやり方を変えない、意識の問題なんだと思います。韓国みたいなことはむしろ今の技術なら容易にやれると思います。
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