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未曾有のコロナ危機でも黒字を計上したトヨタの「6つの危機管理」

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新型コロナウイルスの影響で自動車業界は危機にある。だが、トヨタ自動車だけは直近四半期決算で黒字を計上し、すでに中国向けの販売台数はコロナ前を上回っている。なぜトヨタは何があってもびくともしないのか、ノンフィクション作家・野地秩嘉氏の連載「トヨタの危機管理」。第1回は「6つの危機管理」——。

2020年4月28日、感染対策のため、マスクを着用して作業するフランスのトヨタ工場の作業員
2020年4月28日、感染対策のため、マスクを着用して作業するフランスのトヨタ工場の作業員 - 写真=EPA/時事通信フォト

いち早く“コロナ危機”を脱しつつある

現在でこそトヨタは何があってもびくともしない会社のように思われている。新型コロナ危機になる前の2019年3月期(2018年4月~2019年3月)の連結決算を見ると売上高は前期より2.9%増えて30兆2256億円だった。営業利益は同じく2.8%増の2兆4675億円。売り上げが30兆円を突破した企業は日本では初のことだった。

新型コロナウイルスが蔓延し、世界の自動車会社が軒並み大きな赤字を出しているなかでもトヨタは2020年第1四半期の決算で黒字を計上した。さらに同社の中国マーケットの状況を調べてみると新型コロナ危機以前よりも販売は伸びている。

世界中の企業は今もなお、危機のさなかにいる。業種にもよるが、大半の会社はロックダウン、休業要請、サプライチェーンの途絶、需要の減少などの影響を受け苦しんでいる。

特に苦しいのはメーカーだ。事務職であればリモートで仕事ができる。しかし、メーカーの生産現場はリモートというわけにはいかない。また、封鎖が解けて工場へ行けるようになったとしても、サプライチェーンが寸断され、原材料が入ってこなくなっていたら工場設備を動かすことはできない。

そして、メーカーの減産は他の産業にも波及する。製品ができなければ販売店は売るものがないし、商社、物流業は扱う商品がなくなってしまう。

トヨタのコロナ対応を紹介できるのはここだけ

新型コロナの危機はどこの会社にも同じようにやってきた。危機に際してはどこの会社も同じように立ち向かわなくてはならなかった。

そうした状況のなか、トヨタは100点満点とは言えないが、適確な危機管理と危機対応をした。他の会社とは違う考え方と手法で危機に対処したから、決算を黒字にすることができたのである。

連載では危機に際して、トヨタの各セクションがどう動いて、危機を乗り越えようとしたかをまとめてある。

危機管理、危機対応についてはさまざまな本がある。だが、トヨタの危機管理を具体的に開陳したのはこの連載が初めてだ。

だから、「オレは偉いんだぞ」と威張っているわけではない。危機が来たら、もっとも適確に対処した例を知らせたいから、取材して書いたのである。組織、個人を問わず、連載のなかから、真似ができると思ったところは誰もが真似をすればいい。

会社であれば危機対応ができるし、個人であれば危機に際して家計を赤字にせずに、生活を維持、発展させていくことができる。

他社と比べて幾度となく危機に直面してきた

トヨタの歴史を調べると他社よりも危機に直面している回数が多いことが分かる。

創業期は自社設計を貫いたために、なかなか自動車を作ることができなかった。やっと自動車生産ができるようになったかと思ったら、第2次大戦が始まり、工場は軍需生産に転用を命ぜられた。戦争が終わって、やっと自動車を作ることができると思ったら、そうはいかなかった。金がなくて原材料を仕入れることができなかったので、アメリカ軍のジープの修理に終始した。

なんとか生産を再開させることができたと思ったら、今度はデフレで車が売れず、在庫が増えた。泣く泣く人員整理をして、会社を存続させることはできたが、創業社長の豊田喜一郎は責任を取って退任するしかなかった。その後、高度成長とモータリゼーションで一息ついたけれど、石油ショック、輸出増大による現地生産の開始などでまた危機に陥った。

やっと乗り越えたと思ったら、阪神大震災、リーマンショック、品質問題、東日本大震災、異常気象による台風、洪水の頻発、そして、新型コロナ危機である……。

ただし、トヨタは地面に叩きつけられた時に、こぶしのなかに土くれをつかんでから立ち上がる。手のなかにつかんだ土くれをじっくりと見て、くふうして加工して生かすことで、危機から立ち上がる。

わたしたちがまず真似をすべきなのは、転んでもただは起きないという精神だろう。これさえあれば、人は危機や失敗を乗り越えることができる。

私の誇りは「数知れぬ敗北から立ち上がったこと」

メジャーリーグ・ベースボール史上もっとも有名なニックネームを持つ選手とされているのがスタン・ミュージアルだ。

「The Man(ザ・マン 男のなかの男)」と呼ばれた彼はセントルイス・カージナルスに入団し、そのまま現役生活をまっとうしている。かつて劇画漫画『巨人の星』で引用されたのが、スタン・ミュージアルが現役を引退した時に語った言葉である。『巨人の星』のなかでは星一徹が息子の飛雄馬に語るセリフになっている。

「私の誇りは打率やホームランなどの数字ではなく、数知れぬ敗北とスランプから、その都度立ち上がったことだ」

トヨタも数知れない危機、不況、売れ行き不振、リコールなどに直面した。しかし、その都度、立ち上がって、乗り越えて強くなった。

スタン・ミュージアルのような気概を持って、危機に対処すればトヨタでなくとも、危機を乗り越えることができるし、また、その後、より強くなり、そして成長する。

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