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エッセンシャルワーカーに払うべきは「敬意」ではなく「見合った対価」-「賢人論。」121回(前編)近内悠太氏

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コロナ禍によってリセットされた社会を回復させるのは、“見返りを求めない「贈与」のシステムである”と説いた哲学書『世界は贈与でできている』(NewsPicksパブリッシング)が反響を呼んでいる。著者で教育者・哲学研究者の近内悠太氏に、「生きる意味」や「仕事のやりがい」、「大切な人との関係性」といった、金銭的価値に還元できない大切なものをどうすれば手にすることができるのか。「贈与」の仕組みと、コロナ禍におけるエッセンシャルワーカーについて語っていただいた。

取材・文/木村光一 撮影/荻山拓也

「贈与」とは手渡されたときにお礼を言いたくなってしまうもののすべて

みんなの介護 近内さんのデビュー作『世界は贈与でできている』が発売されたのは今年3月。「コロナ後の世界の生き方を予言した書」と評されて話題となりました。執筆時点でコロナ禍は始まっていませんでしたが、何か予感めいたものがあったのでしょうか。

近内 本当のことを言うと、僕はこの本を3.11東日本大震災に対する自分なりの解答のつもりで書いたんです。小松左京さんのSF小説『復活の日』をモチーフの1つとして、まず、一見安定しているように見える僕たちの社会は、あるパズルのピースが欠けただけでいとも簡単に崩れてしまう「不安定性」のうえに成り立っているのだということを説明するつもりでした。ところが、出版のタイミングが緊急事態宣言と重なり、あたかもコロナ禍を予言していたかのような形になった。この偶然に僕自身、驚きました。

みんなの介護 哲学書というと通常は難解なのが当たり前なのですが、近内さんの語り口はとてもわかりやすく、物語のように楽しく読み切ることができました。本の中で印象に残ったいくつかのキーワードを切り口に解説をお願いしたいと思っています。まず「贈与=お金で買えないもの」という説明がありましたが、詳しく教えていただけますか。

近内 「贈与=お金で買えないもの」という定義は、文化人類学や哲学の見地からすると少々飛躍しています。ただ、「贈与」という言葉にまつわる一般的なイメージと、ここで言う「贈与」が異なる意味であることを明確に提示するために、あえて「お金で買えないもの」と表現しました。本を書き終えてからは、さらに理解しやすくするために「贈与=手渡されたときにお礼を言いたくなってしまうもののすべて」と説明しています。

いずれにせよ、受け取ってもすぐに対価を払わせてもらえず、「どうしたらこの“ありがとう”を伝えられるのだろう」という思いが受け取り手の「負い目」となって残ってしまう点は同じです。一瞬で完結する金銭とモノの「交換」とはそこが大きく違っていて、伝えられずにいたその感謝の念を行為として他の誰かに手渡す=「贈与」することによってのみ「負い目」は解消されます。

そして手渡された人はまたしても「負い目」を抱き、次の誰かに行為として感謝の念を伝える。こんなふうに連鎖していくのが「贈与」の大まかなイメージです。

資本主義社会の中でも相手に行為の見返りを求めない「贈与」

みんなの介護 資本主義社会における人間関係の大半は経済活動が伴っているように思います。金銭を媒介させない「贈与」の成立はとても難しいのではないでしょうか。

近内 市場経済における金銭を介した商取引=「交換」では売り手と買い手は横並びです。需要と供給のバランスによって立場の強さは変化しますが、基本的に対等の関係になります。そして、受け取ったからには必ず対価を支払わなければなりません。

「交換」の相手は対価さえちゃんと払えるのなら誰であってもかまわず、商品と金銭の「交換」という行為は瞬時に終わります。支払いまで時間差があるケースもありますが、その場合は金利がついて価格に上乗せされる。時間も金銭に置き換えられて「交換」されるわけです。

反対に「贈与」は一方的な行為で、しかも“差出人”と“受取人”は縦の関係にあって階層差があります。対等ではないんです。しかも、“受取人”は受け取ったことにそのときは気づいておらず、“差出人”もそれとは気づかせない。一番わかりやすい例がサンタクロースです。親がサンタクロースだったと気づいたとき、すでに子どもはたくさんのプレゼントを受け取っています。でも、それに気づいたからといって、親は子どもにお返しを要求したりはしません。

子どもは本当の“差出人”に気づかずに何年か過ごしていたからこそ、お返しのことなど考えず、純粋にプレゼントを受け取ることができていた。親が名乗らずにサンタクロースを演じ続けていたため、その間、親と子の間で「贈与」が成立していたわけです。

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