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アングル:手作り人形に込めた文楽への思い、コロナ禍の不安癒す


藤田淳子

[大阪 11日 ロイター] - この春、文楽の人形遣いの第一人者の1人として知られる桐竹勘十郎さん(67)を不安が襲った。新型コロナウイルス感染拡大防止のために文楽の公演が全て中止になってしまったからだ。自宅で過ごす日々が続く。この状況がいつまで続くのか、公演は再開するのか、親子のような絆で結ばれている87歳の師匠はまた舞台に立てるのか──。普段は前向きな勘十郎さんだが、心配が尽きなかった。

日本の伝統芸能で、浄瑠璃と人形劇が合わさった文楽は、17世紀に大阪で成立したとされる。その文楽の公演がなくなる異常事態に、勘十郎さんは先のことばかり考えた。

そんな不安を、勘十郎さんは人形を作ることで和らげることができた。自分のためではなく、大阪市中央区高津小学校6年生が文楽の授業で使う稽古用の人形だ。

勘十郎さんは17年ほどこの学校で文楽の授業を受け持っている。今年は、29人の児童が人形遣い、浄瑠璃を語る太夫、三味線のグループに分かれ、それぞれ稽古している。人形遣いだけではない。太夫や三味線も、現役の技芸員(文楽の演者)から学ぶ。

「稽古人形やから自分のデザインでいいわけです。なかなか楽しい時間でした」

ようやく9月に再開した東京公演を前に、勘十郎さんは人形作りに没頭した数週間をそう振り返った。だんだんと形になっていく人形を愛でながら、毛糸で髪の毛を作り、足には自らインターネットで購入した明るい色の子供用の靴下をはかせた。「とにかく人形を触っているだけで楽しい」と、改めて自覚できた。

週に2回の高津小学校の授業は、今年度は6月に始まった。国立文楽劇場の向いにあるので公演中でも授業を行う。はじめは子供たちに文楽を通じてみんなでひとつのものを作り上げることの大切さを知ってほしいと思っていた。文楽人形は3人で遣う。かしらと右手を動かす主遣い(おもづかい)、足を動かす足遣い、そして左手を動かす左遣い。誰かが休めば舞台が成立しない。

勘十郎さんが今は亡き父の背中を追いかけて入門したのは14歳のとき。子どものころから絵を描くのが好きで、漫画家になりたいと思うこともあった。だが、13歳で初めて入った文楽の舞台裏が、観客席から見るものとまるで違う世界であることに圧倒され、この道を歩むことを決めた。今では人間国宝となった吉田簑助さんに師事した。

それから厳しく長い修行が続く。足遣いや左遣いは、舞台に出るときは黒衣と黒の頭巾で姿を隠す。観客は彼らの名前も顔もわからない。拍手をもらうのは主遣いだ。勘十郎さんは30歳になったときもまだ父の足遣いを務めていた。

でも勘十郎さんはこの経験を前向きにとらえてきた。なぜなら足遣い、左遣いは、主遣いになるための大切な準備期間だからだ。

「僕らは何のためにやっているのか、そう思うたら終わりなんですよ」

下積みの経験の大切さを、勘十郎さんは父から学んだ。3人の中央にいる足遣いは常に主遣いの体に触れている。だから主遣いを演じる父がどのように人形を遣うのかを身体で感じることができた。

晩年の父が遣った、名作「夏祭浪花鑑(なつまつり なにわかがみ)」の主人公、団七。長い手足に入れ墨をいれた大きな人形を、何度も病気を患い痩せ細った父が全身で操っていた。足遣いとして父の身体に触れていた勘十郎さんは、小柄な人形遣いでも、つま先から指さきまで全身を使えば人形が生きてくることを教えてもらった。

今、文楽の世界を背負い、若手を育てる立場にいる勘十郎さんは将来のことをより深く考えるようになった。若手の人形遣いが欲しい。足を遣う人が足りない。文楽は一生をかける覚悟で始めるものだと考えていたが、最近は違う思いも出てきた。

もし主遣いになるまでの長い道のりが若者の重荷になるのなら、別の形で文楽の世界に入ることはできないか。幕を開けるだけ、小道具を渡すだけの出番でもいい。いやならやめればいい。でもそこから文楽を好きになって、一生をかけてくれる人が出てくるかもしれない。小学校での授業も、「やっているうちに、好きになってくれる子もでてくるんちゃうか」と、思うようになっている。

国立文楽劇場には後継者を育成するための研修制度がある。太夫や三味線も含めた現役技芸員83名のうち約半数が、1972年に始まった同制度の出身者だ。現在研修生は2人いる。

今は日本人ばかり、それも男性だけの文楽の世界だが、いずれは外国人が入ってくる時代が来るかもしれないと勘十郎さんは言う。相撲や落語ではすでに外国人が活躍している。

そしていつの日か女性の人形遣いも出てくる日があるかもしれない。「第一号がさあ、いつになるのかというところですかね」と勘十郎さんはつぶやいた。

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