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菅氏の「自助・共助・公助」はおかしい

自民党新総裁に就任した菅義偉氏が「まず自分でできることはまず自分でやる。自分でできなくなったらまずは家族とか地域で支えてもらう。そしてそれでもダメであればそれは必ず国が責任を持って守ってくれる。そうした信頼のある国づくりというものを行なっていきたいと思います」と言ったことが議論を呼んでいる。

この発言に関しては、2010年自民党綱領の2.(3)に「自助自立する個人を尊重し、その条件を整えるとともに、共助・公助する仕組を充実する」と書いてあるので、菅氏独自の意見というより党の意見だという人もいる。しかし、この文言では、自助・共助・公助の優先順位明確ではない。当時の谷垣禎一自民党総裁はこの部分に関して、党の綱領解説において「自助・自立を基本としながら、困っている人がいればお互いに助け合う共助の精神を大切にし、さらには国が力強く支える公助があるという、私の考える「絆」の政治、「おおらかな保守主義」と通ずるものでもあります」と述べており、彼の発言からは、自民党は自助が基本だと考えていることが分かるが、共助と公助の間の優先順位は明確とまでは言えない。

菅氏の今回の発言は、自助←共助←公助と優先順位が明確なので、これは党の意見というより菅氏独自の意見といった方が適切だ。そしてこの順番が意味するのは、出来るだけ政府の関与を少ないことが望ましいということである。

一件、出来るだけ政府の関与を少なくしようと目指しているのは、経済的には小さな政府を目指す保守政党の党首としてはあるべき姿を示しているように思える(もちろん私はそれとは反対の立場だが)。しかし、まず引っかかるのが、個人が解決できなかった場合、家族と地域が助けるべきで、政府が助けるのは最後にするべきだと言っている点である。

仮に、コロナ禍の不況で失業した状況に当てはめると、彼が目指す社会像は次のようになる。「まず、自分で再就職口を見つけなさい、それでも駄目な場合は親など家族に助けてもらいなさい、それでも駄目な場合は政府が面倒見ましょう」という政府の姿勢が望ましいと認識されている社会である。何故、失業した人間に対して、政府ではなく家族や地域の人々が先に支援を行わなければならいのであろうか? 人々は政府に対して税金を払っているのに、なぜ政府が最後に支援すべきなのか妥当性に欠くと言わざるを得ない。公平に見ても共助と公助の順序付けは不要である。

さらに言えば、そもそも、政府がイニシアチブを取ってあらかじめ金銭面も含めて面倒を見た方が、個人任せにするよりも良い結果をもたらすケースも少なからずあるだろう。コロナ対策についても、意地悪な見方をすれば菅氏が「自分たちでやりなさい、あなたたちがいい加減なせいで感染が広がってどうしようもなくなった場合、政府が助けてあげましょう」と考えているようにも解釈できなくない。私は、緊急事態宣言解除後の感染者拡大は政府の放置・無策によるもの以外何物でもないと考えるが、菅氏は自身が官房長官を務めた政府の責任を否定していると思われるので、なおさら「彼の目指す社会像」に違和感を覚えざるを得ない。政府が問題となった業種に対して迅速に休業要請(特措法改正が必要になるができれば命令)と補償を行い、飲食店等に対して徹底した感染拡大防止策を要請していたら、失われなかった命は多かったはずだ。

(自分にも降りかかってくる可能性があるのを承知で言うが)こういう語呂合わせみたいなキャッチフレーズは、注意しないとその中に矛盾があったり、論理的妥当性を欠くものがあったりするので、気軽に使うべきではない。もちろん、これは菅氏だけの話ではない。

民主党政権時代の「地域主権」もそうだ。「地域」自体が何を指しているのかそもそも不明確だが、少なくとも一つ以上の地方自治体が含まれているが、国全体ではない領域だと考えるのが自然であろう。その場合、「地域」には主権はない。主権は国家にある。なので、「地域主権」という概念は矛盾を内包している概念だ。地域のことは地域の住民が決定すべきだということらしいが、これも、自助・共助・公助のように、「基礎的自治体できる行政分野は基礎的自治体が担当してその自治体の住民がそれらに関する意思決定を行い、それでもできないことは広域地方政府たる都道府県が担当し、それでもできないことは国が担当することを目指すもの」だったと私は記憶している。

当時、私は民主党に在籍していたので、「地域主権」という言葉に違和感を覚えながら、上記のように解釈した概念を「地域主権というのだと思います」と有権者に説明を行っていた。しかし今考えると、その概念が目指すもの自体が妥当性を欠くものだったと感じ反省している。国―広域地方政府―基礎的自治体(市町村)は、それぞれ、担当するのがベストである行政分野を担当すべきであって、基礎的自治体が担当できる行政分野でも広域自治体が担当する方が効率的な分野がいくつもあるはずである。経済学的に考えればそのような行政分野をわざわざ基礎的自治体に担当させるべきではない。

菅氏の「自助・共助・公助」も「地域主権」と同じくらい薄っぺらいものなのかもしれないが、(私自身も含めてであるが)一般論として、耳触りの良さだけを追い求め良く考えずに適当なことをいうと後で非難を浴びることになるだろう。

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