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市民活動をめぐる“3つの事実”――「ボランティア」とは誰なのか? - 三谷はるよ / 社会学

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「ボランティア元年」から四半世紀

1995年の阪神・淡路大震災から25年が経つ。甚大な被害がもたらされた一方で、その年は130万人を超える人々が災害ボランティアとして救援・支援活動に従事した。彼らの姿は国内外のメディアにも大きく取り上げられた。ごく普通の人々が「ボランティア」を知り、活動に参加するきっかけになったとして、1995年は日本の「ボランティア元年」と呼ばれている。

それから四半世紀。ボランティア活動は日本社会に根づいたのだろうか。また、どのような立場の人でも参加できる市民活動になったのだろうか。

筆者は長年、市民活動の担い手像を社会調査データから実証的に探ってきた。本記事では、一連の研究から得られた知見のいくつかを紹介する。とくに「ボランティア」に関して、一般の方々があまり知らないであろう“3つの事実”を紹介したい。

事実1――ボランティア活動率は変わらない

「ボランティア元年」以降、日本社会において「ボランティアは増えている」といると素朴に思っている人は多い。はたして、実際に増えているのか。

これを確かめるためには、過去から現在までのボランティア活動率を比較すればいい。ただしここで気をつけなければならないのは、「ボランティア」という言葉の普及の影響である。一般の人々が「ボランティア」という言葉を日常用語として使うようになった契機が1995年だとされる。よってそれ以前の“ボランティア的”な活動の参加率は、別の言葉で測定する必要がある。

ここで都合の良い調査がある。総務省が5年ごとに行っている「社会生活基本調査」では、1980年代に「社会奉仕」、1990年代に「社会的活動」、2000年代以降に「ボランティア活動」の語で、各活動にどれだけの人が参加しているかを調べている。この結果から、参加率の推移をみてみよう。すると、見事に25~30%程度を維持しながらほとんど変化していないのである(図1)。

驚くべきは、阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災(2011年)の前後も参加率は変わらないことだ。残念ながら、これらの大震災に日本全体のボランティア人口を劇的に増やすほどのインパクトがあったとは言えないのである。

図1 「社会奉仕」「社会的活動」「ボランティア活動」の参加率

注:総務省統計局「社会生活基本調査」より筆者作成。図中数値は全体の参加率。

事実2――富裕層の参加率が低下している

では、具体的にどのような人がボランティア活動に参加しやすいのだろうか。社会学ではとくに、社会経済的地位とボランティア行動の関連に注目する。というのも欧米の研究では、「資源仮説」、すなわち社会経済的資源が豊かな人ほどボランティアになりやすいという説が有力だからである(Mitani 2014)。実際に日本でも、世帯収入や職業的地位、学歴の高い人ほどボランティア活動に参加しやすいことが確認されている(豊島 1998; 仁平 2008)。

しかし近年では、これらの関連に少し変化が生じている。簡潔に言えば、ボランティア活動率における学歴差は残っているものの、収入や職業的地位による差は小さくなりつつある(三谷 2014, 2015a, 2016)。かつて、高収入の人や経営者・役員の人ほどボランティア活動をする傾向があった。しかし2000年代以降、そうした傾向がみられにくくなっている。

拙著では多変量解析という厳密な手法でこの傾向を確認しているが、ここでは簡単に収入・職業とボランティア活動率の関係をクロス集計でみてみよう(注)(図2・3)。図2では、とくに収入高位層の参加率が低下していることがわかる。図3では、かつて約37%もあった経営者・役員層の参加率が大幅に低下していることがわかる。

(注)1995年の数値は、「社会的活動(ボランティア活動、消費者運動など)」の参加率(1995年社会階層と社会移動全国調査から)。2015年の数値は、「ボランティア・NPO活動」の参加率(2015年階層と社会意識全国調査(第1回SSP調査)から)。いずれも20歳以上65歳未満の男女が対象。

図2 収入別ボランティア活動の参加率

注:三谷(2015a)の図7-3を最新データで修正。

図3 職業別ボランティア活動の参加率

注:三谷(2015a)の図7-4を最新データで修正。

この背景にあるのは、以前と比べて経済的・職業的に優位な立場にある人に対して、市民的役割を要求する社会的圧力が弱まったことがあるのではないかと筆者は考えている。

かつて、旧来的な地域共同体において、地元の有力者は“長”に推されやすく、住民たちの取りまとめ役を期待される状況があった(町内会長など)。周囲の人々の期待に応えることが自らの特権的地位を確立することにもつながった。しかし、近代化の進展や経済成長とともに一億総中流化が進み、また1995年以降「誰でもボランティア」観が普及するようになると、一部の高階層の人々に市民活動を期待する風潮は弱まってきたと考えられる。

一方で未だに、学歴差は歴然と存在している。図4から、1990年代も2010年代も大卒層が最も参加率が高いことがわかる。ここでみられる学歴差は、他の様々な要因の影響をコントロールしても残るものである。このように高等教育とボランティア行動の関連はいつの時代にもみられるものであり、諸外国でも一貫して認められる関連として知られている。その理由として、大学等において「社会問題への関心」や「市民的スキル(マネジメント力、情報収集力など)」が培われ、それらがボランティアになるのに有利に働くためと考えられている。

図4 学歴別ボランティア活動の参加率

注:三谷(2015a)の図7-2を最新データで修正。

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