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誰にも頼らず生きていける社会は幻想でしかなかった -「賢人論。」121回(中編)近内悠太氏

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「誰にも頼らず1人で生きていけるのが責任ある大人だ」という考えが一般的である中で、「東日本大震災やコロナ禍によって、それまでの常識が崩壊した世の中では、もはやそんなふうには生きられない」と語る近内悠太氏(教育者・哲学研究者)。では、まったく先行きの見えないこの時代を生き抜くにはどうすればいいのか。「他力」と「弱さ」というキーワードを基に話を伺った。

取材・文/木村光一 撮影/荻山拓也

「自己責任」を求めていたのは私たちではなく市場経済

みんなの介護 誰にも迷惑をかけずに生きようとする態度を取り続けることが“大人”としての常識となっているわけですが、近内さんはそんな生き方に疑問を呈していますね(『世界は贈与でできている』第2章 ギブ&テイクの限界点より)。近内さんが考える生き方について教えてください。

近内 まず“自分のことはすべて自分でやらなければならない世界”とは、言い換えれば“誰からも頼りにされない世界”のことです。僕らはこの数十年、そんな状態を「自由」と呼んできたわけです。

確かに、頼りにされるというのはときに面倒くさくて、僕らはそれを「しがらみ」や「依存」と呼んで、できる限り身の周りから排除してきました。その代わり、資本主義には、ありとあらゆるものを「商品」へと変えようとする指向性がありますから、それまで誰かに与えてもらっていたものも商品化され、それらをすべて自前で買わなければならなくなってしまった。何もかもが経済に取り込まれてしまったんです。

そして、生きていくために必要なものを1人ですべて整えることができる人は、市場経済にとって最も好都合であり、誰もがそういう人間になることを目指せば益々経済も発展すると、みんながそう信じていました。

しかし、2000年を過ぎたあたりから「もしかして、それって無理なんじゃないの」と疑問を抱く人が徐々に増え始めたように思います。そして2011年3月に東日本大震災が発生。その被害からの復興もままならないうちに、今コロナ禍によって世界全体が壊滅的ダメージを受け、多くの人々が自力だけでは生きていけない状況になってしまった。誰にも頼らず生きていける社会というのは幻想でしかなかったんです。

親鸞が説く自力では救われない人間の弱さ

近内 少し前、あるオンライン読書会に著者として参加した際、「近内さんの考える世界最大の贈与者とは誰ですか?」という質問を受けました。そのとき、ふと、親鸞(しんらん)のイメージが頭をよぎり、咄嗟にそう答えていました。

今の世の中、みんな自力で生きていると思っていますよね。でも、親鸞は人間というのは正しくも賢くも強くもない存在で、「自力では救われない」「救いには他力が必要」と説いている。僕はそれまで意識していなかったのですが、最近は「もしかすると、本に書いた『贈与」の考え方もそれに通底していたのではないか』と、そんな思いを強くしてるんです。

人間は弱くて嫉妬深くて意地らしいものだと思っています。親鸞はそういう情けない人間でさえもちゃんと救われると言っている。そういう人間観にとても惹かれるというか、共感を覚えるんですよ。

ただ、自力だけで生きていけないとわかっていても、昔みたいな共同体の生活に戻ることは難しいでしょう。現時点で享受している自由気ままな生活は手放せないし、古き良きサザエさん的なご近所付き合いというのも、個人的にちょっと無理だと思うんです。

みんなの介護 コロナ禍で物理的な人との距離感だけでなく、人付き合いのあり方も変わってしまいましたね。

近内 人と人がつながらない理由ができたわけですが、僕はむしろ、「何があってもこの人とは会いたい」という強い思いや、人と会うことに対する覚悟もはっきり自覚するようになりました。ただし、会うにしても会わないにしても、その都度、それなりの決意を持って日々決定を下しながらの生活というのも息苦しいとは感じてますが。

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