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安倍政権「半島外交」完全総括【韓国編】歴史修正・嫌韓・遺恨の8年 - 平井久志

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韓国に輸出規制

 それから半年後、日本の経済産業省は2019年7月1日、半導体製造に使う「フッ化水素」など3品目の韓国向け輸出規制を同4日から強化すると発表した。さらに安全保障上問題がない国に適用している「ホワイト国」から韓国を除外する手続きに入るとした。

 経産省はこうした措置の理由として、

「日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況」

「大韓民国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっている」

「大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生したこと」

 としたが、「不適切な事案」とは何なのかは明らかにしなかった。

安保分野にまで広がった対立

 もともとこうした対抗措置は、韓国が元徴用工問題で差し押さえ資産を現金化した場合に備えて準備していたものであった。

 しかし、これを前倒しで実施した。日本政府は元徴用工問題とは関係ないとしたが、事実上の対抗措置であった。

 それは参院選挙の直前であり、日本国内で広がる嫌韓感情もあり、韓国への輸出規制は世論の支持を得ると同時に、参院選挙での自民勝利の要因の一翼を担った。日本国内に広がる「嫌韓」感情を、政権基盤強化に利用したといえる。

 だが、それは歴史問題での日韓の葛藤を、経済分野にまで広げることとなった。

 韓国では、輸出の最大品目である半導体への大打撃になるという危機感が広がり、一般市民の間でも日本製品の不買運動などが広がった。

 韓国人は慰安婦問題など歴史問題では日本を厳しく批判する一方、日本製ビールを好み、日本旅行を楽しむという「2トラック」だったが、経済分野での日本からの規制により、ビール、衣料、自動車など幅広い日本製品への不買運動が広がり、それは今でも続いている。

 また、日本政府が安全保障上、韓国が信頼できないとして「ホワイト国」から除外したことを逆手に取り、韓国政府は2019年8月22日、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を決めた。

 日本政府は歴史問題での対立を経済分野に広げ、韓国政府はそれを安保分野にまで広げる愚を犯し、日韓の対立はさらに深まった。

 ただし、米国の強い反対などもあり、韓国政府はGSOMIAの失効直前の11月22日になり、破棄通告の効力を一時停止するという奇妙な決定で、GSOMIAは継続されることになった。

お互いに「遺恨」

 安倍首相と文大統領はよくミスマッチといわれる。本人の考えはともかく、安倍首相の支持勢力は「嫌韓」、文大統領の支持勢力である「文派」は「反日」である。これに加えて、お互いが相手のやり方に恨みを抱くことがあった。

 文大統領にとっては、2018年2月の平昌冬季五輪は南北の和解を世界に発する重要なイベントだった。さらに、この冬季五輪を米朝接触の場にもしようとしていた。

 同2月9日の平昌冬季五輪の開会式を前にした文大統領主催のレセプションがあり、各国代表が参加した。文大統領はここで自然な形での米朝接触を実現しようとした。

 しかし、米国のマイク・ペンス副大統領と安倍首相はわざと遅刻した。しかも、ペンス副大統領は主賓席の人々と挨拶を交わしただけで着席せず、退席した。このため、ペンス副大統領と北朝鮮代表団との接触は不発に終わった。安倍首相は会場に残り、レセプションが終わり、開会式が始まる直前に、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長(当時)に話し掛けたが、事実上、対話を拒絶された。

 文大統領は、翌2月10日、青瓦台(大統領府)で北朝鮮代表団との会談後、大統領と入れ違いにペンス副大統領が入り、米朝接触をつくる考えだった。米朝の情報機関間の事前協議で計画され、ドナルド・トランプ大統領の了承も出ていた。

 しかしその直前に、北朝鮮側が「拒否」を通告してきた。理由は明らかにされなかったが、ペンス副大統領が訪韓前に立ち寄った日本で、安倍首相とともに対北強硬発言を続けたことが理由とみられた。

 文大統領は米朝接触をつくり、平昌冬季五輪の意義をさらに高めようとしたが、開会式前のレセプションでも青瓦台での秘密接触でも、失敗し、その原因のかなりの部分は安倍首相による妨害、という意識が残った。

 一方の安倍首相にとっては、2019年6月に大阪で開催した20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)は日本国内で開催した史上最大規模の首脳会議で、大きな業績づくりとなるイベントであった。だが安倍首相は、G20大阪サミットに参加した文大統領と立ち話すらせず、無視した。

 ところが、G20大阪サミットに参加したトランプ大統領は突如、ツイッターで米朝首脳会談を呼び掛け、記者会見で、

「板門店で金正恩(キム・ジョンウン)党委員長と会うかもしれない」

 と語り、世界の関心はG20よりも米朝首脳の対面に集中した。これはG20の成果を世界にアピールしようとした安倍首相の意図を打ち砕くものであった。

 そして実際、文大統領は板門店でトランプ大統領とともに金党委員長と対面し、初の「米朝韓」首脳の対面を実現したが、安倍首相にとっては、G20大阪サミットの成果を潰したのは文大統領、という遺恨を抱かせた。

 保守の安倍首相、進歩の文大統領という基本的な対立構造に加えて、お互いが自分の執権期間内で最大のイベントと考えていた催しを台無しにされた、という思いが今も残っているであろう。

 その意味で、安倍首相と文大統領はミスマッチというか、犬猿の関係になったといえる。

 しかし、隣国同士の指導者の対立が、国家の対立にまで発展することで被害を蒙るのは国民である。

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