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建築と社会学の新しいアドレス 「答えが運ばれてくる前に」 藤村龍至×南後由和

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見ようとすることから見えてくるもの

荻上:南後さんの都市論が面白いと思ったんですが、例えば前田愛的な都市の描き方とは、もちろん手法も全然違いますよね。南後さんの中では何のカウンターでその方法論がどういう意図を持ってこれから意義を果たしていくと位置づけていますか? 

南後:八十年代には、前田愛的なテクストとして都市を読む手法や記号論、江戸=東京論ブームがあった。都市論の系譜を挙げていってもきりがないですが、例えば社会学系の都市論の吉見俊哉さんの『都市のドラマトゥルギー』は、都市を〈演者=観客〉のまなざしが交錯する舞台装置として読み解く手法を提示した。空間の物語性を読み込んでいく都市論が、広告代理店的な都市空間の演出の発想と共犯関係を持っていた時代がありました。渋谷のパルコなどがよく例に挙げられますよね。

ゼロ年代に出てきた北田暁大さんの『広告都市・東京』くらいになってくると、そもそも舞台性とか物語性は失効して、都市はもはや量とかサイズの問題でしかないということになってきた。あまり空間の話はしても仕方がないということになっていったわけですね。けれども、僕は空間の次元へのこだわりを手放したくないというのがある。北田さんは、空間の蒸発を指摘していたというよりは、インターネットやケータイの普及による「つながりの社会性」の顕在化と、空間の脱舞台化がどう関係し、都市経験を変容させていくかに目を向けるべきだと主張していたと思いますが、いずれにせよ都市論全体は、情報社会論の台頭を尻目に勢いを失っていきました。

他方で、グローバリゼーション、国民国家という枠組みの溶解、情報化などを背景に、都市の全体性や輪郭が見えなくなったとも言われて久しい。けれど、本当にそうなのかという疑問があります。そもそも中立的で客観的な都市の地図なんて存在しないわけで、軸や視点さえ投入すれば、様々な都市のインフォグラフィックスが描け、それにより、都市が抱える問題も発見できるはずです。

今置かれている東京の状況を地方との関係で考えるうえでも、アジアとの都市間競争の中で東京が置かれている状況を考えるうえでも、ビッグデータやマクロ的なデータの活用は欠かせないと思う。必然的に政治や経済の分野とも関わってこざるを得ない。

「見えない都市」という言葉があるように、都市を読むという行為自体が難しくなったということも繰り返し指摘されてきました。けれど、必ずしもそうではなくて、見ようとすることから見えてくることというのは、まだ追求すべきだと思っています。

もう一つは、何かへのカウンターというより、そもそもこれまでの社会学では建築にほとんど焦点が当てられてこなかった。社会学者は人やプログラムの話は得意ですが、物理的な空間やモノの次元はスルーしがちです。建築というのはすごく具体性があって、都市と連関しつつも、スケール的には都市より取っつきやすくイメージしやすい。

荻上:今までの都市論というのは、コミュニティというかプレイヤー同士のしきたりであるとか、文法であるとかに着目しがちだったし、あるいは環境といったら歴史社会学的な移り変わり的な話はするけれど、それをオーバーレイするような描き方ってなかなかされなかった。

南後さんの方法というのは極めて古典的なフィールドワークと地道な計量的な方法論をミックスしたうえで、提示の仕方は技術によって改善が施されている。一方で、統計ツールなどの処理ソフトは駆使するけれど、基本的には社会学の王道的方法論というものを都市計画、都市論にも応用している。社会学の具体的な建築分野に対する応答可能性を示そうというのが、一つの特徴なのかなという気がしました。

南後:社会学は家族でも学校でも会社という単位でもいいですが、ミクロとマクロを横断するメゾが得意分野じゃないですか。建築も単体としての作品としてではなく、本来はメゾとして分析されるべきなのに社会学の中では研究対象とされてこなかった。住宅と家族の関係に関する研究の蓄積はあるんですが。

やはり、建築って特権階級のものというか贅沢なものという側面がある。社会学というのはどちらかというと排除される側とか、社会的公正とか平等をめぐる問題に関心があるので、権威の象徴や差異化の道具としての建築とは相性が悪かったのかもしれない。

最近よく山崎亮さんがつながりをデザインすると仰っていますが、建築というのは監獄やワンルームマンションが典型例で、基本的に他者や周辺環境との切断のアーキテクチャだと思うんです。これまで、つながりのアーキテクチャに関するノウハウはあまりなかったからこそ、つながりのデザインということは建築界で受けがいいし需要があると思う。人口減少社会の現代では、とくに。

荻上:建築って、言説がセパレートしているという印象がありました。現実の世界ではもうルーティンワークで頼まれて作るという現場があり、もっとベタッとしたところでは、住宅困窮問題などもあるわけですね。

一方で、ハイカルチャー的なニューアートを語る仕方の論壇というのもあって、同じ建築とはいえ、見える風景はだいぶ違ったりもします。

南後:そうですね。やはりエリート主義の建築家論、あるいはその倒錯した逆転バージョンばかりを目にしてきた。僕は藤村さんとか同世代の建築家といろいろ話をさせてもらう機会がありますが、別にステータスの格下げという意味ではなく、いい意味で八十年代的なイメージはないわけです。けれど、その負のイメージが建築家には幽霊のようにつきまとっている。……(つづく)

藤村龍至(ふじむら・りゅうじ)

建築家/1976年生まれ/東洋大学専任講師/藤村龍至建築設計事務所/建築的思考を応用して新しい公共を実現したい/縮小社会の設計論と日本の将来像を研究/建築設計・教育・展覧会キュレーション・イベント、ワークショップ、書籍およびウェブマガジンの企画制作・原稿執筆など/読売新聞で連載中。東京工業大学社会工学科にて土肥真人に師事。同大学大学院建築学専攻にて塚本由晴に師事、 ベルラーヘ・インスティテュートへの留学を経て、2008年東京工業大学大学院博士課程単位取得退学。2005年より藤村龍至建築設計事務所主宰。2010年より東洋大学建築学科専任講師。鶴ヶ島プロジェクトは12月3日から7日まで「渋谷ヒカリエ」で展示予定 http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20120917-OYT8T00390.htm

南後由和(なんご・よしかず)
1979年大阪府生まれ。明治大学情報コミュニケーション学部専任講師。社会学、都市・建築論。桑沢デザイン研究所、早稲田大学非常勤講師。東京大学大学院情報学環客員研究員。東京大学大学院学際情報学府博士課程、助教などを経て、現職。共編著に『文化人とは何か?』(東京書籍)、共著に『都市空間の地理学』(ミネルヴァ書房)、『路上のエスノグラフィ』(せりか書房)、『Atelier Bow-Wow:Behaviorology』(Rizzoli)、『アーキテクチャとクラウド』(millegraph)など。青山ブックセンター本店建築フェア・コーナーにて南後由和さん選書による「東京論 ジャンル横断のおすすめ30冊」フェア開催中

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