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ガムテープで顔面ぐるぐる巻き、ハンマーで頭部40回殴打……“名古屋闇サイト殺人事件”被害女性が「どうしても守りたかったもの」 映画『おかえり ただいま』が描く家族 #1 - 市川 はるひ

 2007年8月24日。夜も更けた23時過ぎ、名古屋市内で事件は起こった。駅から歩いて帰宅途中の女性(当時31歳)が、我が家まであと100mという場所で、3人の男に車で拉致・殺害され、最後には山中に遺棄された。世間を震撼させた「名古屋闇サイト殺人事件」。インターネットでのやり取りをきっかけに手を組んだ男3人が、金を奪う目的で通りすがりの女性・磯谷利恵さんを襲ったというあまりに有名な事件だ。(全2回の1回目/#2に続く)


連行される「名古屋闇サイト殺人事件」犯人の1人 ©️東海テレビ放送

◆◆◆

通りすがりの「真面目でおとなしそうなOL」を襲った3人組

 犯人である3人の男たちは、事件を起こす直前に知り合ったばかりだった。出会いの場は携帯電話サイト“闇の職業安定所”。

「刑務所から出てきたばかりで、派遣をやっています。実にばかばかしい。何か組んでやりませんか」という、犯人の1人、川岸の書き込みに反応した2人の男、堀と神田。「何か一発やりますか?」「以前は詐欺をしていたのですが、貧乏すぎて強盗でもしたい位です」。こうして3人の犯人たちは動き出した。

 すでに10年以上が経過し、当該のサイト“闇の職業安定所”はすでに閉鎖されているものの、犯罪の温床となる類似した闇サイトは現在も存在しているというから、同様の事件が明日起きる可能性もある。

 事件当夜、獲物となる人物を物色していた犯人たちは、真面目でおとなしそうな利恵さんに目をつけた。車を止め、道を尋ねるふりをして声を掛ける。

そして一瞬の隙を突いて利恵さんの口を塞ぎ、155センチと小柄な体を軽々と持ち上げミニバンに放り込み、あっという間に立ち去った。その間わずか1~2分。そして、その2時間ほどのちに、利恵さんは殺害される。

 この事件が衝撃的なのは、1つには犯人たちの証言をもとに明らかとなった、ハンマーを使ったという残忍な利恵さんへの暴行。そしてもう1つ、この恐怖の体験に対し、利恵さんが毅然と立ち向かったという事実だ。彼女には犯人たちの欲求に抗って、何としても守りたいものがあったのだ。

母親思いだった利恵さんの夢

 車に監禁、屈強な男たち3人に囲まれ、財布を奪われた利恵さんは「キャッシュカードの暗証番号を教えろ」と安物の包丁を突きつけられて脅された。利恵さんの膝はガクガクと震え、強姦をほのめかされた際には、交際中の彼を思い必死に抵抗した。

 もちろん利恵さんは犯人に「殺さないで」と訴え、生きようとした。しかし、取り上げられたキャッシュカードの本当の暗証番号を教えることなく、代わりにウソの暗証番号を伝えることで、利恵さんは「憎むわ(2960)」というダイイングメッセージを残す。

 結果、働いてコツコツと貯めた利恵さんの預金は、犯人たちに奪われることはなかった。

 その預金額は800万円あまり。犯人たちが小躍りしたというだけあって大きい額であるが、彼女にとってこの預金にはそれ以上に大きな意味があった。「お母さんに家を買って、プレゼントしてあげたい」……それが、明るく生真面目な31歳、利恵さんの夢だったのだ。

 しかし、利恵さんの夢は無残にも打ち砕かれる。ステンレス製の手錠をはめられ、脅され続けた利恵さんの告げた暗証番号を、犯人たちは疑いもしなかった。3人は利恵さんの頭にレジ袋をかぶせ、ガムテープで顔をぐるぐる巻きにした。

 首を締めたうえ、さらに利恵さんの頭部や顔面に力を込め、鉄のハンマーを何度も何度も繰り返し振り下ろす。それでも利恵さんは生きていた。「なかなか死なねえな」焦る犯人たち。

 やがて利恵さんの右足が痙攣しているのを確認すると「よかった、もうすぐ死にますね」「お疲れ様」という会話がされたという。利恵さんの死因は、窒息死だった。40回も振り下ろされたハンマーの痛みに、生きて耐え抜いたのだ。息をひきとる際には、どんなに苦しく無念だったことだろう。

「名古屋闇サイト殺人事件」の映画化『おかえり ただいま』

 この「名古屋闇サイト殺人事件」が映画化され公開となる。惨殺された利恵さんの母親は事件直後、街頭で涙の訴えによって「3人の犯人の死刑を望む」という署名を集め、裁判に臨んだ。そんな母の姿を追った2009年放送のドキュメンタリーに、斉藤由貴、佐津川愛美らが出演するドラマ部分を加え、再編集されている。

 本作の監督は、東海テレビ東京編成部長の齊藤潤一氏。齊藤監督は、今まで東海テレビのディレクターとして、数々の「司法シリーズ」ドキュメンタリー番組を作ってきた。本作の公開に先立って話をうかがった。

ーー事件当時(2007年8月24日)監督ご自身は何をしていましたか?

「『光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~』という殺人事件のドキュメンタリー番組を撮っていました。犯人の弁護団側を取材する内容だったので、放送後『東海テレビは被害者遺族の気持ちがわかっているのか!』とお叱りのメールや電話をいっぱいいただいたんです。それで『今度は被害者遺族の番組を作ろう』ということになり“名古屋闇サイト殺人事件”の磯谷さん(利恵さんの母)の取材に向かいました。磯谷さんが、犯人の死刑を求める署名を集めているところで、まだ裁判が始まる前でした」

母娘の間にあったドラマ、そして家族の大切さも描きたかった

ーー本作の制作にあたって、監督自身が涙を禁じ得ない場面はありましたか?

「やっぱり利恵さんが拉致をされて、犯人から『暗証番号を言え』と言われるなか、お母さんのためのお家を建ててあげるためにコツコツ貯めたお金を守ろうとニセの暗証番号を言った、という事実。物語を佐津川愛美さんが演じています。一番今回描きたかった部分ですね」

ーーどのような作品に仕上がっていますか?

「東海地方では『名古屋闇サイト殺人事件』というのは、とても大きな事件なんです。この事件を通して、今回は家族をテーマに、利恵さんとお母さんの間にあったドラマ、そして家族の大切さも描きたかった。

『おかえり ただいま』というタイトルにしましたけど、加害者も家庭でそんな会話があったなら事件は起きなかったかもしれないと思っています。長いこと報道の記者をしてきたものですから……いろんな殺人事件で加害者側の生い立ちを取材すると、社会的弱者が圧倒的に多いんです」

◆◆◆

 本作のドキュメンタリー部分では、加害者側の父親にも粘り強く取材を試みた様子が収録されている。凶悪事件の加害者となった息子について、父親は記者にどのように語ったのか? そして被害者母娘、富美子さんと利恵さんの親子関係はどんなものだったのか?

 「名古屋闇サイト殺人事件」被害者側から、そして加害者側からも感じる「家族」とは。痛ましく、胸に迫る劇場版『おかえり ただいま』は9月19日公開。

【続きを読む】「『いつか遺族に寄りそった作品でお詫びしたかった』名古屋闇サイト殺人事件・ドキュメンタリー監督の“心残り”」

INFORMATION

『おかえり ただいま』映画情報
2020年9月19日より、ポレポレ東中野にてロードショー、ほか全国順次公開
出演:斉藤由貴 佐津川愛美 
   浅田美代子 大空眞弓 須賀健太
   天野鎮雄 矢崎由紗 ほか
監督・脚本:齊藤潤一 プロデューサー:阿武野勝彦
製作・著作・配給:東海テレビ放送 配給協力:東風
https://www.okaeri-tadaima.jp
©️東海テレビ放送

「いつか遺族に寄りそった作品でお詫びしたかった」名古屋闇サイト殺人事件・ドキュメンタリー監督の“心残り” へ続く

(市川 はるひ)

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