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「半沢直樹」で大和田暁取締役は、なぜ”憎き敵役”から“恋する乙女”になったのか? - 田幸 和歌子

《少女漫画のヒロインにしか見えなくなってきた》
《嫉妬してるのかわいいなぁ~》
《ほっぺぶるぶるブルドッグみたいで可愛い》

【画像】大和田の熱い視線の先には半沢が……

 続編「半沢直樹」(TBS系)の放送中、SNSにはこうしたコメントが溢れている。どんな可憐な女優に向けられた言葉なのかと思いきや、対象となっているのは香川照之が演じる東京中央銀行の大和田暁取締役だ。


香川照之 ©getty

 2013年に放送された前作では、“正義の男”半沢直樹(堺雅人)が銀行内にはびこる不正を暴き、その首謀者・大和田暁常務(当時)に土下座させ、見事に勝利した。しかしそのラストシーンでは、関連会社である東京セントラル証券への出向が命じられるという意外な展開が描かれ、半沢の再びの“逆襲”が待たれる状態で、7年もの月日が経過した。

 そして、満を持して待望の続編が放映されたわけだが、今作はおじさんたちの “顔芸”が大幅増量。さながら歌舞伎のような様相を呈している。そのインパクトのある登場人物たちに“キャラ萌え”している視聴者も多く、《黒崎を演じる愛之助さんの歌舞伎顔芸、声の出し方が最高すぎて笑う》《大和田のシーンだけ巻き戻して何度も観ている》など、新しい楽しみ方を見出しているようだ。

 中でも毎回Twitterのトレンド入りを果たすのが、香川照之演じる「大和田」だ。原作「ロスジェネの逆襲」「銀翼のイカロス」には登場していないこともあり、登場シーンはあまり多くないにもかかわらず、注目度は異常に高い。しかもSNSには意外なほどに女性ファンのつぶやきが多く、その内容の多くが《大和田 可愛い》というものなのだ。こんなことは前作ではありえなかった。大和田はあくまで半沢の宿敵で、憎々しいキャラクターだった。

 それが、なぜいま大和田はここまで「可愛い」の声をほしいままにしているのだろうか。

「お、し、ま、い、DEATH!」

 まず、大和田の可愛さの源泉となっているのは、宿敵・半沢に対する特別な執着心だ。

 半沢と大和田の再会シーンが描かれたのは第2話。東京中央銀行の大階段でのすれ違いざま、東京セントラル証券から左遷されそうになっている半沢に、大和田が「何なら、私がなんとかしてあげようか」と持ち掛ける。しかし半沢は「自分の身は自分で守ります」とキッパリ拒否。そこで大和田は顔を半沢にギリギリまで近づけてこう言い放つ。

「ハイっ、残念でした。そんなものは守れませんっ。(中略)君はもうおしまいです。お、し、ま、い、DEATH!」

 このセリフの後、大和田は遠ざかったあとにわざわざ戻ってきて、首をかききる仕草まで加えた情熱的な絡みを見せた。ちなみに、この絡みは香川照之のアドリブだ。香川は「生放送!!半沢直樹の恩返し」(TBS系)で、「(土下座をさせられた)宿敵に会ったときに、何か言ってやろうと前の日から考えていた」と語っている。

 このシーンで、一部の視聴者は「オヤッ?」となったことだろう。「大和田ってこんなに人間臭いキャラクターだったっけ?」と。

 この後も大和田は、半沢に会うときにはいつも「待ってました」の顔をする。会っていない間も、おそらく頭の中は半沢のことでいっぱいなのだろう。前編から7年もの月日を経て濃厚に熟成された有り余る思いが、本人を目の前にして溢れ出す。その瞬間の大和田の表情に、視聴者はまるで恋心のような熱い想いを感じ取ってしまうのだ。

「死んでもヤだね~!」喜怒哀楽を剥き出しに

 大和田は前作ではもっと狡猾で残酷で嫌な敵役キャラクターだったが、続編では自身が目をかけていた伊佐山に裏切られるなど、哀愁を漂わせ、子供のように喜怒哀楽を剥き出しにし、その必死さゆえにコミカルささえ漂っている。

 第4話で、共闘を持ちかける半沢に対して、「お前なんかと、誰が手を組むか! 死んでもヤだね~!」と子どものケンカ状態で言い放ち、車で去っていった。かと思うと、自身を裏切った伊佐山への復讐心と、憎き宿敵・半沢と手を組む屈辱とを天秤にかけたうえで、車をバックさせて戻ってきて半沢に「お前の握ってるカギってのは何だ? 言ってみろ。それ次第で決めてやる」と歩み寄るのだ。

 政府に対する半沢の反抗的な態度を咎め、目をつけられたら銀行の終わりだと嘆いた後、下唇を思いきり噛みしめ、「銀行沈没!……頭取もチンヴォッッッツ!!!!」と叫んでみたり(第6話)、銀行員としての矜持から帝国航空の債権放棄に反対する半沢を必死に説得しながら「債権放棄は絶対だ! 絶対に、絶対です! です! です! DEATH!」と再びの「DEATH!」を炸裂させたりする(第7話)。

 第8話では、常務の紀本(段田安則)と箕部幹事長(柄本明)がつながる理由を探るため、大和田が第4話とは逆に半沢へ共闘を持ち掛ける。しかし半沢は大和田自身が以前やったことの報復として「お願いするときの大切な7文字は?」と言うのだ。大和田は「おねがいします」と発することに抵抗するあまり、目を潤ませ、唇をプルプル震わせ、口ごもりながら「お……おねしゃす!」というネット民のような言葉を放ち、すかさず半沢から「あと2文字足りませんが」と指摘される珍妙なやりとりを披露した。

 大の大人が、それも立場ある人間が、こんなにもみっともなく感情を剥き出しにする様は、日常ではなかなかお目にかかれない。普通は周りの目を気にして、平静を装うものだが、そんなことも気にならないほどに大和田の目には半沢しか映っていないのだろう。

嫌い合っていた2人が衝突を繰り返し……まるで恋物語

 この大和田の姿は、まさに“恋するツンデレ乙女”だ。

 第8話で半沢と共闘することになるのだが、そこでも大和田は「お前のためじゃない」とわざわざ釘を刺した。この言動は「別にアンタのために作ったんじゃないからね!」と明らかに用意してきた手作り弁当を、さも単なる余り物のように渡す少女漫画の主人公のようだ。

 「この世で一番お前が嫌いなんだよ!」と憎まれ口を叩くが、半沢のバンカーとしての資質は認めていることを語り、先述の「おねしゃす」のやり取りを経て、離れた距離から腕を真っすぐ伸ばして、ほんのちょっと拳が触れ合う“握手”をする。この展開は、最初は嫌い合っていた2人が衝突を繰り返すうちに恋愛関係になるという王道の恋物語のようだ。

“おじカワ”目線が浸透しスタンダードになった

 大和田は前作から7年の時を経て、最大の敵から味方になった。「ドラゴンボール」の孫悟空とベジータのようだとネット上で度々指摘されているように、少年漫画的な熱い展開だ。しかし半沢と大和田は「仲間」になってしまうのではなく変わらずに罵り合い、ときには敵か味方かわからない裏切りの予感も漂わせつつ、共通の目的に向かって進んでいく。この関係の不安定さ、ヤキモキ感は少年漫画というよりも少女漫画的だ。

 今作では“憎き敵”から“可愛いヒロイン”になった大和田。これは人情味が増したストーリーや、香川の進化した演技の賜物だろう。しかし、理由はそれだけではない。

 近年、ドラマ界では「おじさん=可愛い」という“おじカワ”“おじキュン”目線が長い時間をかけてジワジワと浸透し、ようやくスタンダードになったという背景があるのだ。

 数年前からドラマ全体のトレンドとして「おじさん」需要が高まっていた。きっかけは2012年に始まった「孤独のグルメ」(テレビ東京系)だろう。松重豊が演じる輸入雑貨商を営む井之頭五郎が食事を無心に食べるという一見すると地味なドラマだが、美味しいものに夢中になっている姿に癒された視聴者は多い。

 その後、テレビ東京で放送された松重のほかに故・大杉漣や遠藤憲一ら渋い名脇役者たちが出演した「バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~」(2017年)、2019年の「きのう何食べた?」、「コタキ兄弟と四苦八苦」、「デザイナー 渋井直人の休日」など、おじさんが主役の深夜ドラマは躍進を続けた。

コワモテおじさんのギャップを愛でることに慣れた

 実力ある「おじさん」俳優たちを主役に据え、ゴールデンやプライム枠ではできないグルメや趣味など、個の世界を描いてきたテレ東深夜枠。低予算であること、深夜で自由度が高いことを最大限に利用した「巧い役者の少数精鋭で作る」ドラマ作りが時代にマッチし、次々にバイプレイヤー俳優たちが主演のドラマが作られてきた。

 こうして、視聴者はB級グルメを夢中で食べていたり、カワイイモノを愛でていたり、幸せそうな表情を見せたりする「Vシネ・ヤクザ映画系」のコワモテおじさんたちのギャップを愛でることに慣れていったのだ。

 そして深夜ドラマでの密かなお楽しみになっていった“可愛いおじさん”は、社会現象ともなった「おっさんずラブ」(テレビ朝日系・2018年)で市民権を得る。この作品で、ピュアで普遍的な恋愛に身も心も投じるおじさんたちの魅力が一般的に広く浸透した。

 今年の春から夏にかけても、可愛いおじさんたちがたくさん登場している。「私の家政夫ナギサさん」(TBS系)の大森南朋や、「おじさんはカワイイモノがお好き。」(読売テレビ・日本テレビ系)の眞島秀和、「MIU404」(TBS系)のずん飯尾など、ほっこりかわいいおじさんたちに癒された。“おじカワ・おじキュン”はドラマゴールデン枠でも見られるようになったのだ。

可愛くないのに……大和田のおじカワは次のステージへ

 とはいえ、そういったおじさんキャラのなかで大和田は異色でもある。

「孤独のグルメ」の松重豊のように無害ではないし、「わたナギ」の大森南朋のように包容力があるわけでもないし、「おじさんはカワイイものがお好き。」の眞島秀和のようにゆるキャラを愛しているわけでもない。大和田は強欲で、計算高く、居丈高で、面倒くさい。分かりやすい可愛さがないのに、視聴者にはここまで可愛がられ、愛されている。

 大和田の可愛さは“おじカワ・おじキュン”文化の浸透によって発見されたことは間違いないだろう。しかしその愛でられ方は次のステージに移っているようだ。

(田幸 和歌子/Webオリジナル(特集班))

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