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「菅義偉さん、やっぱりあなたは間違っている」…“左遷”された総務省元局長が実名告発【全文公開】- 森 功

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 河野自身に会うと、やはり口が重い。

「たしかにいろいろありましたけど、もう引退したから、何も言いません。現役に迷惑をかけてもいけないから」

 ふるさと納税はまさに大臣の看板政策として08年にスタートした。が、しばらくはさっぱり振るわなかった。皮肉にも寄付が増え始めたきっかけが11年の東日本大震災だ。震災復興支援の地元産品に人気が出て、そこに便乗した全国の自治体が高額返礼品をPRし始めた。すると、10年に67億円だった寄付金総額が、一挙に650億円近くに跳ね上がったのである。

「欠陥だらけの税制だ」の声

 そして12年12月に第二次安倍政権で官房長官に立場を替えた菅が、それを見てもっと寄付を増やそうとした。そのための方策の一つが寄付控除の上限倍増だったのだ。平嶋は言う。

「第二次安倍政権発足当初は消費増税問題に追われ、手を付けられなかったが、2年目の14年に入り、私が税務局長になる前に、『さすがに今年はやれよ』ときつくおっしゃってこられた。このときすでに米、牛肉、カニの3点セット、どれがお得か、なんて調子で高額返礼品が騒がれ、われわれも対策を検討していた。そこへ控除の限度枠を2倍にしろという。そんなことを指示するのは、政権の中でも菅さんだけでした」

 まるで5万円の高級和牛を2000円で買うネット通販のような感覚で一挙に広まったふるさと納税については、霞が関の官僚でなくとも、少しばかり税制をかじった者なら、「欠陥だらけの税制だ」と口をそろえる。それをあと押ししたのが、菅の提案した寄付控除の上限倍増とワンストップ特例の導入である。

 住民税の1割を上限とした従来の控除枠が、15年度に2割に引き上げられた。結果、上限をざっと計算すると、課税所得200万円で5万円、1000万円なら35万円、1500万円だと53万円といった塩梅になる。ワンストップ特例により、確定申告も不要となった。仮に年収2000万円の納税者が100万円寄付すれば、2000円を除く99万8000円の税金が、高額返礼品付きで戻ってくる。

「ある本」を持って直談判

「菅さんには、14年の春先からずっと『高額所得者による返礼品目当てのふるさと納税は問題です。法令上の規制を導入すべきです』と説明してきました。当時総務大臣だった高市(早苗)さんにも断って、そう申し上げてきました。でも菅さんはそれどころか、控除を2倍にしろという。それでこの年の11月になって、これを読めば、さすがの菅さんでもわかってもらえるだろうと、ある本のコピーを持って直談判したんです」

 平嶋の言う「ある本」とは、「100%得をする ふるさと納税生活」(扶桑社刊・金森重樹著)である。

「本には、〈僕の場合は年額600万円までふるさと納税してもいい〉と書いてある。おそらくこの著者は1億円以上の超高額納税者で、ふるさと納税の上限600万円を寄付すればそっくり税金が還付される。そこには〈599万8000円の全国お取り寄せグルメが取り放題「これ、まじで生活できちゃうじゃないか……」〉とまで書いてあるのです。やらなきゃ損と。これを見れば、さすがに菅さんも考えてくれるだろうと思ったわけです」

「俺の意図に応えてくれ」

 平嶋が、本のコピーを広げながら言葉に力をこめる。

「私としては、『国民に消費税の引き上げをお願いしておきながら、逆に高額納税者の節税対策みたいな枠を広げるつもりですか?』という気持ちでした。実際、それに近いことを口走ってしまいました。でも菅さんは『俺の意図に応えてくれ、本当に地元に貢献したいと寄付してくれる人を俺は何人も知ってる。こんな奴ばかりじゃない』というばかりなのです。もうこれは駄目だなと思いました」

 菅は平嶋の助言に耳を傾けようとしなかった。

「私の提案はすべて却下されたので、やむなく本のコピーをレク資料としてクリアファイルに入れ、置いて帰りました。そうすれば読んでくれるかなと思ったけど、甘かった。すぐに内閣官房の職員がコピーを返しに来ました。それだけでなく、当時の大石(利雄)次官から電話がかかってくるし、前の岡崎(浩巳)次官まで私のところに飛んできた。『気持ちは分かるが、お前だけの問題じゃなくなるから矛を収めろ』と宥めるのです」

 やむなく控除の上限倍増とワンストップ特例の両方を呑んだ。だがそれでも、菅の怒りは収まらない。

「最後に怒られたのがワンストップ特例の件でした。『ちょっと時間がかかりますけど、マイナンバーを使ってやらせていただきたいんです』と申し上げたら、『時間がかかる? 駄目だ。すぐにやれ』と怒鳴られてしまいました。ここまで来ると、覚悟しました。こんなに逆らう奴を放置すれば沽券にかかわる、という空気がヒシヒシと伝わってきていましたから」

 平嶋はそのあと、官房長官執務室に出向いた。それが、冒頭の14年12月5日の場面だ。奇しくもその3日前の2日に衆院選が公示。選挙モードの菅は平嶋の態度に怒りを増幅させた。

高市大臣から「謝りに行っておいでよ」

「年が明けると、高市総務大臣が『年末に官房長官と何があったのよ。謝りに行っておいでよ』と心配してくれました。でも、許してもらえる空気ではありませんし、なによりそこまでしたくない。そして、夏の人事で自治税務局長から自治大学校長に異動になりました。かなり異例の人事なので、挨拶に行った先々でOBや先輩たちから『本当は(自治)行政局長になるはずだったのに』といわれました。同じ局長でも指定職三級と四級の違いで、行政局長就任だと昇格になる。真相はわかりませんが、人事案を見た菅さんが私に昇格印が付いているのを嫌がったんだ、と……」

 一方、総務大臣だった高市からは、こう言われたと明かす。

「自治大学校長になる辞令交付式の際、皆の前で高市大臣からは『はよ、戻ってきいや』と関西弁で励まされました。そのあと『あんたからもらった資料をお守り代わりに持っている』とメールまでいただいた。結局、役所に戻ることはありませんでしたが、悔いはありません。ただ、ふるさと納税に携わってきた役人として、何があったのか、そこだけは明らかにしておく義務がある。今もそう思っています」

 当の官房長官は平嶋の人事について「法令に従い適材適所でおこなわれていると承知しています」と答えるのみだ。そこに立ち向かったいまどき珍しい官僚の意地を見た気がした。

(文中敬称略)

(森 功/週刊文春 2020年1月2・9日号)

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