記事

「半沢直樹」と海外人気ドラマに共通するヒット要因 フォーマットが生む決定的な違いも

2/2

決め台詞のわかりやすさが求められる日本のドラマ

日本の人気ドラマと海外ドラマ、それぞれのヒットの要因や意外な共通点が見られたところで、逆にこれらのヒットドラマ間で、どのような違いが見られるだろうか。

最も大きな違いはそれぞれのフォーマットだろう。アメリカやヨーロッパなど海外のドラマは時に5シーズン以上にもなる複数シーズンの構成が前提になっており、ゆえに展開のスピードは遅めで、キャラクターの心情をじっくりと描く傾向にある。日本のテレビドラマの場合は、1クールという限られた期間の中でまとめ、視聴率の結果を残さなければならず、『半沢直樹』にも見られる決め台詞のようなわかりやすいギミックが用いられるのは、必然かも知れない。

また配信では、1シーズンの全エピソードを一度に公開するという新しい常識が生まれたことによって、いわゆる「イッキ見」も想定された作りとなり、当然エピソード中にCMが入ることもない。一方のテレビドラマの場合は、数十分おきに入るCMを挟んで視聴者をつなぎとめておくため、「クリフハンガー」や伏線とその回収が多くなる。このことは各話のクライマックスや緩急のつけ方に大きな影響を与えるし、配信のドラマでは、CMを考慮しないためにまるで映画のような息の長いシーンを作ることも可能になる。

心情をじっくり描く海外、出来事で展開する日本

こういったフォーマットや構成など、いわゆる「外枠」的な違いから生じる内容面の違いも、決して小さくない。まずキャラクターの扱い方である。海外ドラマでは、何シーズンにもわたってキャラクターを追い続けるため、彼らの心理をじっくりと描くことができ、必然的に彼らの心情に基づいた話の展開になる。ハリウッドではこれを「キャラクタードリブン」なストーリーと呼ぶが、海外ドラマでは、シーズンの最初と最後でキャラクターたちがどう変わったのかが明確に描かれる傾向にある。

その最たるものが大人気ドラマ『ブレイキング・バッド』で、ガンを患った冴えない高校教師から、極悪な麻薬王へと変貌する主人公ウォルター・ホワイトだ。またスペインの上流階級を舞台にしたドラマ『エリート』でも、金持ちの令息たちが通うエリート校に労働者階級の生徒たちが入学したことで、プライドや名誉、恋愛を巡って大きく変わっていく若者たちが描かれる。

Getty Images

一方、日本のテレビドラマでは職場での事件や不倫など、具体的な出来事に重きを置いた作品が多く作られる傾向にある。こういった作品は上の「キャラクタードリブン」に対して「プロットドリブン」と呼ばれるが、『半沢直樹』の場合も、案件を任される、突然金融庁の立ち入り検査が入る、情報がリークされる、といった出来事を起点にストーリーが前へ転がり、半沢というキャラクターは最後までブレることはなく、変わらない。

ヒット作に求められるこれらの違いは、日本と欧米の社会の違いが大きく関係している。アメリカでは特に、すでに述べた「Zeitgeist」を求める結果として、人種的マイノリティやLGBTQを扱うドラマが多い。一方の日本のように人々が多かれ少なかれ同様の価値観を共有し、同質性が高い社会においては、マイノリティをめぐるドラマよりも職場や医療現場などでの出来事を通じて、人々の共通認識を外れた時に生まれるストーリーの作品が作られるようになる。近年で大きく人気が出た『リーガルハイ』『逃げるは恥だが役に立つ』『家政婦のミタ』『おっさんずラブ』などのテレビドラマも、そういった見方ができるだろう。

テレビと配信 フォーマットが生み出す決定的な違い

しかし内容面での最も大きな違いは、「テレビドラマ」と「配信」という括りに起因した表現の違いではないだろうか。日本のテレビドラマ、しかも19時から23時までのプライムタイムに放送されるタイトルは、内容的にも幅広いオーディエンスが楽しめる必要があり、当然それを想定した表現になる。『半沢直樹』は当初中年男性がメインターゲットに想定されていたようだが、小学生たちが見て問題のあるような過激な描写は何もない。

一方の配信やケーブル局の海外ドラマは、表現上の規制が地上波ほど厳しくはない。アメリカのドラマにはセックス・ドラッグ・バイオレンスの3つが欠かせないと言われたりもするが、ここ数年で最も人気のあったシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』でもその例に漏れず、過激な暴力シーンや濃厚な性的描写が頻出する。これらはプライムタイムの地上波ではとても放送できないものばかりだ。そういった際どい描写を用いない分、『半沢直樹』では役者のアップを多用したカメラワークなど、ストーリーだけでなく視覚的にも淡白にならないような仕掛けがある。

日米のドラマは今後どこへ向かうのか

さて、ここまで日本と海外ドラマのヒットの要因や違いなどを掘り下げたが、欧米でヒット作になることが多い一方、日本のテレビドラマではほとんど見られないジャンルがあることにお気づきだろうか。それは大規模なSFものとファンタジーである。『ゲーム・オブ・スローンズ』や『ストレンジャー・シングス 未知の世界』、それにドイツの『ダーク』は皆大ヒットしているし、またAmazonでは『ロード・オブ・ザ・リング』ドラマシリーズ化の製作が進行中である。

Getty Images

ドラマ一本にかけられる予算の差はもちろんあるが、莫大な制作費がかかるため、海外のスタジオもこういった大きな作品を何本も作っているわけではない。これらはいわば各スタジオのフラッグシップ的な位置付けであり、1クールだけで元を取ることは想定されていない。そう考えると、そもそもの1クール完結型のフォーマットを脱しない限り、配信やケーブル局のドラマと、日本のプライムタイムのドラマが近づくということは起きにくいだろう。

制作体制へと目を向けると、アメリカでは複数の脚本家がチームとしてシリーズの脚本を作る「ライターズルーム」システムをとることが多い。そのチームを取りまとめる責任者はショーランナーと呼ばれ、映画で大きな権限を持つ監督やプロデューサーのように、ドラマシリーズではそのショーランナーが、作品の方向性に対して大きな発言権を持つことになるのである。一人の脚本家がクレジットされているだけの日本のドラマとは大きく違い、これはシリーズを疲弊させずに、複数シーズン続けるための一つの方法と言えるだろう。

ネットフリックスで2019年に配信が開始されたドラマ『全裸監督』は、複数の脚本家がクレジットされているが、ライターズルームに近い体制で書かれたのではないかと想像がつく。本作はシーズン2が2021年に配信予定とすでに発表されているが、全編日本語のドラマでありながら、こういったことができるのはグローバル配信プラットフォームであるネットフリックスならではである。英語以外のドラマも勢いを増している現在、配信とうまく手を組むことで全世界向けに日本発の大規模なSFやファンタジー作品が生まれる可能性もあるだろう。

ここでは前回同様に大ヒットし続けている『半沢直樹』と、日本で急激に存在感を増した配信プラットフォームでの海外ドラマの意外な共通点に驚きつつ、アメリカと日本における制作体制の違いや、それを取り巻く事情にも触れた。海外ドラマファンと日本のテレビドラマのファン層が、近年のテレビドラマを代表する『半沢直樹』と海外ドラマのヒット作品を通じて、それぞれ互いの魅力を楽しむきっかけになれば幸いである。

あわせて読みたい

「半沢直樹」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    コロナにビビリすぎ GoTo楽しめ

    毒蝮三太夫

  2. 2

    マイナンバーの普及を妨げる元凶

    Chikirin

  3. 3

    杉田水脈氏の問題発言 目的考察

    猪野 亨

  4. 4

    文在寅氏辞任で日韓関係は改善か

    PRESIDENT Online

  5. 5

    在宅の社員をオフィスに戻す方法

    鎌田 傳

  6. 6

    コロナで露呈 地方の賃貸不足

    中川寛子

  7. 7

    紗倉まな 性産業廃止は「暴論」

    ABEMA TIMES

  8. 8

    第3のビール値上がり 政府に怒り

    田中龍作

  9. 9

    コロナで無視できなくなったMMT

    自由人

  10. 10

    韓国20代男性の6割「女性憎い」

    PRESIDENT Online

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。