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お咎めなしの殺人事件。DV男に反撃し殺害したA子さんの場合 - 森炎

「30万円以下の罰金」って、結局いくら?

刑法の条文に定められている刑罰には幅が設けられており、様々な情状を考慮して決定されます(=量刑)。しかしそこには多くの裁判を経ていくうちに形成された「刑の相場観」があり、事件のタイプによって大枠は決まっているもの。

過去の判例を挙げながらその相場について解説している幻冬舎新書『量刑相場 法の番人たちの暗黙ルール』より、特に一般的な感覚と異なる(?)ものを抜粋してご紹介します。

DVを受けていた女性がDV男を殺害―刑の免除

まず、DVにまつわる特殊な殺人から見ていきましょう。

(写真:iStock.com/KatarzynaBialasiewicz)

DVにまつわる殺人といっても、加害男性が被害女性を殺害するケース(虐待殺人)は、ほとんどありません。DVの心理は殺害とは相容れない面があり、加害男性からすれば、生命の危険を生じないところでDVをやめるのは容易だからです。よくあるのは、追い詰められた被害女性が苦しさのあまり反撃に転じ、その場合に圧倒的な力の差があるために、なまじっかの反撃では済まずに加害男性を殺害するに至るというケースです。このような場合は、殺人としては、もちろん軽く扱われることになります。

A子は、2度の結婚、離婚を繰り返したのち、居酒屋で働いていたときに客として来ていたBと同棲するようになる。いわゆる内縁関係である。

Bとの事実婚が5年を過ぎるころから、BはA子に暴力を振るうようになる。酒を飲んで些細なことに立腹して暴力を振るうのであるが、Bの暴力はだんだんエスカレートする。最初は平手で叩(たた)く程度だったのが、殴る蹴るとなり、さらにはゴルフクラブを持ち出して背中を殴るまでになる。A子は肋骨を骨折させられて病院にかかったり、婦人相談所に避難したりしなければならなくなる。

その日も、Bは焼酎を飲んでA子を殴ったり蹴ったりしていた。

そのうち、Bは台所からナイフを持ち出し、刃をA子の首筋にあてた。A子は驚いて部屋から逃げ出そうとしたが、首根っこを捕まえられて引き戻される。逃げようとしたことで、A子はまた、脇腹を蹴られたり、顔を殴られるなどの暴行を加えられた。

暴力の合間に、Bが畳の上に置いたナイフをA子は隙を見て手に取った。Bは、「刺すなら刺せ」と言って、ドターンと仰向(あおむ)けに転がって目を閉じた。

A子が刺せずにナイフを置くと、Bはまた起き上がってきて暴力を振るった。今度は首を絞められた。

A子は、再びナイフを取った。すると、Bは、再び、「刺したければ刺せ」と言って、ドターンとひっくり返った。

A子は、ナイフを近づけて刺すマネだけした。Bはナイフを取り上げると、また暴力を振るう。ゴルフクラブで背中と後頭部を殴った。そして、またまた、ゴロンと仰向けになって目を閉じて言った。

「胸は骨があるで、頸動脈(けいどうみゃく)のある首を狙え」

三度目の正直。A子は、ナイフを手に取って、今度は本当に、Bの頸動脈にナイフを突き立てた。Bは即死した。

裁判所は、A子に対して「刑の免除」という判決を出しました(名古屋地裁平成7年7月11日判決)。

刑の免除というのは、有罪判決の一種とされていますが、実質的にはお咎(とが)めなしです。

理屈はというと、名古屋地裁の判決は、A子の行為を単なる殺人とは区別して防衛行為としての殺人とみなし、過剰防衛と認めたためです。過剰防衛と認められると、殺人罪の法定刑から刑を減軽することができ、最大限「刑の免除」までできます。そして、この事例では、軽くできる限界の「刑の免除」を選択したわけです。

ただし、ゴロンと仰向けになっているだけの男を刺殺して、それが防衛行為だというのは異例です。その判断の不可欠の前提には、長時間にわたり程度の高いDVが繰り返し行われ、DVが休止していたのはほんの少しの間にすぎないことがあります。

そのときは仰向けになっていただけとはいえ、直前に行われていたDVの内容などから、男がいつ暴力を再開してもおかしくない、いわば猛獣のような危険な存在とみなされ、その瞬間には何もしていないのに防衛の必要があるという価値判断が下されたのです(名古屋地裁判決書「一連の暴行を一体として全体的に考察すると、暴行そのものがいったん収まっていても、引き続き反復される危険はなお現存していたというべきである」)。

いうまでもないかもしれませんが、DV男を平常時やその就寝中に殺害したような場合には、同列には論じられません。

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