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【読書感想】世紀の落球-「戦犯」と呼ばれた男たちのその後

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世紀の落球-「戦犯」と呼ばれた男たちのその後 (中公新書ラクレ)
作者:澤宮 優
発売日: 2020/08/06
メディア: 新書

Kindle版もあります。

世紀の落球 「戦犯」と呼ばれた男たちのその後 (中公新書ラクレ)
作者:澤宮優
発売日: 2020/08/14
メディア: Kindle版

北京五輪の野球日本代表となったG.G.佐藤。今も語り継がれる高校野球星稜・箕島戦の星稜一塁手加藤直樹。最終戦で敗れ、巨人のV9を阻止できなかった阪神の池田純一中堅手。彼らは、大事な試合で大きなミスを犯したとして、ファンやマスコミから非難を浴び、人生が暗転した。理不尽なバッシングとどう戦い、そして立ち直ったのか。「落球」の烙印を背負った男たちの「その後」を辿るスポーツノンフィクション。

 「世紀の落球」か……

 ほとんどの人が、人間というのは完璧ではないし、ミスや間違いを犯してしまうということを頭では理解しているはずです。

 殺人のような、他者の生命や人生を奪ってしまうような犯罪に対しては「まあ、人間誰しも、間違いはあるから」と寛容になるのが難しいと僕も思いますし、僕自身も、許そうという気持ちにはなれません。

 でも、スポーツの試合でのエラーというのは、選手たちも失敗しようとしているわけではないし、緊張しやすい僕も「エラーしやすい精神状態」というのは、わかるんですよ。

 そして、選手がエラーしたところで、応援している側としては、がっかりするし裏切られたような気分にはなるにしても、実害があるわけではないのです。

 ただ、「贔屓のチームが勝って、良い気分になるのを阻害された」だけでしかない。

 にもかかわらず、エラーをした選手はみんなに責められるし、どんなに他の場面で活躍しても、みんな「あの場面でのエラー」のことばかり覚えているのです。

 この本では、北京五輪の日本代表で、銅メダルがかかった3位決定戦で試合の流れを変えるエラーをしたG.G.佐藤選手、「高校野球史上最高の試合」とも言われる星稜・箕島戦で、取れば試合終了だったフライを転倒して落球した、星稜高校の一塁手加藤直樹選手、巨人戦で正面に飛んできた打球を獲れなかったことでチームが逆転負けを喫した阪神の池田純一中堅手(そのシーズン、あと1勝が足りずに阪神は巨人のV9を許してしまいました)が著者の取材に対して、当時の、そしてその後の心境と人生について語っています。

 G.G.佐藤選手と星稜対箕島戦のことは記憶にあるのですが、まだ野球を観る年齢ではなかったので、池田選手のその場面はみていないんですけどね。あらためて考えてみると、いまは昔の情報でもネットで検索すれば大概のものはいつでも知ることはできるし、映像も観ることは可能(著作権的な問題はあるとしても)ですが、インターネット以前は、テレビで放送されるときに観るか、その場面が収録されたビデオを探すしかなかったのです。

 現在は、昔より、「失敗が拡散されやすくなった時代」だと言えるのかもしれません。

 その一方で、昔はデマや誤解が検証されることなく広まりやすくて、星稜の加藤選手には「死亡説」が流れ、阪神の池田選手は「巨人が阪神との直接対決で優勝を決めた試合でエラーをした」と思い込んでいる人も多かったそうです。

 平成21(2008)年8月23日、北京の五棵松野球場で、北京五輪の野球競技、米国対日本の3位決定戦が始まった。日本代表は監督に星野仙一を迎え、すべてプロ選手で挑んだ大会だった。

 3回裏、青木宣親(東京ヤクルトスワローズ)のスリーランなどで日本が4対1とリードしている場面だった。この回の先頭打者バーデンの打球は高々とショートの後方に舞い上がった。レフトを守るG.G.佐藤(埼玉西武ライオンズ)は猛然とダッシュしたが、ボールをグラブに当てて落としてしまった。そこから米国の反撃が始まり、日本は4対8と逆転負けを喫し、銅メダルも獲得できなかった。

 そして佐藤は、日本がメダルを逃したA級戦犯にされてしまった。

 平成26年に36歳で引退した佐藤は現在、測量や地番改良工事を行う会社に勤務している。

 これまではほとんど落球について語ろうとしなかったが、最近はようやくマスコミに対しても口を開くようになった。とはいえ、今もあのプレーについては複雑な思いを抱いている。五輪という大舞台での苦い体験はたやすく忘れられるものではない。彼は取材の冒頭ではっきりと言った。

「僕は完全に落球を克服したわけではありません」

 北京五輪から12年が経とうとしている。その間、苦悩の中で彼は必死に自分なりの生き方を見つけ出そうとしてきたのだった。

 あらためて検証してみると、G.G.佐藤選手のあのエラーには、いくつも理由や伏線があったのです。

 佐藤選手はもともとライトを守っていて、レフトの経験はなかったにもかかわらず、代表チームにはレフトを専門とする選手がいなかったため、レフトを守ることになったそうです。

 一昔前は、草野球では「ライパチ」なんて言われていて、いちばん下手な人が「ライトで8番」に入るとされていたのですが、プロのレベルになると、左の強打者が多く、3塁にランナーが進むのを阻止するために強肩のライトが求められ、センターは守備範囲が広い選手、ということで、レフトは「外野のなかでは、いちばん簡単なポジション」だとされています。打撃優先で守りに不安がある選手が起用されることも多いのです。

 ところが、実際にレフトを守ってみると、佐藤選手はライトを守っているときとの打球の違いに驚かされたそうです。ライトからセカンドやショートをやれ、と言われるよりは簡単だとは思いますし、外野ならどこでも守れる、という選手もいるのですが、ライトをやっていた人がレフトを守るというのは、「同じ外野だから」というイメージよりは、ずっと難しかったのです。

 そういえば、2019年に巨人から広島に移籍してきた長野久義選手も、ライトとセンターをずっと守っていたため、レフトの守備に慣れるのにけっこう時間がかかっていました。若くして亡くなったユーティリティプレイヤー・木村拓也選手は、ピッチャー以外どこでもやれる、というのがセールスポイントだったのですが、広島時代になぜかサードを守っているときにエラーが多くて、「サードって、内野のなかではセカンドやショートよりも簡単と言われているポジションなのに、あの(カープの)キムタクでもポジションの相性があるのかなあ」と思った記憶があります。

 G.G.佐藤さんの場合は、本人でさえ、「まあ、ライトもレフトもそんなに変わらないだろう」と最初は思っていたそうですが。

 ただでさえ緊張する大舞台に慣れないポジション、しかも、準決勝の韓国戦でも守備のミスがあり、佐藤選手は自信を失ってもいたのです。

 その佐藤選手を、星野監督は「このままではあいつはダメになってしまうかもしれないから、3位決定戦でチャンスを与えたい」と、あえて、3位決定戦に起用したのです。

 そういう起用がうまくいくこともあるでしょうし、「出さないであげたほうが……」というのは、結果論でしかないですよね……誰が悪いわけでもないのに、うまくかみ合わないことというのはあるものだな、と考えずにはいられません。

 この本のなかでは、あの試合のあとの星野監督と佐藤選手の関係についても紹介されています。

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