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世界でいちばんアメリカ大統領選が盛り上がっていない場所

 月曜日夜のニューヨーク。2回目の大統領候補討論会は明日夜。10月3日の最初の討論会でロムニーがオバマを「圧倒」して支持率が拮抗したため、テレビのニュース番組は明日の討論会の注目ポイントをつぶさに報じている。というか、煽っている。

 MSNBCは共和党の副大統領候補ポール・ライアンがオハイオ州のチャリティーイベントを訪問した際、会場となった大学の調理室に無断で入り、エプロンをして鍋やシンクを洗うというメディア向けのパフォーマンスを勝手に行ったことを眉をひそめて報じている。チャンネルをFOXニュースに変えるとブロンド美人の保守派評論家アン・カゥトラーが、スカーレット・ヨハンソンが出てきて「共和党はレイプという言葉の意味を変えようとしている。貴女もオバマに投票して」と語る、中絶問題でロムニー陣営を批判する民主党シンパ制作のテレビCMに噛みついている。

 さすが不偏不党のFOXニュースとMSNBC。いつものいつもの光景だ。大統領選投票日まで3週間。アメリカは熱い。盛り上がってる。

 ここを除いては。

 ニューヨークに着いた月曜日の夜、アップタウンにある共和党郡委員会の本部を訪れた。州議会下院選に立候補しているマイケル・ザンブラスカスの資金集めパーティーが開かれる。政治の季節。ロムニーの健闘で全米各地の共和党支持者が気勢を上げている。テレビでよく見る有力政治家のパーティーのように、ここもすごい熱気に違いない。そう思って建物の1階にあるパーティールームに入る。

 シーン。場所を間違えた。帰ろうとしたら、受付にザンブラスカスの選挙ポスターが張ってある。間違えてなかった。

 立食なら150人は入ろうかという部屋にいるのは13人。そのうち3人はボランティアの若者、1人は候補者のガールフレンド。受付のボランティア君に取材に来た旨を伝えると、大柄で優しい顔つきの男性がにこやかに近づいてきて挨拶してくれた。ザンブラスカス本人だった。

 こちらが何も言う前に「ほら、この雨でね。降るとみんな出かけるのが億劫になるからね。あとからもう少し来てくれると思うよ」と言い訳した。確かにパーティーが終わるまでに参加者は3人増えた。

 ロングアイランド生まれ、52歳のザンブラスカスは、実は共和党の候補者ではない。独立党(Independence Party of America)から立候補している。独立候補のロス・ペローが旋風を巻き起こした92年の大統領選でペロー陣営のボランティアをして以来、民主党でも共和党でもない「第三党」の地域活動や全国規模の党務に関わり、連邦下院選や州上院選に立候補したこともあった。

 参加者がこれっぽっちなのは彼が独立党の候補者だからなのだろうと思ったが、話を聞くとそうではなかった。

 ザンブラスカスが立候補しているニューヨーク州議会下院76区は現職の民主党議員に対し、共和党の立候補者がいない。それくらい共和党の地盤が弱い。共和党が独立党に協力しているのではなく、独立党が共和党に“相乗りさせてあげている”。

 パーティーに来ている支持者に聞くと、ザンブラスカスはなかなか善戦しているらしい。勝てる確率はどれくらいなのかと聞くと、独立党のフランク・マッケイ全国委員長はいささか投げやりな様子になり、「オバマがホワイトハウスの主になり、ヒラリーが国務長官になる(くらい想像しがたいことが起きる)時代だ。何かを予想しても無駄だから予想はしないよ」と言って、話題はヤンキースのイチローとクラァゥダに変わった。

 応援に来ていた、ニューヨーク共和党郡委員会副委員長の名刺をくれたロバート・フィオーレという気さくなイタリア系のおじさんは、オバマが再選すればアメリカの経済と社会保障制度と学校教育がいかにダメになるかについてひとしきり語ったあと、超おすすめのイタリアンレストランを教えてくれた。家族経営で、家庭料理っぽいのがどれも美味しくて、びっくりするくらい値段も安いとか(リトルイタリーのMulberry StreetにあるLa Melaというお店だそう)。

 フィオーレおじさんによると、ニューヨーク州全体ではそこまで極端ではないが、リベラル色の強いニューヨーク市に限ると共和党支持者の数は民主党支持者の7分の1くらい。連邦議会選はともかく、州や市のレベルでは候補者を立てたところで選挙活動そのものが成り立たない地区もあるので、このように民主党以外の政党の候補者に乗っかるのだという。ジュリアーニ元市長やブルームバーグ市長のように共和党の有力政治家もいますよねと私が言うと、「ブルームバーグは市長になったあとに共和党を抜けて独立系になったんだよね」と寂しそうに言った。政治のホットな季節だが、マンハッタンの共和党は寒い。

 パーティーに来ていた独立党の支持者の間ではロムニーの評判はよくも悪くもない。国政レベルでは共和党自体に期待をもっておらず、「大統領選なんて単なる見せ物、ショーだ」と吐き捨てるように言う人もいた。ロムニーの選挙キャンペーンは、中道派にすり寄ることで本質を放棄しているように彼らの目には映るという。

 ザンブラスカスによると、彼の選挙の当落ラインは1万7000から1万8000票。日本の中規模の当道府県の議会選くらいだろうか。「どこへ行っても人々の怒りを感じる。政治が民主党と共和党だけに支配されていることへの怒り、二大政党の取引だけで物事が決まることへの怒り。政治をもっと透明化したい。具体的には、法案は採決の遅くとも3週間前までに州議会のウェブサイトに掲載するようにし、法案の文書も難解な行政や法律の用語ではない平易な英語で書くように義務づけ、議会での討議も3日間以上と定める。それとね…」と、口調は穏やかだが力強く語り続ける。共和党は寒いがザンブラスカスは熱い。

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スピーチするザンブラスカス(右)

 共和党が強い地盤をもち、宗教保守派や社会保守派の影響力が強い南西部のいわゆるレッドステートではマンハッタンのこの地区とは正反対の光景が見られるはずだ。大統領選自体もロムニーの支持率上昇で「接戦」としての側面がメディアではもっぱら強調され、勝敗を左右するオハイオやノースカロライナなど接戦州の動向に報道が集中しているが、それだけがアメリカの政治を取り巻く状況の現実ではない。

 帰り際、受付のテーブルに置いてある持ち運び型の小さな金庫を指でつつきながら、ボランティア君に心配そうに寄付金の集まり具合を聞いているザンブラスカスの姿が目に入った。中身はささやかでも、それはフィオーレおじさんおすすめのイタリア料理店のような家族経営の事業者、アメリカの雇用の大半を生み出している中小企業で働く人々が「泡沫候補」であることを承知で、数枚の紙幣を通じてなにがしかの思いを託した金庫箱ではある(寄付金はネットを通じてクレジットカード決済でも募っている)。

 ティーパーティー運動や「ウォール街を選挙せよ」にも包摂されている二大政党システムへの絶望感とアレルギーが今回の選挙を通じてアメリカのどこに染み込んでいくのだろうかと、閑散としたパーティールームで考えさせられた夜だった。

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